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143 荒れ狂う深海の殺戮マシーン エオレルカ

 雷雲に覆われたレイキル海にて、エオレルカの群れに遭遇したライム達一行は、海中から飛び上がったエオレルカに視線を奪われていた。


「あれが、『深海の殺戮マシーン』……」


ゼーレがそう呟いていると、隣に居たライムが漆黒の剣を片手に握りながら一言放った。


「まずは一体目、行くぞ!!」


 その言葉でゼーレの闘志は燃え、白い剣を素早く鞘から抜き出し、ライムとゼーレは海中から飛び上がったエオレルカ目掛けて突進して行った。


「足場は私が作る」


 レイラは空に魔法の杖を向け、水で出来た足場を十数個展開した。


 ライムとゼーレはその足場を伝って一瞬でエオレルカの目の前まで移動し、剣に魔力を込める。


 そしてライムは雷の獅子を、ゼーレ白と黒の魔力を見に纏っている。


 エオレルカの方も、口を大きく開け、紫電を凝縮して撃ち放とうとしていた。


「実体があると言う事は、雷も普通に効くだろ? それに、判断が遅かったな! 『獅雷之牙ディヴァウアー・サンダーファング!』」


 ライムはそう言い放ちながら、漆黒の剣をエオレルカのお腹に突き刺した。


「生と死の狭間で狂え。『天地墜昇命操カオスライフ・オーバーヒート!』」


 ゼーレも、白い剣をエオレルカの頭に突き刺して白と黒の魔力を流し込んでいる。


 そして、ライムの雷獣にお腹を食い破られ、ゼーレの命操る魔力で生と死を幾度と経験したエオレルカは狂った様な雄叫びを上げながら、海へと落ちていった。


「何でこいつらは、勇者の光を恐れないんだよ」


 オーバートロカム号に着地したゼーレは、海に血を流しながら浮かんでいるエオレルカを見て引いていた。


「さっきも話した通り、エオレルカは陸海空全ての食物連鎖の頂点である竜族の一つ、水竜と食物連鎖の頂点を争う程獰猛な魔物。強敵と出会した時は逃げるのではなく、目もないのに数と戦略を持って逆に殺しに行くんだよ。それが、奴らの二つ名に殺戮マシーンが入っている所以なんだ」


 オーバートロカム号を中心に水中で円を描くようにして泳いでいるエオレルカ達に向け、エマはフリントノックピストルを撃ちながらゼーレ達に語っている。


「さっきゼーレ君達が倒した個体は特に抗戦的だったけど……」


  エマはそう呟きながら船底に視線を向けていた。


「やはり、力でゴリ押してくる水竜とは違って、ちゃんとこちらが不利なのを分かって戦ってくるか」


 碧い風を足に纏わせて上空に浮いているスズリは、下のエオレルカ達を攻撃しながら、船底からちらっと見える紫電を睨んでいる。

 そして船はと言うと、エオレルカとの衝突と円を描くようにして回っているエオレルカ達が起こしている波によって激しく揺れていた。


「ずっと船底を攻撃してきてる奴が一番厄介。船底に潜られたらここからでも攻撃できないし、一度船に戻るか」


 スズリは、ライム達が集まっている船首付近に着地し、よろけながらライム達に近づいた。


 スズリがライム達の元に到着すると、そこではライム達がピンク色の大きなシャボン玉に包まれながら、必死に揺れから身を守っていた。

 他の船員達も、ピンク色のシャボン玉に身を包みながら、揺れを耐えている。


「このシャボン玉、全然割れない」


「私の神授之魂(ゴットソウル)包容神(リオム)』は、敵を圧死させる事もできるけど、本来は味方を外敵から護る力だから……。はい、スズリも」


「ありがとう、姉さん」


 スズリも、エマの作るピンク色のシャボン玉の中に入った。


「で、どうする? このままじゃ、流石にこの船も持たないですよね?」


 ゼーレは船底を攻撃したり、船の周りを渦巻いているエオレルカ達を見ながらエマに質問した。


「うん。それに、船底への攻撃手段が無い。そもそも、私達はこの短時間で大量の魔力を消費しているのに対し、奴らは紫電を身に纏っているだけで、攻撃では殆ど魔力を消費していない。初めからフィールド的にも、戦力的にも持久戦が出来る状況じゃない」


