151 勇者パーティー決戦の地
舞台は大地の戦火を見守っている月下の一つ、未だ平和なラスファート。
そこの王城エリアにある『魔剣士魔法総合国立学園』の校庭では、深夜にも関わらず、寮生と数人の先生達が集められていた。
その中に居るセレストが、隣であくびをしているサラに話しかける。
「ねぇサラ」
「何?」
サラは、いつもなら寝る時間だからか、不機嫌な表情でセレストを見た。
「こんな深夜に寮生と先生を集めるってさ、最近噂になってた魔王がこの国にやってくるっての。本当だったんじゃない?」
セレストは興奮気味に身を乗り出して話した。
「まぁその可能性はあるわね。そもそも、魔剣士の生徒に木刀とかじゃ無く、本物の剣を持たせてる時点で何かと戦うのは想定して集めてるっしょ」
サラは、セレストの勢いに押されて身を引いた。
「でも魔王が来るなら勇者も来るだろうし、中央区にはフィオナ様が居るからね。私たちの出番は流石に無いと思うな」
サラは、柄がピンク色の剣にそっと手を置きながら、セレストに柔らかい笑顔を向けた。
「もう、ノリ悪い〜」
セレストはつまんなさそうな表情でそう言った後、溜息を吐きながら夜空をふと見上げる。
その瞬間、夜空に途方も無い数の魔力が出現した。
「え? あれって雨じゃ無いよね?」
そう言うセレストの視線の先には、月明かりが照らす夜空から、黒い魔力が雨の様にラスファートに降り注いでいた。
「生徒の皆さん! 先生の皆さん! 戦闘の用意をしてください!!」
年老いた白髪老人の校長先生らしき人物がそう叫ぶと、魔剣士の先生達は一斉に魔剣を抜いた。
それを見た生徒達も、次々に魔剣を抜いていく。
そして、アビスの降り注いだ黒い魔力が、学園の校庭に着地した。
「私達の任務は、この王城エリアを守る事」
校長先生が話している間に、続々と黒い魔力から様々な魔物が群れとして表れ続けている。
その数、ざっと二百体以上。
「他の地区は、自由教会やラストナイトの人達が担当してくれます。ですので、皆さんはただひたすらに、眼前の魔物を倒してください!」
校長先生がそう言うと、魔剣を手に持った先生達は一斉に魔物の群れに突っ込み、魔法を使う先生達は、遠距離魔法で攻撃を開始した。
後ろでそれを見ていたセレストやサラ、そして他の生徒達も、戦闘を開始した。
そんな中、空気にぶつかる衝撃音が響き、次第に風を切る音が近くなってくる。
「何だろう?」
大蛇の魔物の首を切り払ったサラは、風の音がする空を見上げた。
その視線の先には、夜空に目立つ白髪を揺らしながら物凄い速さでラスファート王城に突っ込むアビスの姿があった。
それから数秒後。
アビスは修復途中のラスファート王城の壁にスピードを落とす事なく衝突した。
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時を同じくして、ラスファート南の上空。
そこで亡霊のドラゴンに乗っているエミリアとセイカは、アビスの城への到着を皮切りに動きを見せる。
「そのドラゴン、降りたら勝手に暴れてくれるから」
エミリアがそう話していると、アビスの乗っていたドラゴンが、ラスファートへと突撃して行った。
「了解、俺は北東区に行く」
セイカはそう言い、ドラゴンに乗ったままラスファーの北東へと向かって行った。
「さ、私は北西区を攻め落とそっと」
エミリアは楽しそうにそう言って、ドラゴンを北西区の方へ飛ばせた。
それを更に上空から見下ろしていたライトニングは、一度東南区に降り立った。
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東南区に降り立ったライトニングは、建物の陰に入った。
「ホノカ、ロイヤルティーナイト、出て来い」
ライトニングがそう言うと、柄が金色に輝いている悪滅光爆剣を腰に携えたホノカと、ライダーヘルメットとバイクグローブを装着したミア含むロイヤルティーナイト全員が、ライトニングの影から出てきた。
「お兄ちゃんは私が止める」
ホノカは覚悟の決まった赤く鋭い眼光でそう言い放ち、雷のマークが散りばめられた漆黒のスーツで影に紛れながら、北東へと走って行った。
「エミリアと私達は、昔から犬猿の仲だった。決着を付けに行くわよ」
ミアは不敵な笑みを浮かべながら、ライダーヘルメットと手袋と靴に魔力を流し、自身の姿を透明へと化した。
ブラント達ロイヤルティーナイトは、静かに頷き、ライダーヘルメットと手袋、そして靴に魔力を流し、ライトニングの前から消えた。
「シエル、アイ、カルラ」
ライトニングが呟くと、影の中からシエル達三人が出て来た。
「お前らはこの城を守り、近づいてくる敵が居たら殲滅せよ」
「「了解致しました」」
シエルとカルラは、真剣な面持ちで返事をした。
「りょーかいです」
アイはほんわかとした笑顔を浮かべている。
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「ハハッ、遂に辿り着いたぞ……」
