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135 片時雨の空

 ライムがルミナス商会社長室を後にしてから数時間後。

 魔界全土は、記録的な土砂降りの大雨に見舞われていた。


 そんな中、魔界最北端に位置する魔王城では、玉座の間にて錚々たるメンツが集まった会議が開かれていた。


 玉座の間最奥には玉座が二つ用意され、そこにアビスとナハトが座っていた。

 他の魔将軍や邪神二人は、アビス達の前に一列で並んでいる。


「ナハトや魔将軍全員が一堂に会するのも何百年ぶりか……」


 アビスは重苦しく静まり返った玉座の間で第一声を放った。


「ま、結局あれから魔将軍は何人か死んで、全員が集まる事は無かったし、邪神様の方も二名欠けてるけどな」


 ナハトは邪神二人の方を見て鼻で笑っていた。


「ちっ、彼の方に認めてもらったからって図に乗るなよ」


 ファパースは額に血管を浮かばせて、怒り顔でナハトに向かって舌打ちをした。


「おいおい、オレにそんな口聞いて良いのか? 今のオレにはお前らが束になっても勝てねぇだろ」


 ナハトは玉座からファパースとシューゼを見下している。


「ディヒルア様は暇つぶしが目的だ。別にお前達の考えに賛同してるから魔王軍に手を貸してる訳じゃない。今ここでお前達を殺しても何も言われねぇだろうな」


 ナハトは邪神達を煽る様な言動を続けている。


「ナハト、煽るのは辞めろ。今は大陸侵略の策を考える時間だ」


 アビスは呆れ顔でナハトを叱った。


「分かってるよ、父さん。ライトニングや他の敵戦力にも期待できそうだし、双方の打てる手を全て打つ本当の意味での総力戦も楽しそうだ」


 そう言うナハトはニヤついた笑みを浮かべている。


「それで、ガルノとエスメよ。エンペラーズが全員倒されたと言うのは本当か?」


「はい、蒼の眼に関しては行方不明ですが、エンペラーズが全員倒された事で、指導者と主戦力を失ったナハト教団及び、砦の鎖は時が進むにつれて、崩壊の一途を辿ると思われます」


 ガルノはアビス達に頭を下げ、落ち着いた雰囲気で話した。


「ちっ、ナハト教団と砦の鎖は多種族を取り込んで魔王軍の戦力を強化できる良い駒だったと言うのに……。これで本当に、我々の使える戦力は魔族と魔物共だけになったと言う事か」


「エルフや獣人、それにドワーフ達も魔族だと言うのに、人間と友好的だからな。今回もどうせアイツらは戦力に加わらないと思うぞ」


 そう話すシューゼは、いつも通り異様な雰囲気を放っている。


「まぁ良いさ。こちらの戦力は世界を破滅に導くには十分すぎる程だ。ただ、今回は魂之力ソウルと言う概念に加え、勇者パーティーを支える陰の組織サンダーパラダイスが居る。互いに千年前と比べて戦力が増えている状況下では、何が起こるかわからない」


 アビス達がそんな話を続けていると、ファパースが突然口を開いた。


「ハッ、分かりきった前置きはそろそろ終わりにして、本題に入ろうぜ」


 ファパースはオレンジ色の魔力を全身から放ち、大きな声でそう言い放った。


「そうだな。では先ず初めに、勇者パーティーが魔王城に到着した際に、ナハトがディヒルア様の力で魔界最北端にある忌まわしき壁を消し去る。その合図と共に、我とセイカ、それにエミリアが空を飛んで南側からラスファートを目指す」


 その言葉を聞いたセイカとエミリアは、誇らしげにしていた。


「その間に、ナハトと龍が魔王城からラスファートを目指す。魔界に残っている邪神と魔将軍には、その援護と魔界に足を踏み入れた敵の殲滅をしてもらう」


 それを聞いたガルノ達と邪神の二人は怪しく笑っていた。


「そして我が無事に力を取り戻した暁には、魔族以外の種族と、それに手を貸した種族を虐殺し、我々魔族に服従を誓わせてくれようぞ」


 そう言い放つアビスは、殺意のこもった白く輝く鋭い眼光を放っていた。


「どうだ、邪神共。我々魔王軍はお前達の望んだ魔族ではないか?」


「ふっ、そうだな。お前達が彼の方のお眼鏡に叶う事を願っている」


 漆黒に染まったローブを羽織るシューゼは!小さな声でそう呟いた。


「世界には悪が必要だ。じゃなきゃこう言う戦いは生まれないからな!」


 ファパースは力強い声で言い放つ。


 その後玉座の間には再び静寂が訪れ、玉座の間にある大きな窓からは、土砂降りの雨音が聞こえていた。


 そしてそんなやり取りを陰で聞いている者達が五人、玉座の間の隅に居た。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ライトニング様の言う通り、私達だけで目指すよりも遥かに早く魔王城に着けました。ありがとうございます、ディストラ様」


