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153 国落とし

 時を同じくして、ラスファート北西区。


 そこで北西区担当のラストナイト、マテオ・ワトレンとエミリアが、工場が立ち並んで排気ガスが充満している空気の中で刃と大鎌を交えていた。


「ふん!」


 エミリアは大鎌を横一線に振り払った。


「小さな体なのに、良く振り回せますね」


 マテオは後ろにジャンプして回避しながら、黒炎の鍔をした白い剣に緑色の風を纏わせた。


「そろそろ終わりにしましょう。安心してください、痛くはしません……。『無風之地獄(ゼロの風)』」


 マテオは後ろに下がりながら、剣を縦に振った。


 すると、緑色の風斬撃が轟音を上げながらエミリアに斬りかかって行った。


 だが、エミリアは不敵な笑みを浮かべる。


「ふっ……」


 エミリアが胸に手を当てると、そこから金色の魂が飛び出してきて、エミリアの前に炎熊フェルアーが出現して風の斬撃を受け止めた。


 斬撃を受け止めた炎熊フェルアーは、悲鳴を上げる事なく、その場に立ち尽くす。


「ちょっと、炎熊フェルアー動きなさいよ」


 エミリアは炎熊フェルアーに近づいて命令したが、動く事はなかった。


「ちっ、どう言う事だよ。戻れ……」


 エミリアは溜息を吐きながら、炎熊フェルアーを自身の魂に戻した。


「油断は禁物、ですよ!」


 溜息を吐いているエミリアの背後へ、白い剣に緑色の風を纏わせたマテオが接近していた。


「無駄な事を……」


 マテオがエミリアの首目掛けて剣を振ったその瞬間、右横の視界に突然巨大狼(ジャイアントウルフ)が現れ、マテオの握る剣先に噛み付いた。


「くっ、離せ!」


 マテオは巨大狼(ジャイアントウルフ)の口から剣を引き抜こうとするが、マテオの力では狼の顎の力に勝てない。


 そのままマテオが巨大狼(ジャイアントウルフ)に構って姿勢を低くしたその時、大鎌の柄がマテオの左側の視界に映った。


 そう、エミリアの持つ大鎌の刃が、マテオの背後に回ってうなじを捉えたのだ。


「っ! 多対一は難しいですね……」


 マテオは自身の事を見下しながら大鎌の持ち手の先を握っているエミリアを見上げて苦しい表情を浮かべた。


「エミリアがこのまま大鎌を手前に引けば、お前の首は切断される。だが安心しろ、お前は強いから私の中で生き続けさせてやる」


 エミリアはそう言って、大鎌を手前に引いた。


 その時、エミリアの左側からミアの声が聞こえて来た。


「吹き飛ばす!」


 透明な何かがエミリアの左頬に当たり、エミリアは右へと吹き飛ばされる。


 その時、エミリアが意地で大鎌を手前に振った事で、マテオの首筋には小さな切り傷が出来た。


 そしてマテオの目の前には、透明状態を解除したミア達ロイヤルティーナイトが、ライダーヘルメットを被り、各々の武器を手にした特徴的な姿で堂々と立っていた。


「貴方達は……」


 マテオは首筋に出来た切り傷を抑えながら立ち上がる。

 そして、ミア達の服装と特徴的な武器を構えている姿を見て、ホッとした表情を浮かべる。


「話しはフィオナ様から聞いております。私はこの地区に侵入している魔物の駆除を優先する。この魔族は頼みましたよ」


 マテオはそう言って、何処かに走って行った。


「やってくれたな、2番目共。エミリアに勝てた試し無いだろ?」


 エミリアは暗い赤色の瞳で、月明かりに照らされているミア達を睨んだ。


「そうだね。でも、アタシ達は勝ちに来てる。今日で決着を付けよう、エミリア」


 ミアは、ロイヤルティーナイトのセンターで堂々と言い放った。


「ふっ、乗ってあげる」


 そう言ったエミリアは、胸に手を当てて目を瞑る。


「亡霊全解放……」


 エミリアの胸元から、様々な色をした数万にも及ぶ魂が北西区に解き放たれ始める。


「さぉ皆んな、国落としを始めよう。『亡霊之行進(カース・パレード)!!』」


 エミリアがそう言い放つと、ロイヤルティーナイトの前には数十体に及ぶ様々な色をした魂達が金色の体を形成しながら立ち上がった。


「数に圧倒されないで。テンヤの発明品を持っている今のアタシ達なら勝てる!」


 ミアは手袋の異空間に繋がる穴から碧い短剣を取り出し、ロイヤルティーナイトを鼓舞した。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 舞台はラスファート北東区のスラム街。


