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142 魔を隔離する海

 翌日の朝七時。

 ライム達は身支度を済ませ、玄関の前に集まっていた。


 ハァー、昨日は不思議な感覚だった。

 てか、本人に許可を取ってないのに勝手に異性のベッドを使わせてもらってるの、家族の許可があるとは言えヤバいよな。


 てか、アンナ達以外の女性の部屋に入ったの初めてだな。

 ま、綺麗に掃除されてたけど、旅に出て結構経ってるみたいだしあんま物は置いてなかったから、女の子の部屋って感じでは無かったな。


「アリーナさん、今回は泊めていただきありがとうございます」


「礼なんて別に良いよ。私達も、久しぶりにレイラと会えて嬉しかったし」


「ゼーレ君、そちらの両親ともぜひお会いしたい。アリーナと私は(おさ)の家系だからここを離れられないんだ。勝利の凱旋を待ってるぞ」


 ルカは明るい笑顔を浮かべながら、ゼーレの前に拳を突き出した。


「はい、今度は両親も連れてきます」


 ゼーレはルカと拳を合わせながら、自信に満ち溢れた目を向けている。


「じゃ、そろそろ行こう。山頂までもまだ結構あるし、今日中には下山したい」


 こうして、ライム達は山頂を目指して登山を開始した。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 山の中腹にあるエルフの里から登山を開始して三時間後。


 ライム達は今、エルーリ山脈最高峰まで登り切る寸前だが、ゼーレとレイラが死にそうな形相で息を切らしながら足を進めていた。


「ハァハァ、体力バカは楽勝そうで良いな」


 ゼーレは息を切らしながら、なんとか足を前に進めている。


「勇者だって、生命力が強いんだから体力に自信ありそうなのに」


 余裕そうな顔を浮かべるライムは、少し先からゼーレを見下ろしていた。


「いや、生命力と一口に言っても、勇者の生命力は多分寿命とか気の強さとかだから。身体的に強いわけじゃない」


 ゼーレは息を切らしながらも、なんとかライムと共にエルーリ山脈の頂上に到達した。


「やっと頂上に着いた……」


 レイラはライム達の後ろから遅れて頂上に辿り着いた。


 エルーリ山脈の頂上はサッカーコート一個分程の広さの岩場で、雲の上の為、雪は積もっていない。


 ライム達が魔界側の先端まで移動して先の景色を見渡すと、そこには雲海が広がり、太陽が雲を照らしている幻想的な景色が広がっていた。


「圧巻の景色ね……」


「そうだな。でも、直ぐに降りないと降りきる頃には深夜になる。水分補給をして少し休憩したら直ぐに降りよう」


「了解。ほら、水」


 ライムは大きなリュックを下ろし、中から三人分の水筒を出してゼーレとレイラに手渡した。


一週間と五日目の朝十時ぐらいに山頂に着き、直ぐに下山して十八時には麓に着く。


 登り始めて三時間後。山頂に着く。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 夜十八時。

 ライム達はエルーリ山脈の頂から麓まで降り切った。

  海側に位置するエルーリ山脈の麓は、草木や花が散り散りに生えている湿地帯だった。


 人気(ひとけ)も灯りも無い暗闇だからか、湿地帯には不気味な雰囲気が漂っている。


「ふぅ〜、やっと降り切れた」


「でも、レイキル海まではまだ歩かないといけない。一時間ぐらい歩けば見えてくる筈……。でも、どうやって海を渡るの?」


 レイラはポツリと呟いた。


「「あっ……」」


 それを聞いたライムとゼーレは言葉を失い、レイラと共に海を背にした。


「ごめんなさい、私は海の存在を知っていたのに何も考えてなくて……」


 レイラは申し訳なさそうに、小さな声で謝罪した。


「いや、僕もレイキル海って言う地名が記憶の片隅にはあったから、レイラだけの責任じゃ無いよ」


 ライムがそう言った後、暫く沈黙の時間が流れた。


 沈黙の時間に耐えかねたのか、ゼーレが口を開けた。


「ん〜、マジでどうする? 確かに降りる時に見えてはいたけどさ。気にする余裕無かったし、そもそもここに海があるなんて知らなかったんだが」


「いや、僕達に聞かれても、このパーティーのリーダーはゼーレだろ?」


「だ、だよな。アハハハハ……」


 ライムの言葉に、ゼーレは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「いやいや、マジで笑えない。てか笑ってる場合じゃ無い。まぁ〜じでっ、魔王城に行く事しか頭に無かったーー!!」


