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138 小さな死神

「ルナ、お前の弟ソルがナハトに操られてるのは本当なのか?」


「うん。まぁ元々、魔王軍はぼく達滅龍の事を切り札として扱ってたから、こうなるのは分かってた。でも、アビスじゃなくて、魔王に覚醒したナハトが操っているのはちょっとマズイかもね」


 いや、マズイなんてものじゃ無い。

 悪魔に操られた魔物は、操ってる悪魔の力に比例して、格段に強さが変わる。


 今回は、悪魔の中でも化け物級の力を有する魔王に覚醒したナハトが、魔物の中でも最上位の滅龍を操っている。


 同じ滅龍のルナやディストラ達でも、普通に戦えば絶対に勝てない。

 逃げて来れたのは奇跡だろう。


「ひとまず、ディストラ達には治療を受けさせよう」


「そうね……。ラビッシュ、2階にいるナースを誰でも良いから四人連れてきて頂戴」


「了解です!」


 元気良く返事をした後、ラビッシュは颯の如き速さで会議室を飛び出していった。


「ルナは、怪我をしているところ悪いが魔王城で何があったのか話して貰いたい」


「分かってる。ぼくが首を突っ込んだのが発端だからね。ぼくには話す義務がある」


 ルナは傷ついた体で立ち上がり、その場で語り始めた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 時は遡り、一週間前。

 魔王アビス達の絵会議を盗み聞きしたルナ達は、ルナの感じた違和感を頼りに夜通し魔王城を探索し、朝を迎えていた。


「ハァハァ、ルナ様。もう一晩中歩いてるんですけど……」


 アイは息絶え絶えの状態で壁にもたれながら、ルナ達の後をなんとか付いて行っていた。


「こら、文句言わないの。今回は特別にお菓子食べてて良いから」


 呆れながらも、シエルは優しい口調で話した。


「やったー!」


 アイは大きく手を上げて喜びを表した後、懐に隠していたお菓子の袋を取り出して口に運んだ。


「あ、あの、私ももう限界です……」


 カルラは、ディストラの肩を借りながら後ろの方をゆっくりと歩いていた。


「皆んな付き合わせちゃってごめんね。でも、やっと着いたみたいだよ」


 ルナが見つめるその先には、白く塗られた巨大な鉄の両扉があった。


「開けるね」


 ルナは小柄な体で大きな鉄の扉を軽々と開けた。


 鉄が擦れ合う音と共に、扉の先の景色が広がった。


 青暗い壁囲まれ、青い炎を灯した松明が点在している広々とした部屋。

 そこの中央に、白滅龍の姿で丸まって寝ているソルが居た。


「っ! やっぱり……。ソル、久しぶりだね」


 そう呟きながら、ルナは白滅龍の姿をしたソルに近づいていった。


 そんな中、突如として白雷と共にとてつもない殺気を放つ者が現れた。


「よう。お前らのその服装、もしかしてサンダーパラダイスの者か? てか、元魔将軍のお前、まだ生きてたんだな。ま、今の俺達にはどうでも良いけど」


 恐怖を感じながらも、声のした方向にルナ達はゆっくりと視線を上げる。


 そこには眠っているソルの頭の上でナハトが堂々と胡座をかいてルナ達を見下していた。

 そんなナハトの左腕には、白い包帯が緩く巻き付けられていた。


 ルナは闘志に燃えた目つきでナハトを見つめる事が出来ているが、ディストラとシエル達の頬には冷や汗が伝っていた。


「それに、そっちの小さいのが放つ魔力。お前、こいつの姉だろ?」


 ナハトはルナを見下しながら右手で指差して、偉そうに喋った。


「ふっ、悪いが魔王の一族は特段魔力の嗅ぎ分けが得意なんだよ」


「ま、お前がこいつの姉だろうが。敵に寝返ってんなら死んでもらう」


 そう言いながら、ナハトはソルの頭の上から飛び降りた。


「昼寝の時間は終わりだ、ソル」


 そう言いながら、ナハトは左腕の包帯を解く。

 包帯が解かれた左手の甲には、白い紋章が刻まれていた。


 ナハトは寝ているソルの頬に左手で触れ、不敵な笑みを浮かべながら囁く。


「暴れろ……」


 ナハトの命令と共に、ソルは突然目覚め、魔力も一気に解放されて凄まじい殺気と咆哮を放っている。


「オレはお前達との総力戦が望みだ。死なないように頑張れよ」


 ナハトは包帯を手に持ちながらそう言って、白雷と共に姿を消した。


 広々とした鉄の部屋に、ソルの咆哮が空気を揺らす程響き渡る。


「皆んな、逃げるよ! 捕まって!!」


 ルナは即座に龍の姿に変わり、ディストラやシエル達を背中に乗せて魔王城の壁を滅龍魔法で壊しながら飛び立った。


 その後をソルが追いかけて飛び立つ。


 ソルの動向を確認する為、シエル達が後ろを振り向いた先には、天守閣がある白と黒、そして金色で塗装された大きな日本城が聳え立っていた。


 そしてその日、魔界では二頭の滅龍が天翔ける姿の目撃情報が様々な場所で囁かれたのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 同時刻。

