148 転生した中二病、魔王の元まで勇者達を導かん
ライムとアンナが眠りについた頃、ヒストア王国外れに建てられているヒストア図書館。
その中にある王城のライム達がオスカー王と初対面した部屋で、オスカーが震えた手で大量の書類にサインをしていっていた。
そこに、サラサラの生地をした白と黄色のパジャマを着ているクロエが、お風呂上がりの紫ショートヘアをタオルで拭きながら入って来た。
「お父さん、もう歳なんだから早く寝たら? それにその手の震え、まだ病み上がりみたいな状態なんでしょ?」
タオルを首に掛けて、クロエはそっとソファーに腰掛ける。
「心配かけてすまない。だが、ワシはまだまだいける。決戦までに、我が国に眠っている歴史を外に出さなければ、それがこの国の王が背負うべき責務だから」
オスカーは、優しい口調でそう言いながらも、凛とした水色の下三白眼で書類を見つめながらハンコを押し続ける。
「ハァー。私はもう寝るから、お父さんも程々にね」
クロエは父親の真面目っぷりに呆れて溜息を吐きながらソファーから立ち上がった。
「私を一人にしないでね」
クロエは淋しそうな暗い表情でそう呟きながら!部屋を出ていった。
「心配させてすまない、クロエ」
オスカーは届かぬ言葉を呟き、その後も書類にサインを書いていった。
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それから四日後の夜11時。
勇者パーティーとタリア達は、魔王城付近まで到着していた。
「そろそろ地平線に魔王城が見えてくる距離だと思うよ」
タリアは、地平線を指差しながらノリノリでライム達の先を歩く。
「タリア、前を見て歩きなよ」
シュティモスは呆れ笑いを浮かべていた。
「へへっ。そろそろ魔王城に着くってなったら、何かテンション上がっちゃってさ」
タリアは白いスポーツキャップの鍔を軽く抑えながら、笑顔で振り向いた。
「ま、そう言う心持ちで居てくれる方が頼もしいな」
ゼーレが堂々とした表情でそう言っていると、タリアの背後に突然長身イケメンの男が現れ、タリアは男の胸部に頭をぶつけた。
灰色ショートヘアに、ジト目気味だが視線が引き込まれる赤黒く美しい瞳。
赤と黒の2色に染まった半袖半ズボンの甚平を着ていて、程よく筋肉の付いた白皙の肌が露出している甘いマスクの男。
突如現れた男を見て、勇者パーティとタリア達は臨戦態勢に入る。
「これはこれは、勇者パーティーの皆さんじゃないか。そちらの二人はどうしたのかな?」
「お前、何処から湧いて出た?」
「勇者ともあろう者が、口が悪いな」
男は余裕の笑みで言葉を返す。
そんな男を見て、ライムは違和感を覚えていた。
この感じ、最近にもあった気が……。
ライムが頭を回転させていると、男の方もライムを見て何かを感じ取っていた。
「ん? もしや……」
男はそう呟いた後、誰も反応出来ぬ間に、ライムの真隣に移動した。
「初めて会った時は邪魔が入ったせいで気づけんかったが……」
男はお互いの息が掛かる程顔を近づけながら、ある女の声でそう話す。
「ふふっ、ただの暇つぶしが、運命の始発点だったとは。今回の戦い、予想以上に楽しめそうじゃ」
その口調と声色は、妖艶でいて圧倒的自信が伝わってくる様な、この前聞いた絶望神ディヒルアの物だった。
「じゃが、性別に惑わされて誰か分からなくなっていては、先行きが不安じゃな」
っ! ディヒルアか!!