 ゼーレは大声で叫んだ。


 一方、ライムも心の中では焦りまくっていた。


 僕もかんっぜんに忘れてた!


 ライムも表情には出していないが、頭の中ではテンパっていた。


 小さい頃、ラビッシュはなんか普通に魔王城にスパイしに行ってたからな。

 ラビッシュはあの脚力と風魔法で海を渡ったんだって自慢げに話してたけど、ゼーレ達にそんな芸当出来ないもんな。


 ライム達が顔を合わせながらあたふたしていると、後ろから二つの足跡が近づいてきていた。


「ふっ、そんな調子で魔王城に行って本当に大丈夫なのか? 雑魚っぽさに磨きが掛かった様だけど」


 ゼーレ達の後ろからは、懐かしい生意気な声が聞こえる。


「っ! このむかつく喋り方は、まさか……!」


 ゼーレ達が後ろを振り向くと、そこにはエマとスズリが立っていた。


「エマさんとスズリ! もう体は大丈夫なのか?」


「大丈夫さ。元々、クロエ女王の護衛が出来るぐらいの体調ではあったからな」


 そう話すスズリは、余裕の笑みを浮かべている。


「良かった。もう魔界に行っちゃったのかと思ったよ。出来るだけ早く海に出たいでしょ? オーバートラカム号に乗ってきたから、そこまで行く間に色々話そう」


 エマがそう言いと、スズリは一足先に前を歩き始めた。


「っ! ありがとうございます!! エマさん」


 ゼーレはお礼を言い、エマとスズリの後に続いた。


 こうして、ゼーレ達はエマ達と共に岸まで歩き出したのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ゼーレ達が岸を目指して歩いていた時、いきなりスズリが話し始めた。


「そうだ。レイキル海について調べた時に興味深いことが分かったから共有しといてやる」


 そう言って、スズリは語り出した。


「初代ヒストア王様が、アビス率いる魔王軍から逃げる際に、今で言う魂之力ソウルを使って邪悪な魔族達が住む地とその他の地を分断させ、その結果出来たのがレイキル海だと書いてありました」


 スズリに続いて、エマも話し始める。


「そう、それが千年前の出来事だから、分たれた大陸は今や魔の者達だけの世界になってるだろうと言う事で、『魔界』と言う様になったみたい」


「そう言う事もあって、レイキル海は自然に出来た海域じゃ無い。だから他の海域より魔素濃度が不安定で、気候は荒れ果て、そこに住む魔物の強さも極めて高い。並の船じゃ航海出来ません」


 エマは子供に言い聞かせる様に話しを続ける。


「だから、私達が来たって事。この船は、プリュトロムとの先頭を想定して超硬度な木材や鉄をベースにテンヤが創造魔法で作った最強の海賊船だから、安心して任せて」


 エマは自信満々に言い放った。


 それから暫く歩いて、再びスズリが口を開いた。


「それと、この海で一番気をつけて欲しい相手は、冷たい海域が生息域で、電気を纏う目の無い魔物『エオレルカ』。奴らは賢い頭を使って数体が協力して戦略的な狩りをする。それは船相手でも同じ事。さしずめ、魔界とこちらの大陸の通行人を監視する門番と言った所です」


「目が無い門番?」


 ライムが疑問をぶつける。


「奴らは、水竜達との縄張り争いに負けた後、一度深海に生息域を変えている。その際に目が退化してしまったが、代わりに身を守れて水を操る水竜に有利になれる電気を纏えるようになった。だから、今の海洋の食物連鎖の頂点は水竜達とエオレルカ達が奪い合ってる状態です」