 魔界の西側に位置する魔族達の街。

 その街は荒くれ者達が集まり、魔界の中でも特に荒れた街として有名だった。


 そんな場所に、金髪ツインテールで暗めの赤い瞳が怪しく光る褐色肌の悪魔の少女が現れた。


 少女は酒場の扉の前で立ち止まった。


 中からは男達の騒がしい声が漏れ出ている。


「皆んな、出番だぞ!」


 そんな騒音を打ち消すように、少女は扉を蹴破り、幼くもかっこよさを感じる低めの声で言い放った。


 酒場には、三十人程の様々な種族に分類される魔族達が居た。


「エミリア様〜♪ 今日もお美しい御御足で御座います〜!」


 白皙な肌に痩せ細った体付きの黒髪黒目の男が、黒いニーハイを履いたエミリアの足に頬を擦り寄せて幸せそうな笑みを浮かべていた。


「毎度毎度、お前は気持ち悪い!」


 エミリアは汚物を見るような目で男を見ながら、背中を思い切り足蹴にした。

 しかし男は依然、幸せそうに笑うのだった。


「あの、エミリア様……。出番と言うのは……」


 黒髪ボブヘアに赤く染まった瞳をした、10代半ば程の美少女が恐る恐るエミリアに話しかけた。


 だが、その勇気をかき消すかの様に、酒場に大きな声が響く。


「へっ! やっとエミリア様と一つになれるんですね!!」


 腹筋が綺麗に割れた美しい金髪ロングのオーガが、樽に入った酒を一気飲みして笑っている。


「うん、そうだよ。それじゃあ皆んな……、私の為に一旦死んでね♪」


 笑顔でそう言いながら、平たい胸の中心に手を当てた。

 その風貌はまさしく悪魔そのものだった。


 そして、エミリアが思いっきり手を引くと、赤黒い魔力と共に、大きな刃のついた赤黒い大鎌が引き出された。


 そして、エミリアはその赤黒く、大きな鎌片手に魔族達へと近づいた。


 そして酒場の中心に立ったエミリアは、大きな鎌を一瞬で一振りした。


 数秒も経たぬ静寂の後、エミリアの足元には血が流れ、魔族達の頭部が床に転がり始める。


「死魂よ、エミリアに集え……。究極之魂(アルティメットソウル)死之暴君(亡霊の主)』、『死魂之偶像(ソウル・スター)』」


 そう呟きながら目を閉じ、自身の胸に手を当てると、魔族達の亡骸から七色に光輝く玉が浮かび上がった。


「皆んな、エミリアの為に魂を捧げてくれてありがとう。皆んなは一度死んだけど、これからはエミリアの中で共に生きていくんだよ。そう、エミリアが生きている限り……。だから、皆んなエミリアの為に戦ってくれるよね?」


 愛嬌のある笑顔と共に魂へと唱えられたその言葉は、魂達の奥底まで響き渡り、魂達をエミリアと言う存在に惹きつけた。


 そして、徐々に魂達はエミリアの周りに集まり始めた。


「エミリアは皆んなを受け入れる準備、出来てるよ」


 エミリアがそう言った瞬間、魂達はエミリアの胸目掛けて突進し、エミリアの体の中に吸収された。


「魔物だけじゃなく、エミリアのファンまでをも亡霊に変えるのは心苦しいけど、これも魔王軍の為だもんね」


 暗い顔をしているエミリアだったが、そこに突如として血の匂いを嗅ぎつけてきたハイエナの様な姿をしている額に緋色のツノを一本生やした魔物達十数体が、酒場に鼻息荒く近づいてきていた。


「お前達、まさかこの子達の死体目当てじゃ無いだろうな? まぁどっちにしても、エミリアに会った魔物は、問答無用で殺して吸収するけどね!!」


 エミリアは殺意むき出しの冷たい視線で振り向き、大きな鎌を振り翳して魔物達に突撃しにいった。

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