 エマは真剣な面持ちで語った。

 そんなエマに対し、魔法の杖を強く握りしめながら、レイラが話しかける。


「と言う事は、船底に潜られて、波で身動きが取れなくなった時点で詰んでるって事ですか?」


「そうなるね。流石は知能の高い魔物だよ」


 エマがそう呟いた後、周りには沈黙の時間が流れる。


 それから少しして、沈黙の中、ずっと何かを考えていたスズリが口を開く。


「姉さん、エオレルカって基本数体で狩りをするんですよね?」


「うん」


 エマの頷きを見たスズリは、怪しい笑みを浮かべている。


「そして、最初にボクらに襲いかかってきた奴からは戦略的な狩りは感じられなかった……。これ、を踏まえると、いけるかもな」


「姉さん、ボクに策がある。他の船員も一度集めて下さい」


「分かった」


 エマはそう言って、迅速に船員達全員を船首付近に移動させた。


 そうして、スズリは策を皆んなに共有したのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 激しく船を揺らす荒れた波と荒れ狂う魔物。

 空は雷雲立ち込め、豪雨と雷が海に降り注ぐ。


 そんな戦況下でも、海賊と勇者パーティーは抗う事を止める事は無かった。


「それじゃあ行くぞ……」


 生意気な声の呟きと共に、スズリのの全身から碧い風が放出され始め、見る見る内にオーバートロカム号の船底へと侵入していった。


 碧い風が完璧に海賊船の底を覆うと、船底を頭突きで攻撃していたエオレルカ達は、風に触れるたびに頭から血を流し始めていた。


「ふっ、お前達の紫電ではその風は突破出来ない様だな」


 不敵な笑みを浮かべるスズリは、直ぐに冷静に戻り、ゼーレの方に視線を向けた。


「じゃあ頼んだぞ、勇者!!」


 全身から碧い風を出し続けているスズリはそう大声を張りながら、船底まで繋がっている碧い風をどんどん太くしていった。


「了解だ!」


 ゼーレはそう答え、白い剣の先に小さな白い光球を生み出した。


 そして、それを天に掲げた。

 掲げられた光球は、暫くすると動きを止め、一気に巨大化した。


 船底にいるエオレルカや周りで渦巻いているエオレルカ達は、その光球が現れたと同時に体をそちらに向け始める。


「ボクの魂之特性ユニークソウル覇道之軌跡(突き進む力)』の効果は、ボクが邪魔と判断した物をその空間から押しのけるだけでは無い。もう一つの効果、それは……」


 そう言うスズリは、冷静な雰囲気を纏っていた。


「生物や無機物を導く力、覇者は愚民を導くのも仕事だからな」


  そう言うスズリは、殺気を浴びた視線でエオレルカ達を見下している。


「そういやお前ら、海から飛び上がったり、周りを泳ぎ回ったり、機械の癖して覇者に対して余裕こいてて頭が高いんじゃ無いか? ……、だからもっと見下してやるよ。『覇者之風導(覇者の導き)』……」