 スズリは少し上から目線で、しかし授業をしている先生の様に丁寧な口調で話している。


「でも、所詮電気を纏えるだけだから、プリュトロムみたいに物理攻撃が効かない訳じゃないし、ボク達からすれば楽勝の敵ですよ」


 そう言い切るスズリは、余裕の笑みを浮かべている。


 そんなスズリを横目に、エマが口を挟んだ。


「あ、ちなみにエオレルカには『門番』以外に、船乗りの間で広まっているもう一つの異名があるの。それが、『深海の殺戮マシーン』って言うんだけど、こっちは実際に会ってみないと分からないかもね」


 エマは怪談を話す時の様に楽しそうにライム達を揶揄った。


「そっか」


 しかし、ライムはエオレルカの強さを想像して、拳を握りしめながら黒い瞳を熱く燃やしていた。


 その後もライム達が色々話しながら歩いていると、いつの間にか海岸に辿り着いていた。


「久しぶりだな。オーバートロカム号」


 ゼーレ達の前には、竜の頭に剣を串刺しにした海賊旗を掲げた海賊船が停泊していた。


「おぉー、久しぶりだな!」


 ゼーレ達が久しぶりの船を目に焼き付けていると、木製の渡り板を渡ってスキンヘッドの頭に翠眼をした男が岸へ降りてきた。


「ケントさん。お久しぶりです」


 ゼーレはケントと握手を交わした。


「レイラちゃんも、久しぶりだね」


 長い赤髪を揺らしながら、アメリアも渡り板から降りてきて、レイラと顔を合わせた。


「お久しぶりです。アメリアさん」


「ほら、ケントにだる絡みされる前に早く乗船しましょ」


 レイラはアメリアに手を引かれ、一足先に乗船した。


 その後、ライム達も船に乗り、オーバートロカム号はレイキル海へと出航した。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 出航してから二時間後。

 オーバートロカム号が進むレイキル海上空には、雷雲が立ち込めており、月と星空を隠していた。

 波は荒れていて、雷雲からは雷と豪雨が降り注いでいる。


「暗いな。ゼーレ、光魔法でこの船を照らしてくれ。別に良いですよね、エマさん」


「あぁ、この海域には光に突っ込んでくる様な魔物は居ないし、エオレルカは目が無いからね。大丈夫だよ。ゼーレ君、頼めるかな?」


「ハァ、僕は懐中電灯じゃ無いんだけど……」


 ゼーレは手のひらサイズの白い光の玉を作り出し、船の上空に放り浮かべた。


「あっ……、そう言えば勇者の持つ光属性って魔族や魔物が恐れる特殊な物何ですよね?」


「そうらしいな」


「……。っ! ゼーレ君、今直ぐ魔法を解いて!!」


 エマは船首からゼーレに向かって叫んだ。


 その瞬間、竜族に匹敵する程の魔力が海賊船を取り囲む様に数十個海の中から出現した。


「この魔力は……」


 ライムと同様、オーバートロカム号に乗る船員の皆んなは緊張が走り、息を飲んだ。


「うん。エオレルカ達だ……」


 エマがそう答えると同時に、エオレルカ達は海の中で咆哮し、数十個の紫色をした雷の柱が天高く伸びて雷雲を突き抜けていく。


 その(かん)も、エオレルカ達の咆哮は止まらず、夜空に響いていた。


 そして、その内の一体が海の中から飛んだ。


 あの姿……、シャチか。


 ライムは、海中から飛び上がったエオレルカを見て心の中で呟いた。


 そう、その魔物の姿はシャチの様なフォルムをしていた。


 だが、体長十五メートルと言う巨体の全身に紫電を身に纏い、目が無い生物と言う感情が感じ取れない機械感を放っており、まさに『深海の殺戮マシーン』と呼ぶに相応しい外見をしていたのだ。

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