壁を破壊した時に汚れてしまった綺麗な白髪を掻き分けながら、アビスはフォパースが四週間前にラスファート王城の中心に開けた大穴を覗き込みながら嬉しそうに微笑していた。
「ふっ、随分嬉しそうだな」
嬉しそうに大穴を覗き込んでいるアビスの背後から、悍ましい声が夜風に乗って聞こえてくる。
「やっと動く気になったか、ライトニング……」
月光に照らされた美しい姿のアビスが振り返り、不敵な笑みをライトニングに向けながら睨んでいる。
「あぁ。空の上で勝負を挑んでも、お前の近くにいた魔将軍に邪魔されるだけだ。我は、ただ勇者パーティーをお前との決戦の場に導きたかっただけだからな」
同じく心身を極限まで鍛え抜いたであろう漆黒に染まった全身に黄色と悍ましい仮面が映える猫獣人と、二本の金青色の角を生やし、夜空に映える白髪と白い瞳をした魔王が、夜風に正反対な色の髪を靡かせながら、月下で静かかつ不敵に睨み合う。
数秒の静寂の後。
決戦の火蓋を切ったのは、ライトニングだった。
「ディストラ……」
そう呟くと、ライトニングの影からゼーレとレイラがアビスの前へと投げ飛ばされて出てきた。
それと同時に、ライトニングの居た場所に漆黒の雷が一筋落ちる。
「うわぁ〜」
落雷の煙の中から、大きなリュックを背負ったライムが飛び出てきた。
「イテテ」
ライムは頭を抑えていた。
「ライムもちゃんと連れてきてくれたのか」
ゼーレは白い剣を鞘から抜き出しながら、勇ましい表情でアビスのアビス前に出る。
「影の中に入った時は焦ったけど、ライトニングも魔王軍に敵対してるのは知ってたからこうなるのは分かってた」
レイラも魔法の杖を強く握りしめながら、アビスを青い眼光で睨んでいる。
「僕も、準備は出来てる」
ライムは大きなリュックを地面に置き、漆黒の剣を鞘から抜き出してアビスに向けた。
「ハハッ、ライトニングが消えたのは残念だが、まずはこの時代の小手調べに遊んでやる。この時代の勇者パーティーよ、我を楽しませてくれ」
アビスは指をボキボキと鳴らしながら、不敵な笑みを勇者パーティーに向けていた。
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それから数分後。
ラスファートから少し南にある小さな森。
そこでは、サンダーパラダイス戦闘員達が、ソフィアの手を借りながら魔物と戦っていた。
ダンジョン近くの草花や木々には、魔物やサンダーパラダイス戦闘員の血が飛び散っており、森の至る所で魔物かそれ以外かの区別がつかない悲鳴が響き続けている。
そんな中、ソフィアはダンジョンの入り口である大きな扉の前で、サンダーパラダイス戦闘員のエルフの男から魔力を貰いながら、剣等の武器や包帯等の医療具を創造魔法で作り続けていた。
「武器や包帯とかは、魔力さえ貰えれば幾らでも作れる。だから、私の事をちゃんと守ってねー!」
ソフィアは血が流れる戦場に怯えながら、創造をし続ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数分後の魔界の南にある海岸。
そこでは、純白のボディースーツに身を包んだ『ヘルホワイト』100名程と、その隣には白基調に赤の装飾が施された軍服を着ている『烈日之帝王軍』所属の軍人700名程が堂々と軍旗を掲げて列を成していた。
「なぁ、流石に俺達とあちらの軍人とじゃ戦力が違いすぎて共闘って感じしないんだけど」
ヘルホワイトの隊列に並んでいる緑髪で中年の男が、隣に並んでいる筋骨隆々な黒髪に黄色の瞳をした男に小さな声で話しかけた。
「しゃあねぇだろ? うちらは結成して間もないんだから」
黒髪の男がそう言いながら見つめる先には、『烈日之帝王軍』の隊列の最前列で堂々と軍旗を掲げているエレナの姿があった。
「リアム君、何で私此処に居るんだろ?」
エレナは隣で立っているリアムに小さな声で話しかけた。
「仕方ないですよ、元々スラム暮らしの過酷さに耐えれるメンタルに、ホノカさんの個人特別特訓が加われば、一気に強くなってしまいますよ。僕もその内の一人ですし……」
リアムは腰に携えている剣に手を置いて、キリッとした表情で前方を綺麗な翠眼で見通している。
「あれは……」
リアムがそう呟く先には、暗雲立ち込める上空を優雅に飛んでいる白龍と、その下では幾万もの魔族と魔物の大群が近づいて来ていた。
白龍を目の当たりにしたヘルホワイト達や軍人達はざわつき始めた。
「落ち着いて下さい、あの龍は当初から見逃す予定です。私達は陸上の魔物に集中しましょう!」
エレナがそう叫ぶと、辺りは静まり返った。
その上空を、白龍ソルが咆哮しながら飛び越えていく。
それを見届けたリアムは一呼吸置き、剣に手を掛ける。
「中には泳ぐのが得意な魔物もいるからな、対岸で控えている人達が暇になるぐらい殲滅するぞー!」
リアムが剣を天に掲げてそう叫ぶと、周りの人達も武器を掲げて魔族と魔物の大群へ進軍して行き、戦闘を開始した。