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155 堕ちた者と向き合い続けた者

 フォパースが橙色の魔力を纏った拳を構えて突っ込んできている中、テンヤは必死に頭を回転させていた。


 力の神の拳を受け止められる素材なんて……。


 テンヤが必死になって頭を回転させている中、ラビッシュが飛んで来た方向からクールかつ淡々とした口調の声が聞こえてくる。


「ライトニング様と旧友だからって、会って間もないユキネの為に大胆な行動が出来るなんて、流石は始まりの勇者ね」


 レイラはテンヤ達に柔らかい笑みを向けながら、魔力を解放する。


 すると、テンヤ達とフォパースの間に藍色をした薄い水の膜が出現した。


「今度こそぶっ壊す!!」


 フォパースは勢いを殺す事なく、藍色をした水の膜を殴る。


 しかし、フォパースの拳は水の膜を破壊する事なく、その場に留まった。


 水の膜に勢いを潰されたフォパースは、そのまま落下していく。


「私の魂之力ソウルの理屈を理解しないと、貴方の攻撃は誰にも通らない」


 落下していくフォパースを見ながら、ミズキは言った。


 そして、水の膜に衝突したテンヤ達もゆっくり落下して行った。


「ふぅ〜、助かった。ありがとう」


 テンヤは、ミズキにグッドサインを送った。


 それを見たミズキは少し誇らしげな表情を浮かべていた。


 一方、ラビッシュの方はユキネが無事に目を覚ましていた。


「ありがとう、ラビッシュ」


「えへへ、どういたしまして。さぁユキネ、反撃開始だよ! ハルカさんは、森の中だから!」


 そう言って、ラビッシュはフォパースの所へと走って行った。


「ラビッシュは本当に元気ね」


 ユキネは我が子を見守る様な暖かい目でラビッシュを見送った後、森の中に歩を進めた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そして、ハルカ達とルークの方はと言うと。


「おい、お前の相手は私だぞ」


 巨樹が立ち並び、草木が生い茂る森の中で、ハルカが走ってルークに追いついていた。


「ハイハイ、分かりましたよ」


 ルークはめんどくさそうに溜息を吐きながら振り返る。


「私の魂之力ソウルは森の中で真価を発揮する。『森神之根鞭フォレスト・ウッドウィップ』」


 ハルカが地面に右手をついて魔力を流すと、ハルカの両脇の地面から太い木の根っこが出現し、ルーク目掛けてしなりながら迫った。


 音を置き去りにする程の速さで放たれる鞭は強い風で落ち葉を巻き上げながら荒れ狂う。


「そんなもの当たりませんよ」


 ルークは軽い身のこなしで二つの鞭を躱す。


 だがそんなルークを見て、ハルカは不敵な笑みを浮かべていた。


「狙いはこっちだ。『森神之葉機関銃フォレスト・オブ・リーブスガトリング』」


 ハルカは宙に舞っている葉っぱの中に、魔法で生み出した同じ種類の無数の葉っぱを紛れさせてルーク目掛けて放った。


「なるほど、確かに森の中に逃げたのは失敗でした」


 ルークは出来る限りの葉っぱを避けていたが、体の至る所に切り傷を作っている。


 普通の魔法なら、魔力探知で本物かどうか分かる。でも、流石にこんな小さな物の区別なんてしてられませんね。


 ルークはそんな事を思いながら、葉っぱの弾丸を出来る限り躱していく。


 それから暫くの間、ルークは葉っぱの弾丸に苦しめられる。


 そして、それが終わった頃には全身に大量の落ち葉を付け、至る所から血を流して息を切らしていた。


「ハァハァ、傷が治るって便利ですね」


 息を切らしているルークは、息を整えながら全身の傷を治して強がった。


「そうだ、お前に聞きたかった事があるんだ」


 ハルカは平静な面持ちで息を整え中のルークに話しかけた。


「何です?」


 ルークは深呼吸をしてから聞き返した。


「エルフは基本エルーリ山脈を出ない。ましてや、魔王軍に手を貸すなんてエルフの地位を落とす行為、絶対しない。お前も、自分の体を高貴と言っていたな。なら何故、お前は魔王軍に堕ちた?」


