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136 様々な種族集まる混沌の大深林

 ラスファートを後にし、草原を歩いて混沌の大森林を目指していた勇者パーティーは、日が暮れてきたので野宿と晩御飯の準備をしていた。


「やっぱり、ラスファートって人類達の最後の砦だったんだな。少し北に足を進めただけで、あんな無惨に廃墟になってる村があるなんて……」


「まぁ僕達獣人の生活圏である混沌の大深林は、数年前に僕達の親や老人世代が魔王軍に全滅させられて、一応そこから子宝に恵まれた獣人の夫婦はこの十年ぐらいで増えてきたけど、それでも今や獣人の数より魔物の数が多いだろうしね。ここら辺一体は魔物が多いんだよ」


 それに、この草原の辺りには、ゴウエンが飼い慣らしてたって言うドラゴン達が飛んでいるはずだ。シエル達ナイトサンダーズが居るとは言え、早めに混沌の大深林に入らないとな。


「っ! 噂では聞いてたけど、本当に獣人に魔王軍が攻めてたのね」


「あぁそう言えばレイラには話した事なかったな。でも、フラトぎ残した本を読んだ今思えば、エルフ達に見つかるリスクを取ってでも魔王軍が獣人の子供を戦力に加えようとしたのにも納得がいく」


 ライムがそう言うと、ゼーレとレイラも静かになった。


 フラトの書いていたことから予想するに、アビスは獣人が魔王の一族の特性を受け継いだ種族だと父から聞かされていた……。

 大人達を皆殺しにしたのも、進化をしている場合に面倒だから。

 ま、実際には全員進化してなかったんだけど。


 ま、僕が産まれてる時代に攻めて来たのは、魔王軍側が運無かっな。


「そう言えば、ライムとレイラはこれから自分達の故郷のある地を旅する訳だけど、寄った方が良い?」


「いや、僕の故郷の村は混沌の大森林のど真ん中にあるから、このまま進めば着く」


「私の故郷も、エルーリ山脈の真ん中に位置するエルーリ山の中腹にあるから、普通に通ると思う」


「そっか。じゃあ最短距離で旅すればそのまま二人の故郷にも寄れるんだな」


 ゼーレは嬉しそうな表情で笑みを浮かべていた。


「あ、肉焼けてるぞ」


 ライム達は、綺麗な夜空の下でご飯を食べた後、眠りについた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから6日後のお昼頃。

