141 覇者の配下
「ま、取り敢えず、外は冷えるから早く入りな」
ライム達は、アリーナに手招きされて家に上がった。
家の中は暖かく、暖色のライトが天井に吊るされた雪山の中とは思えない快適な空間だった。
ライム達は廊下を少し歩いて、リビングにたどり着いた。
リビングに到着すると、そこには短い金髪に碧眼の垂れ目をした細身イケメンな褐色エルフの男性がキッチンに立って料理を作っていた。
「お! 騒がしいと思ったら、レイラがお友達を連れてきたのか」
男は料理を作る手を止めてライム達の方へ体を向けた。
「友達と言うのも間違っていませんが、私達は勇者パーティーです」
レイラは丁寧な口調で話した。
「おぉー、そうか。流石はレイラちゃん、勇者パーティーに入ったんだな」
褐色エルフの男は、嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ今日は、腕によりをかけて豪華な夕食を用意しないとな。あ、俺はルカだ。よろしく」
ルカは軽いノリで自己紹介をした。
「初めまして、僕は勇者ゼーレです。それと、隣の獣人はライムです」
ゼーレは隣に立っているライムに手を向けている。
「初めまして、ルカさん」
ライムは丁寧にお辞儀をした。
「おう。2人共、レイラと旅をしてくれてありがとうな」
ルカはそう言った後、再び料理を始めた。
「なぁ、躊躇無く入ったし、めっちゃ歓迎ムードなんだけど。もしかして、この人達がレイラとハルカしんのご両親なのか?」
ゼーレは緊張しながらレイラに耳打ちした。
「違う。でもこの人はユニスのお母さんで、両親の居ないハルカと私の面倒を昔からよく見てくれてたから。家族みたいなのは否定しないけど」
レイラは穏やかな表情をしていた。
「え、レイラ達って親が居なかったのか?」
ライムが大きなリュックと腰に携えた漆黒の剣を下ろしながら聞いた。
「うん。私達の両親は、友好関係にあった魔族達に裏切られて私達の目の前で殺されたの。でも、母は私達に『魔界に住んでいる魔族ともいつか絶対に仲良くなれる。だから魔界に住む魔族を恨まないで』と言い残した」
魔界に住む者が他の種族と友好関係を築くって、フライムに手伝ってもらうかしないと大陸が分かれてるから物理的に無理な筈だが、どう言う事だ?
ライムが思考を巡らせてる間にも、レイラは話を続けている。
「私もいつかそんな未来が来れば良いなと思ってたけど、姉さんはその未来を作るのは自分が良いって言って、種族関係なく仲良くなれる世界を作ると言う夢を掲げて旅に出たの。ま、私が旅に出た理由は、エルフ一の実力者って言う肩書きの重圧に嫌気が差し出しからだけどね」
なんだ、ヘルホワイトの目的がそのままハルカの夢だったのか。
どっちにしろ、変に深掘りしなくて良かった。
その後、ライム達とアリーナはリビングに置かれた長机の前に顔を合わせて座った。
「さて、改めて自己紹介をしよう。私はエルフの長、アリーナだ。今料理を作っているのが、私の夫ルカ。緊張せず、くつろいでくれて構わない。でも、噂には聞いていたが本当にレイラちゃんが勇者達と旅をしているとは、ここまで大変だっただろ?」
「いえ、レイラさんは僕達のお金の管理等をしてくれたり、戦闘面でも活躍してくれています」
ゼーレは緊張しながらも会話を進めた。
その後もゼーレ達は夕食の時間まで会話をした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕食の時間。
長机には、肉料理等の豪華な料理が並んでいた。
「私達エルフは基本、肉類を食べたりしないが、今回は勇者様達も居るから特別だ。それじゃあ、頂きます」
ルカが最初に箸を進め、その後にライム達も食べ始めた。
ライム達は暫くの間、料理だけを楽しんでいたが、突然レイラが口を開いた。