 スズリがそう言い放ちながら魔力を一気に上げると、海賊船は碧い風に乗って空に浮かび上がった。


 すると、周りに居たエオレルカ達は数十体全てゼーレの作り出した光球目掛けて海から飛び上がったのだ。


「ふっ、船を釣竿にするとは考えたな」


 密かに船尾へと移動していたライムは、ゼーレ達と一緒に、船へと群がってきている紫電に身を包み、牙を剥き出しにしている悍ましい姿のエオレルカ達を眺めていた。


「レイラ、また頼む」


 ゼーレはエオレルカ達を見つめながら話した。


「りょうかい」


 レイラの返事を聞いたゼーレとライムは、それぞれ剣を鞘から抜き出して魔力を浴びさせた。


「魔力ギリギリまで足場は保ってあげる。『反射水之空支配ウォーターリフレクト・スカイルーラー』」


 レイラが魔法の杖を掲げると、オーバートロカム号と空を飛んでいるエオレルカ達の間に無数の水で出来た足場が出現した。


 それを見たライムとゼーレは船から飛び降りる。


 その間、ライムは目を閉じていた。


 エオレルカ達が纏っている紫色の雷、船を攻撃しても、僕達が剣で触れても何の効果も発動しなかった。

 多分あの雷には魂之力ソウルの効果は付いてないんだろう。


 なら、この場はライトニングの出番では無いな。


 ライムは目を開け、ゼーレの方を見た。


「ゼーレ、混沌の大森林を旅してる時に練習したやつやるぞ!」


「分かった!!」


 ゼーレはライムに応え、右手を差し出した。

 ライムも左手を差し出し、ライムとゼーレは空中で手を繋いだ。


 手を繋いだ後、2人の魔力は繋がれた手へと収束し始めていた。


 少しすると、黄色いと白、そして黒の魔力が色が混ざる事なく一体と成った。


 それを感じたライムとゼーレは少し手を離し、その間に3色の小さな光球を作り出した。


 そんなライムとゼーレはレイラが作った足場がある場所まで到着した。


 レイラが作った足場まで移動した2人は、足場を蹴ってエオレルカ達目掛けて加速しながら距離を保って3色の光球を持ち続けている。


「肉体は雷で麻痺し、魂と精神は2人の神によって麻痺る……」


 足場を伝っている最中、ライムとゼーレは何やら呟いていた。


「「生命全てを奪い、焼き尽くせ。同化魔法アシミレーションマジック、『命操光球之核万雷カオスライフ・オブ・サンダーアトミック!!!』」」


 最後の足場を蹴り上げた2人は、向かってきているエオレルカ達の中でも先頭にいたエオレルカの目の前まで移動した。


 目の前まで敵が移動して来たエオレルカは、牙を剥き出しにして紫電を激しく揺らし、噛みつこうとした。


 エオレルカが2人に噛み付く寸前、ライムとゼーレはエオレルカ達目掛けて光球を握っている方の手を同時に向けた。


 その瞬間、3色の光を放つ球は太い3色の光線と成ってエオレルカ達に目にも止まらぬ速さで放たれる。


 光線とぶつかった数十体のエオレルカ達は、呻き声を上げながら、紫電と共に光線の中で散り散りになっていったのだった。


 そんな中、後ろの方にあるオーバートロカム号には、光線の粒が飛び散っていた。


「ちょっとちょっと、こっちまで来てるよ!? 間に合え! 『包容之泡玉マニピュレイト・バブル!!』」


 エマは急いで魔力を解放し、オーバートロカム号全体をピンクのシャボン玉で包み込んだ。


 それから少しして光線が完全に消え去ると、光線が放たれた直線上には何も存在せず、光線が直撃した荒れ狂う海には大きな渦が出現し、更に荒々しくなっていた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから暫くして、ライムとゼーレは、水の足場を伝って船に戻って来た。

 船を包んでいたピンク色のシャボン玉は解除されており、船はエオレルカ達を倒した事で歓喜に満ちている。


「ふぅ〜、目の前にエオレルカの牙が来た時には流石にびびったー」


 ゼーレは溜息を吐きながら床に膝をついた。


「よく耐えたな。焦って標準を外せば終わりだった」


 ライムは膝をついているゼーレの肩を軽く叩いて優しく笑いかけた。


「あの、すいません。ボク、そろそろ限界です」


 船員皆んなが喜びを分かち合っている中、その声は突然放たれた。


「へ?」


 船員全員の視線がその声を発した人物へと向く。


 その声の主はスズリだった。


 皆んながスズリに視線を向けている頃にはもう遅く、船を支えていた碧い風は消え去り、スズリは倒れた。


 そうなれば、空中に浮かんでいた海賊船が落下するのは必然。

 海賊船は、スズリによって少しずつ上昇し、既に五十メートル近い高さにまで上がっていた。


 船に乗っている者全員の血の気が引いた瞬間だった。


「「「いぃぃやあぁぁぁ!!!」」」


 船に乗っている者全員の悲鳴も虚しく、船は落下していき、波荒れ狂う海へと衝突した。

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