 混沌の大深林中心部に位置するサンダーパラダイス拠点がある村。


 ライム達は何事もなく、ライムの故郷へと到着していた。


「うわぁー、本当に獣人がいっぱい居る!」


 ゼーレは辺りを見渡しながら、村を歩いている獣人達に興奮していた。


「でも、人間やエルフ、それにドワーフまで沢山居る。混沌の大深林は獣人の縄張りだから、多種族が住むのを嫌ってるって聞いてたけど……」


 レイラは不思議そうにライムに尋ねた。


「魔王軍に攻められてから、獣人は子供だけになったからな。他の種族を受け入れないと手が回らなくなったんだよ」


 ま、本当は獣人は勿論の事、混沌の大深林に住んでいる獣人以外の人達も全員サンダーパラダイスのメンバー何だけどな。


 ライム達が村の入り口で話をしていると、前から若い金髪の猫獣人が近づいて来た。


「勇者パーティーの皆様、お待ちしておりました。私はこの森全体の長を務めているアンナと申します」


 アンナの姿は、スラッとしたモデル体型にスポーティな服装が映えるクールビュティーなお姉さんの様だった。


「久しぶり、アンナ」


 本当は一週間前にも会ってるんだけど……。


「初めまして、僕は勇者ゼーレと申します」


「私はレイラ」


 ゼーレとレイラが自己紹介をしていると、村の奥から子供達が集まってきていた。


「ライムさん、お久しぶりです」


 綺麗で艶やかな薄い茶髪ショートを風で揺らしながら、リアムは丁寧で落ち着いた口調で頭を下げた。


「ゼーレさんとレイラさんも、噂はかねがね伺っております」


 エレナの風で靡く艶やかな黒髪ロングに、堂々と勇者達と目を合わせる水色の瞳が、勇者達を惹きつけた。


「おー! リアムにエレナ、それに皆んなも。やっと勇者とここに来れたぞ」


 リアムとエレナの様な10代の子達は、アンナの後ろで控えめにしていたが、それよりも小さい年齢の子達は、ライムに近寄って抱きついたりしていた。


「でも悪いな。ここには一晩も過ごすつもりはないんだ。直ぐにエルーリ山脈に入らないとだから」


 ライムは抱きついてきたり、近くに寄ってきた子達の頭を撫でたりしている。


「知ってるよ、ナハトが魔王に覚醒したんでしょ?」


 ライムの近くに居た、白髪水色目で狼獣人の女の子が、ライムの顔を見つめながら話した。


「うん。それに、向こうはこちらに長い間準備する時間を用意してくれないらしい」


「でも、お腹空いてるんだよな」


 ゼーレはお腹を抑えながら話した。


「丁度お昼時ですもんね。この村にもご飯屋はあるので、寄ってみてはどうでしょうか?」


「いや、魔王直々に宣戦布告された今、一刻も早く魔界に入って決戦の地の状況を把握しておきたい。アンナ、肉と野菜をこのリュックに入るだけ用意してくれないか?」


「承知しました」


 アンナはそう言って、後ろに居る大人の人間二人を走らせた。


「なぁ、ライム。村の中央にあるあのでかい建物は何なんだ? 周りの建物の作りと比べるとだいぶ豪華だけど」


「あぁ、あれは僕とアンナ、それと各獣人や各種族のリーダー的立場の人達向けの住居だよ」


「へぇ〜。ちょっと、ライムの部屋見せてくれよ」


「い、いや〜、あの建物はプライベートな空間だから……」


  それに、あの建物はサンダーパラダイスに加えて、今はヘルホワイトの機密情報がびっしり集まった建物だからな。

 それ以前に、ノアはゼーレ達に顔を晒しちゃったって言ってたし、他のメンバーの顔も覚えてたらマズイ。

 だから、ノアとその他にもゼーレと接触したことがある人物は皆んなあの建物に隠れてもらってる。


 だから、何としてでもあの建物にゼーレ達を入れさせる訳にはいかない。

 僕の夢だった、勇者の旅を陰からサポートする陰の組織を崩壊させない為に!


 その後、ゼーレ達をサンダーパラダイス本拠点に入らせない為に、僕とアンナは協力してお昼ご飯を提案したり、村のあちこちを案内して回った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから時は過ぎ、夕方四時。

 ゼーレ達は村の北端に来ていた。


「獣人の村ってもっと森と共存してる感じなのかなって思ってたけど、案外僕の村より快適な暮らしをしてるんだな」


 ゼーレは辺りの建物などを見渡しながら話した。


「まぁお前の村は最南端の村で、豪雪地帯の中にあるからな。気温的にも大森林の方がまだマシだろ。湿気はちょっと強いけど」


「二人共。村も一通り回ったし、そろそろ出発しましょ」


 レイラは額の汗をハンカチで拭いた後、魔法の杖を持ってライム達に話しかけた。


「うん、そうだな……。じゃあな、お前達」


 ライムは出迎えに集まった人達に手を振った。


「「「ライムお兄ちゃん、行ってらっしゃ〜い」」」


 こうして、ライム達は、混沌の大森林に居る老若男女、様々な種族の人々に見送ってもらい、ライムの故郷を離れたのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから三日後の夜8時頃。

 ライム達はエルーリ山の麓にある山小屋に着いていた。


 窓から見える景色は白一色の雪景色だ。


「これからは長い間空気の薄いところに居ることになるからな、今日は早めに寝よう」


 ライムが話している間、レイラは魔法の杖と帽子を床に置いてあくびをしていた。


「そうだな」


 ゼーレも剣を壁に立てかけて床に寝転んだ。


 それから数時間後。

 ゼーレとレイラは寒いからか、少し体をすり寄せて添い寝していた。


「やっと寝たか……。まぁ湿気でちょっと暑苦しい所から、一気に空気が凍ってるような所にきたもんな」


 ライムはそう言いながら、壁端にある大きなリュックに近づいて、雷鳴スーツを取り出した。


「熟睡してるとは言え、ゼーレ達の側で堂々と着替えるのは緊張するな」


 ライムは、ゼーレ達の様子を伺いながら、小声でそう言った。


「ゔっゔん。よし、リュックの中もちゃんと確認したし、戻りますか。サンダーパラダイスの拠点へ」


 ライトニングは大きなリュックを背負いながら山小屋を出た。


「時間は残されていない……。相手を侮る理由も無い……。我は我の成すべき事を成すだけだ……」


 漆黒の雷を身に纏うライトニングは、月光が照らす夜空に飛び上がる。


 決戦まで、あと三週間……。

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