「そうだ。アリーナさん、ルカさん」
レイラに呼ばれ、二人は不思議そうにしながら顔を上げた。
「あの、家族でも無い人に紹介するのも少し変だけど……。実は、私とゼーレは結婚を前提に付き合ってるの」
レイラの突然の発言にアリーナとルカは戸惑い、ゼーレは焦っていた。
「っ! 本当か!! 基本誰にも心を開かず、一人が好きだって言ってたあのレイラちゃんが!?」
「ふふっ、レイラちゃん、勇者様と付き合うなんて大胆ね」
ルカとアリーナは嬉しそうにはしゃいでいた。
「今日は祝いだな」
ルカは椅子から立ち上がり、酒を持ってきた。
数十分後。
ライム達はご飯を食べ終わり、お酒を飲んでいたルカは、アリーナさんに寝室へと運ばれている最中だった。
「お風呂は先に入ってくれると助かる。ベッドは、レイラとハルカの分しか余ってないから、一人はごめんだけど床で寝てくれる?」
アリーナはルカを背中におんぶしながら申し訳なさそうに話した。
「それなら僕が床で寝ます。野宿で慣れてるので」
ライムは手を挙げて元気よく言った。
「ライム君だっけ? 優しいんだね。それか、レイラとゼーレ君が一緒に寝ても良いけど」
アリーナさんはニヤついた視線でレイラとゼーレを見ていた。
「ちょっと、アリーナさん!」
レイラに怒られたアリーナは、ルカを担ぎながらそそくさとリビングを後にした。
「じゃ、じゃあライムにも申し訳ないし、私の部屋で一緒に寝よ?」
レイラはゼーレの服の裾を引っ張って言った。
「お、おう、そうするか。風呂はレイラが先に入ってくれ。ライムはどうする?」
「僕は二人の後で良いよ」
「そうか」
そうして、ゼーレとレイラはリビングを後にした。
リビングに取り残されたライムは、少し焦っていた。
え? これってもしかして、僕はハルカさんのベッドで寝るって事か?
いや、でもここで僕が遠慮したら、レイラ達やアリーナさんに申し訳ないし、仕方ない使わせてもらうか。
そうして、ライムはリュックをリビングに置いたままハルカの部屋に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻、サンダーパラダイス本拠地にある軍基地の広場では、ユキネを除いた虹雷剣達とテンヤとアカネ、そしてロイヤルティーナイト達が夜の特訓をしていた。
その中でも、破滅帝の特訓をしている者達は建物の近くで比較的小さな規模の魔法で特訓していた。
「俺は『魔神』の力で何度か『破滅帝』を扱った事があるから慣れてるし、雷魔法以外にも適応させれる俺って、もう完全にライム超えたんじゃねぇか?」
ノアは様々な属性魔法をほぼ完璧に黒色に変化させ、それを見ながらニヤニヤしていた。
「そうやってすぐ調子に乗ってる内は、真の破滅帝には勝てない。一生覇者の配下で居るつもりは無いんでしょ?」
自分の力に自惚れているノアの後ろに居たミズキが、釘を刺してきた。
「あぁ、いつか絶対に超えてやる」
ノアは真剣な表情で返事をした。
「それより、ユキネはルミナス商会があるから仕方ないけど、作戦ではリサさんも協力してくれるんだろ? 参加しなくても良いのか?」
「あの人は今や国王ですし、破滅帝を修得する必要がない程強いから良いんですよっ……。くっ、やっぱり難しい」
ミズキは、藍色の水を黒くしようとしているが、上手く出来ずにいた。
ノア達と少し離れた場所では、テンヤとミズキが特訓をしていた。
「いけるいける……、ってまた失敗した」
「ふふっ、天才君でも出来ないんだね」
アカネは、ツンっとテンヤの頬を突いて悪戯っぽく笑った。
「うるさい。そもそも、創造系魂之力と破壊系魂之力をどっちも殺さずに掛け合わせるって、良い塩梅の力加減見つけるの難しいんだよ。てか、アカネも一応練習しとけよ」
「分かってますよ〜」