 そこの少し開けたバスケットコートのある広場で、ライアン・デストレーとマーシ達が、セイカと剣を交えていた。


「崩壊は止められない。『灰壊之滝登(ドラゴン・コラプス)!』」


 セイカの懐に入ったライアンは、居合の構えから灰色の水で作られたドラゴンを纏わせた白い剣を振り上げた。


 灰色のドラゴンがセイカの左腕を通り過ぎる。


 セイカの左腕は青い軍服ごと切断部分から灰色に変化しながら、宙を舞った。


「ちっ」


 セイカは腕を切断されたのにも関わらず、少し舌打ちしただけでライアンから距離を取った。


 一方、吹き飛ばされたセイカの左腕は崩壊しながらサイズが徐々に小さくなっていき、最終的にはバスケットゴールに吸い込まれていきながら塵も残さずに消滅した。


「へっ、兄ちゃんやるじゃねぇか」


 マーシはバスケットゴールを遠目に眺めながら微笑して上から目線で言った。


「ナイシュー」


 ステラはライアンにグッドサインを送りながら、小さく言った。


「うるせぇ、ヒョロガリ共」


 ライアンが鬱陶しそうにマーシを払いのけていると、そこに雷鳴スーツを着た女性がやってきた。


「君達は……」


 悪滅光爆剣デストライトソードを腰に携え、赤髪ロングを夜風に靡かせているホノカは、マーシとステラを見て驚いていた。


「おぉー。あん時は大金くれてあんがとな」


 マーシはホノカの顔を見て、思い出したかの様に礼を言った。


「いやあの時は、大金を払ってでも足のつかない素人から世界地図を書く情報を手に入れたかっただけだ。別にお前達に礼を言われる事はしてない」


 ホノカはそう言いながら、左腕を切り落とされたセイカの前に移動している。


「何だ何だ? ホノカ、この貧乏人達に金を恵んでやった事があるのか? やっぱりホノカは優しい子だな」


 セイカは気持ち悪い笑顔を浮かべている。


「うるさい、私はもう覚悟が出来てる」


 ホノカは白く輝く刀身を引き抜き、セイカに向ける。


 剣を握るホノカの瞳は、烈日の如く赤く燃え上がり、眼前のセイカが熱気を感じる程の威圧を放っていた。


「ふっ、兄ちゃんを殺す覚悟が、か?」


 セイカは煽る様な笑いを浮かべながら、左腕の切断部分に水色の炎を当てた。


 すると、セイカの左腕と青い軍服は見る見るうちに元に戻る。


「そうだ!」


 ホノカはハキハキとした大きな声で言い放った。


 それを聞いたセイカは嬉しそうに笑う。

 その間にも、セイカの左腕と軍服は修復されていっている。


 そして数秒後には、左腕も軍服も完全に元に戻った。


「ハッ!? どうやって治したんだよ?」


 ライアンは確かに己の魂之力ソウルで斬った筈の軍服と左腕が修復されたのを見て驚愕していた。


「俺の魂之力ソウルは時間を操れる。故に、自身の体と軍服の時間を巻き戻して修復した」


 セイカは自慢げに左腕を掲げてそう話した。


「怪物が……」


 ライアンは冷や汗を流し、無意識に一歩下がっていた。


 マーシ達も同様に、警戒心を強めている。


 そんな戦場に力強い声が木霊する。


「恐れる必要は無い! 何せこっちは人数有利に加えて、私にはこの剣がある!」


 ホノカは白く輝く悪滅光爆剣(デストライトソード)をセイカに突きつけながら、ライアン達の背中を押す様に大きな声で言い放った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 場所は『星神巨樹の森(ヴァラ・ヴァルト)』の北側。


 そこでは、未だユキネはフォパースに首を掴まれており、周りに居るハルカ達は動けずに居た。


 そんな中、ルークの高笑いが聞こえてくる。


「クク、クハハハハッ。狐獣人、貴方も高貴な種族に生まれながら、何故そんなにも脆いのだ」


「ま、私は既に貴方達裏切りの種族(温室育ち)とは格が違いますね」


 ルークは金髪を靡かせ、カッコつけている。


「おっと、魔王軍所属の魔界の魔族なら、裏切り者の死をもっと喜ばないと……」


 ルークはニヤニヤと悪魔の様な笑顔を浮かべてユキネを見ていた。


 そんな姿を見て、ハルカは溜息を吐く。


「はぁ、お前はとうにエルフでは無く、魔界の魔族に染まりきってる……」


「あの時、私の両親を殺した魔族みたいだ!!」


 ハルカは殺意の籠った鋭いピンクの眼光でルークを睨みつけている。

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