「ふっ、私が堕ちた? 笑わせてくれますね」


 ルークは嘲笑を浮かべた後、語り始める。


「私、自然が好きなんですよ、エルフと同等の美しさを持っているので。だから、何故山脈以外の自然に触れずに閉じこもっているのか理解できなかった。だから私は旅に出た」


「その旅で目にした光景に私は驚きましたよ。何故、エルフより下である筈の人間共の方が世界を満喫し、自然を破壊しているのか!」


 ルークは初めは淡々と話していたが、徐々に感情的な喋りに変わっていった。


「そこで気付かされたんですよ。この美しい肉体は、天に選ばれた証。山に篭って摩耗するだけの人生では無く、自然を守る為に生きるべきだと!!」


 そう言い放ったルークは一呼吸置き、落ち着いた口調でこう話す。


「だから、故郷と自然を一度捨てる覚悟で人間共と敵対している一番強い組織、魔王軍に入って魔将軍と成ったのです。ほんと、私以外のエルフは行動力が無さすぎて恥ずかしい……」


 そう言ったルークは、ハルカの方を見て再び興奮状態で話し出す。


「その点、貴方は旅に出ていて実に素晴らしい! それに、貴方も魔族と仲良くしたいんでしたよね? 今からでも遅くありません。魔王軍に入りましょう」


 ルークは優しい口調で言った。


「お前のそれと一緒にするな、傲慢野郎」


 ハルカは嫌悪感剥き出しの冷たい視線でそう言い放つ。


「あまり熱くなりすぎないで下さいね」


 ユキネは口元を手で隠し、お淑やかに笑いながらハルカの隣まで歩いて行った。

 その体からは、常に冷気が放出されている。


「良かった。無事だったんですね」


 ハルカは明るい表情でそう言った。


「はい」


「確かに。世間的に見れば、私より貴方達の方が人格者だ。ま、元から私の道が悪だと言うのは承知の上ですが……」


 そう言った後、ルークの纏う空気は一気に重たくなった。


「だが、お前には悪に成ってでも貫きたい信念があるか? 故郷や自然を捨ててでも見たい景色がお前にあるか? 私にはある!」


 ルークは全身に闇を纏い始めている。


「そう、エルフが魔法で世界を支配し、完全なる高貴な存在と成った景色を、私は見たい!!」


 そう叫ぶと、ルークの後ろに『星神巨樹の森(ヴァラ・ヴァルト)』全体に匹敵する程の大きな黒い光球が出現し、ルークの背中には闇で出来た黒い翼が生えてきた。


 黒い太陽を背にハイになっているルークの姿からは、一切エルフの高貴さなど感じなかった。


 それどころか、黒い光球に照らされながら黒い翼を生やして不気味な笑みを浮かべているルークは、まるで世界の終わりを告げに天界から降りてきた堕天使の様であった。


「私は魔界の魔族を貴方以上に見てきた。その上で言います……」


 ルークは不気味な笑みを浮かべながら語り始めた。


「魔界の魔族と外界の魔族が手を取り合うなど、この星が滅びるその日であってもあり得ません」


 ルークは黒い翼で上空に飛び上がりながら言った。


「黙れ! 悪に堕ちた価値観で私の夢を否定するな! 過去も現在も未来も全て背負いながら、私は夢に向かって進み続ける!!」


 ハルカが感情に任せて体を動かしながら怒った為、金髪ロングが激しく揺れた。


「ちっ、優しく教えてあげてるのに。なら良いでしょう……」


 禍々しく燃える黒い光球の真下まで来たルークはピタッと止まってハルカを見下した。


「信念の強さは私の方が上! 強い者が勝ち、勝った者が歴史を作る権利を手にする!!」


 ルークは黒い翼を広げ、右腕を掲げた。


「聖なる力は悪に滅ぼされる。『終焉之黒光球(絶望の光)』」


 ルークがそう言いながら右腕を勢い良く下す。


 すると、大きな黒い光球は『星神巨樹の森(ヴァラ・ヴァルト)』目掛けて落下して行った。


 そんな光球の前に力強いピンク色の瞳を保ちながら堂々と立っているハルカ。


「堕天使の如きエルフよ、愛する自然に抱かれて葬られろ。『森神之薔薇茨フォレスト・オブ・ローズチェーン』」


 ハルカが地面に両手をついて魔力を解放すると、地面から所々に薔薇の咲いた無数の茨が生え始めた。


 無数の茨は更に伸び続け、空中に浮いているルークの体に複雑に絡みついていく。


 絡みついた茨は両手を横に伸ばしきり、両足を強く締め上げ、ルークはまるで磔刑の様な体勢で茨を白皙の肌に突き刺されている。


「今度は逃がさない!」


 ホノカは殺意に満ちた赤い瞳でルークを睨んでいる。


 ルークに絡みついている茨は、締める強さを更に上げ、ルークの背中に生えている闇の翼をへし折った。


「ふっ、私を捕まえても絶望は止まらないですよ!」


 ルークは先程まで見下していた相手に捕えられたと言う現実に、血を流しながら気を乱して荒ぶっている。


 その間にも、大きな黒い光球は森へと落ち続けている。

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