アカネは、テンヤから顔を背けて離れて行った。
「まぁでも、ロボット作ってた頃より何倍も難しくて面白しれぇぜ。マジで創作意欲掻き立てられまくりだ」
テンヤは不敵な笑みを浮かべて燃えていた。
そこに、各々の髪色と同じライダーヘルメットや手袋をはめているミアとロイヤルティーナイト達が歩み寄って来ていた。
その場から少し離れた広場の中央付近では、実戦的な訓練をしている者達が戦っている。
気合の入った声と共に、広場の中央で竜と龍の拳がぶつかり合う。
「俺様は魔力が無いから破滅帝を使えないから特訓と言えば戦闘だ。でもルナさんが俺様の相手してて本当に良いんですか?」
ツカサは、ルナと拳を合わせながら尋ねた。
「ぼくは元から破滅の力を使えるからね。フィジカル強化の方が重要なんだよ」
ルナは余裕そうにツカサと拳の押し合いをしている。
そんな様子を見守っている二人が、軍基地の最上階にあるホノカ大将の部屋に居た。
「この調子でいけば、何とか間に合いそうね」
アンナは穏やかな表情でホノカに話しかけた。
その姿は、冷静な雰囲気と美しい金髪が月明かりに照らされた事も相まって神々しさ放っていた。
「一応邪神と戦う予定じゃない者にも訓練してもらってるからな、一緒にやる人が居るほど効率は上がる。私も、我儘を聞いてもらってる身として気合いを入れ直さねば」
ホノカは、腰に携えている悪滅光爆剣を強く握りしめ、覚悟の決まった凛々しい表情で特訓をしているノア達を見つめている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
舞台は戻り、ルカ宅にあるレイラの自室。
そこでは風呂上がりに髪を乾かした後、シングルベッドで添い寝しているゼーレとレイラが居た。
「そう言えば、アリーナさんとルカさんって、ユニスさんの両親なんだろ? 体を貸さなくて良かったのか?」
ゼーレは不思議そうに問い詰めた。
「うん。魔王を倒せて無いのに両親に会う事は出来ないってさ」
レイラは暗い顔で答えた。
「そうか……」
ゼーレは申し訳なさそうな表情で黙り込んだ。
少しの沈黙の後、再びゼーレが話し始める。
「てか今思えば、レイラと二人っきりで寝るのは今日が初めてだな」
ゼーレは少し頬が赤くなっている。
「そうね」
レイラが頬を赤くしながら平静を装ってそう言った後、再び静寂の時間が流れた。
部屋が暗いお陰で互いの顔がハッキリ見えないものの、気まずく恥ずかしい空気を感じ取っていた。
「ねぇ、レイラ」
ゼーレが話し始めた事で、再び二人は顔を合わせる。
「ライムは自分から魔王軍を倒したいって僕の所に来て勇者パーティーに入ったけど、レイラって僕たちが誘ったから入ってくれたじゃん」
「その……、死ぬ確率の高いパーティーに参加して後悔とかしてない?」
ゼーレは、レイラの顔を伺いながら聞いた。
「してない」
レイラは真っ直ぐとした黄色い瞳でゼーレを見つめながらハッキリと答えた。
「だって、エルフ一の実力者が指を咥えて勇者が魔王を倒すのを待ってるなんて、同じぐらい魔法に秀でた悪魔達に負けを認めているみたいになって肩書きの重圧を抜きにして、エルフの皆んなに申し訳ない」
レイラは落ち着いた口調でゆっくり話し続ける。
「それにゼーレやライム、他にも素敵な人達に出会えたから。多分一人での旅を続けてても、私の性格上親しくなれてなかった」
「だから、ありがとう。私は、ゼーレが勇者で本当に良かったと思ってる」
その言葉を聞いたゼーレは、レイラの片手にそっと手を伸ばし、二人は片手を恋人繋ぎにしながらゆっくりと二人の時間を過ごしていた。
「おやすみ、レイラ」
ゼーレは、レイラの目を見つめながら静かな声で言った。
「おやすみなさい」
レイラも静かに応えた後、二人は目を瞑って深い眠りに入ったのだった。