 シエルは両手を腰の位置につけ、ディストラに頭を下げてお礼を言った。


「礼には及びません。それに同じくライトニング様をサポートする者として、私個人としても貴方方とは関係を持っておきたかったので、あまりかしこまらなくても大丈夫ですよ」


 ディストラは柔らかい表情をシエル達に向けている。


「ルナ様も、かの有名な黒龍王様が近くに居るお陰で私だけでなく、カルラやアイもいつも以上に任務に余裕を持って取り組めています」


「そう。ま、今回の任務はぼくと言う大船に乗ったつもりで望むと良いよ」


 ルナは自信満々の様子で鼻高々に言い放った。


「シエル、魔王達の会議終わったみたいだけどこれからどうする?」


 アイは飴を口に含みながら話した。


「そうね。敵の本拠地に長居は禁物だから、先ずは警戒しながら魔王城から出ましょう」


 シエルはそう言って、玉座の間の扉に足を向けた。


「ちょっと待ってくれる?」


 ルナはそんなシエル達を見て、慌てて口を開いた。


「どうしたんですか?」


「あの、ここに来た時からずっと気になる匂いがあって、それを確認してから帰りたいんだけど……」


 ルナは申し訳なさそうに小さな声で呟いた。


「分かりました。ルナ様がいくら強いとは言え、一人にする訳にも行きませんから、私達も同行させて頂きます」


「ん、助かるよ」


 こうして、シエル達は扉が開きっぱなしの玉座の間からこっそりと抜け出し、何処かに向かって行った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから時は経ち、朝8時。

 ライム達はラスファートを後にする為に先ず朝ごはんを食べていた。


「そうそう、昨日はレイラが疲れてて無理だったけど、旅立つ前にユニスさんから話を聞きたいんだけど……」


 ライムは申し訳なさそうにしながら、レイラの機嫌を伺っていた。


「ハァー、しょうがない。まぁ正直ユニスに体を預けるのは慣れてきたけど」


 レイラは不満そうにしながらお箸を置き、目を瞑ってユニスと入れ替わった。

 レイラの髪色は白に染まり、サンオレンジとブラッドレッドのオッドアイへと変化していく。


「やぁ、色々な事があって大変だったね。千年経ったらまさか神がこの世界に来てるなんてびっくりだよ」


 レイラが完全にユニスと入れ替わると、大人びた声と雰囲気を醸し出して一気にお姉さんな感じに変わった。


「あ、ちなみに丘の内部にあった魔王アビスの力を封印した経緯は、私達の仲間だった・ヒストアの『万物を分つ魔法』でアビスの体からある力、今の時代だと魂之力ソウルを切り離して、フラトの『光を作る魔法』で作った魔族を寄せ付けない魔法陣で封印したのさ」


「じゃ、レイラが精神世界に取り残されるのが苦手みたいだから、そろそろレイラと変わるよ。もう私に聞きたいことはないかな?」


「はい、今の所は。ユニスさん、ありがとうございます」


 ゼーレはユニスに頭を下げる。


「そうか。また何か聞きたい事があったらレイラに言ってね」


 明るくも儚さを感じる様な笑顔を向けながら、ユニスはレイラに体を戻した。

 それと共に、髪色と瞳の色はレイラ本来の色へと戻っていく。


「ハァー。精神世界って気疲れするから慣れない」


 レイラはぼやきながら、再びご飯を食べ進めた。


 数十分後、朝ごはんに加えて諸々の用意を終えたライム達は家を後にした。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ラスファート王城応接室。