ライムが気がついた時には、既にディヒルアは姿を消していた。
無限を司ってるからって、あまりに無法すぎる力だな。
ライムは顔を俯かせて、不敵な笑みを隠していた。
「ライム、大丈夫?」
そんなライムを心配し、レイラが心配そうな表情で顔を覗く。
「あぁ大丈夫だ。ここで立ち止まってる暇なんで無い。先を急ごう」
ライムは顔を上げてそう言った。
「そうだな。ナハトが言っていた決戦の日は今日だ、気を引き締めていこう」
ディヒルアと接触すると言うアクシデントはありつつも、勇者パーティーとタリア達は魔王城目指して歩を進めて行く。
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それから一時間後。
勇者パーティーとタリア達は、魔王城の目の前まで到着した。
「これが魔王城……」
ゼーレ達が見上げる先には、天守閣がある白と黒、そして金色で塗装された大きな日本城が月光に照らされて聳え立っていた。
魔王城って言うぐらいだから、洋風なのを想像してたけど、こんな和風のお城だとは。
ライム達は、魔王城の堂々たる姿に圧倒されながらも、中へと入って行った。
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「いやいや、何でこんなすんなり入れたんだよ!」
魔王城内部にある暗い洋風な廊下で、ゼーレは叫んでいた。
「今思えば、『星神巨樹の森』から魔王城まで、あまり魔物と出会わなかった……」
タリアはこれまでの旅路を思い返しながら呟いた。
「これは、罠ね」
足が疲れたのか、レイラは少し後からゼーレ達に追いついた。
「その可能性は高いよ。『星授之掌握空間』で空間探知してるけど、生き物の気配は零だから」
シュティモスは辺りを警戒しながら伝えた。
それは多分……。
ライムは少し考え事をした後、皆んなに提案する。
「皆んな。取り敢えず、城の最上階にあるであろう玉座の間に行こう」
「そうね」
レイラは魔法の杖をつきながら、先を歩いて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
十数分後。
勇者パーティーとタリア達は、玉座の間の扉前に立っていた。
「開けるぞ……」
ゼーレは玉座の間に入る為、大きな鉄の扉を開けた。
「誰も居ない……」
タリア達は、警戒しながら玉座の間を進んでいく。
すると、突然ライム達の前から声が聞こえて来た。
「加速する時こそ、真の最速……。全てを置き去りにしろ、『時神之加速燐火憑依』」
セイカの声の後、今まで目の前に居なかった魔将軍と魔王二人、そして邪神の二人とある妖艶な女性が燐火を纏った姿を現した。
妖艶な女性は、銀髪ウェーブロングヘアに赤黒い瞳。
白と銀で落ち着いた配色の着物を着ていた。
そんな妖艶な女性を、ライムは睨んでいる。
「では頼んだぞ、エミリア」
燐火を纏っているアビスはエミリアにそう言いながら、ゼーレ達に背を向けた。
「仰せのままに」
アビスに頭を下げたエミリアは、自身の魂から三体のドラゴンを目覚めさせた。
その三体のドラゴンの上に、アビスとセイカ、そしてエミリアが乗る。
そんなエミリア達を見て、勇者が動く。
「っ! 何処にも行かせない!!」
ゼーレは白い剣を鞘から抜いて白い光を纏わせ、ドラゴンに乗っているアビス目掛けて走り出す。
「へへっ、流石は勇者。怖気付くと言う言葉は辞書に無いか!」
そんなゼーレの前に、赤い風を拳に纏わせたガルノが燐火の効果で素早く前に立ち塞がる。
「どけー! オーガ!!」
ゼーレの白い光を纏った剣とガルノの赤い風を纏った右拳がぶつかり、突風を巻き起こす。
他の魔将軍や邪神の二人、そして妖艶な女性はそんな光景をただ傍観していた。
レイラやタリア、そしてシュティモスは、後ろに控えている魔将軍や邪神二人、そして妖艶な女性を警戒、いや恐れてしまい、足がすくんでいた。
だがそんな状況の中、一人の最強が動こうとしていた。
やはりあの女の放つ異質な存在感、ディヒルアで間違い無い。
ま、今は何もしてこなさそうだし無視で良さそうだな。
ライムはディヒルアから視線を外し、一息付いた。
「こうなるのは分かってたからな……。ロイヤルティーナイトは隠しといて正解だ。裏切り者が出てきたらもっとややこしくなってただろう」
ライムは黒に金色のインナーカラーが入っている前髪を掻き分けて不敵な笑みを浮かべている。
「さて、ゼーレとレイラ。我がお前達を魔王の元まで導いてやろう……」