 昨日の戦闘でボロボロになっているものの、顔を出すだけとは言え最低限掃除されていた。


「リサさん、ジャスティスクローの皆さん、オスカー王様。それでは行ってまいります!」


「あぁ、君たちの勝利を心から願っている」


 リサは凛とした立ち振る舞いで、ゼーレ達を元気づけた。


「命の危険を感じたら、逃げて良いんですからね」


 サキは心配そうな顔で勢いよくゼーレの手を両手で握りしめた。


「お前達の後ろには、『空想教会』が居る。昨日リサさんが公表したばっかだってのに、応募者が続々と出てきてるんだ。大陸の事は任せとけってんだ」


 イーサンは自信満々な笑みを浮かべて大きな声で言い放った。


「魔王軍に手を貸していた私たちが言うのもおこがましいが、助けが必要な時は頼ってくれ。今度こそは、きちんとこの国の騎士として接すると約束しよう」


 フィオナとその近くに居るラストナイト達は、熱い眼差しをゼーレ達に向けていた。


「勇者パーティーの皆様、今回はワシとクロエを守ってくださり、そしてアルバートを止めてくださり、感謝しています。本当にありがとう」


 オスカーは真剣な表情のままゼーレ達に礼を言い、ゼーレと握手を交わした。


「礼には及びません、僕達はクロエ王女との約束を守っただけですから。それに、オスカー王様は早く国に帰って王に戻ってあげて下さい。クロエ女王もそれを望んでいる筈ですよ」


 ゼーレは勇者らしく爽やかにハキハキと話した。


「そうですね。あの娘には王女と言う(くらい)はまだ荷が重すぎる。早く解放してあげなくては」


 オスカーは、王の威厳に相応しい凛々しくも優しい表情をしながら呟いた。


 暫くの静寂の後、リサが口を開く。


「そうだ。ここに来るまでに既に目にしたかもしれないが、勝手ながら魔王討伐に向かう君達の二つ名を決めさせてもらった。魔王討伐に向かう君達への期待を込めて、私とラストナイト、そしてジャスティスクローの皆さんで考えさせてもらった」


 そう言いながら、リサはライム達の前に新聞を広げた。


「えっと……」


 ゼーレは差し出された新聞を身を乗り出す様にして読んだ。


「ふむふむ、『命操(めいそう)の勇者ゼーレ』、『孤高の反撃魔術師レイラ』、『雷鳴の猫王(びょうおう)ライム』……」


「って、雷鳴の猫王は確かライトニングが名乗ってて無かったっけ? 勝手に名乗って大丈夫か?」


 ゼーレは焦りながらライムに問いかけた。


「大丈夫、昨日本人が僕に譲るって言ってたし、ライトニング自身はこれから雷鳴の覇者を名乗るみたいだから」


 ライムが明るい表情でそう話すのを、リサとフィオナ、そしてエリーは苦笑いを浮かべながら見ていた。


「って! 昨日ライム達の所にライトニングが居たのか! まぁライムが無事ならどうでも良いか」


「それでゼーレさん達、二つ名は気に入って頂けましたか?」


 リサはゼーレとレイラの顔を伺っていた。


「はい、カッコいい二つ名を有難うございます。これからはこれを使って名乗りたいと思います」


「私も、気に入った」


 レイラは少し恥ずかしそうに魔法の杖を握りながら、小さな声でそう言った。


 その後もライム達は和気藹々と会話を弾ませ、遂に旅立ちの時が来た。


「それでは、魔界へ行って参ります」


 ゼーレ達はリサやジャスティスクロー、そしてラストナイト達に見送られながら王城を後にして、ラスファートの北門を潜った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 空は雲一つ無い蒼穹。

 太陽は燦々と大地を照らし、勇者達は景色一面に広がる草原を旅していた。


「いや〜、ラスファートでも色々あったけど、こう言う景色を生で体感すると全部の感情が吹っ飛ぶな」


 ゼーレは伸びをしながら青く広がる空を見上げてそう言った。


「うん、これこそまさに旅の醍醐味。ここぐらいだもんね、草が一面に広がっていて木々が少ない草原は」


 レイラは魔法の杖を本当の杖のようにして歩きながら、壮大な景色を眺めていた。


「僕達はこういう景色を守る為にも、魔王達に勝たないとな」


 ライムのその言葉に、三人は顔を見合わせて意思を固めた。


 かくして勇者達は、魔王城目指して旅を続けて行くのだった。

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