レイラ達がアビス達に気を取られている中、小さく呟いたライムが自身の影に覆い被さられた。
「な、何? ライム大丈夫!?」
レイラはライムの異変に気づいて、影に触れようとした。
レイラが影に片手が触れかけたその瞬間、低く悍ましい音吐で誰かがこう言った。
「神授大戦の狼煙を上げるのは我だ……。『雷神器之黒衝撃!!』」
その声と共に、影に向かって一筋の黒雷が落ちる。
レイラは尻餅を付いて、ライムを覆った影は散り、中から雷鳴スーツを着ていて、右手には漆黒の剣を持っている悍ましい仮面を付けたライトニングが、黒雷と共に姿を現した。
落雷の衝撃音で、ゼーレとガルノは一度距離を取る。
「お前、雷鳴の猫王、ライトニングか!」
ライトニングが現れた瞬間、今の今まで傍観者を貫いていたフォパースがいきなり声を発した。
「ふっ、大陸への内通者が居なくなった事で、情報が古いんじゃ無いか?」
ライトニングは、フォパースを仮面の下で嘲笑し、漆黒の剣に黒雷を纏わせた。
「我は勇者を陰から魔王の元へ勇者達を導く組織、サンダーパラダイス盟主、雷鳴の覇者ライトニング……。漆黒の雷で全てを破滅させる者」
ライトニングはそう言い放つと共に、その場に居る全員に破滅を連想させる様な漆黒の雷を玉座の間全体に漂わせた。
「サンダーパラダイス最終任務開始……」
ライトニングがそう呟くと、影の中からツカサとユキネを覗く雷鳴スーツを着た虹雷剣、テンヤとアカネ、そしてリサとサリファが飛び出した。
「ホノカ、来てくれたか。ナハトはホノカが倒せ」
ドラゴンに乗っているセイカが、ホノカを見下ろしながら言った。
「ふっ、悪いな。私が倒すのはお兄ちゃんだ!」
ホノカは鋭く赤い眼光でセイカを睨んでいる。
「それはそれで楽しみだ。だが、俺の早さについて来れるかな?」
セイカはそう言って、ドラゴンの横腹を蹴ってブレスを吐かせた。
そのブレスは魔王城の壁を突き破り、魔王城に月光が差し込む。
それを見たアビス達を乗せている他のドラゴンが魔王城から北へと飛んでいき、セイカを乗せているドラゴンも、北の空へと飛び上がって行った。
「じゃ、オレの方も始めるか」
ナハトはそう言って、自身の右手に白雷を纏わせた。
「全てを無に帰す純白の弾丸、『絶望神之虚無白雷弾丸』」
ナハトが軽く右腕を薙ぎ払うと、白雷の銃弾が轟音と共に放たれ、魔界の北にある万物を通さない黄色く半透明な壁とイビリーズ村の南にある同じ性質の壁を貫き、消滅させた。
「後、お前も起きろ」
左手を掲げ、刻まれている白い紋章が光を放つ。
すると、悍ましい雄叫びと共に、魔王城が揺れた。
その後、直ぐに再び魔王城の何処がぶち破られて揺れた。
その数秒後。
アビス達が飛んで行った穴から、大きな白い龍が目を光らせて覗き込んできた。
「ソル、お前は南に行け」
ナハトの命令を聞いたソルは、直様南へと空を駆けていった。
その一連の流れを、勇者パーティーとタリア達、そしてサンダーパラダイスは見上げる事しか出来なかった。
だが、そんな中でもライトニングだけは次の行動を始めている。
「ディストラ、やれ」
そう命令すると、ライトニングの影がまだ現状を理解できていないゼーレとレイラを飲み込み、影の中へと誘った。
「私も入らせてもらうぞ」
そう言って、ホノカはライトニングの影に飛び込んだ。
「貴様ら、タリアとシュティモスだったか。『星屑之衆』の名に掛けて魔王ナハトを足止めしておけ。他の者は全て我の部下達が相手する」
タリアとシュティモスの前には、雷鳴スーツに身を包んだ圧倒的な存在感を放つ虹雷剣やテンヤ達、そして顔を隠しているリサ達が月光の元、魔将軍達と見合って立っていた。
「っ! ……、了解した」
タリアは少し戸惑いはしたものの、直様双剣を鞘から抜いて、ナハトに向ける。
「これも、勇者を魔王城までサポートする役目の延長線て事ね。魔王との戦いとか燃えるじゃん」
シュティモスは縦長の大きな黒いリュックを床に置いて、自身に満ち溢れた桜色の瞳でナハトを見据えながら両手で背伸びした。
「始めよう、この旅の終極を……」
そう言った漆黒の雷を纏ったライトニングは、魔将軍や邪神二人の頭上を飛び越し、魔王アビス達の後を追う為、月明かりに照らされた夜空へと舞い上がったのだった。
決戦、当日!
サンダーパラダイスが陰からサポートしていた勇者パーティーが、遂に魔王アビスの元に辿り着きました。
そして、次の章が最終章になります。
今までの旅全てが繋がり、人の思いが交差し、一つの時代のが終わりに向かっていく。
そんな章になるので、ぜひ最終話まで読んでいって下さい。