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134 静かな夜

 ライム達対ラストナイトやスレング王に魔将軍、そしてフォパースの戦いが終わり、時刻はすっかり深夜11時を回っていた。


 そんな穏やかな月明かりに照らされる空の下、ラスファート北東区にある薄明同盟拠点のボロい一軒家のリビング。


 そこでは、ジャスティスクローがオスカー王と共にリサの元に行っていた事で、勇者パーティーだけの時間が流れていた。


「ハァー、今日は大変だったな。でも、この国が大変なのはここからだ。国中に瓦礫が散らばってて、深夜だってのに瓦礫の片付けをしてる騎士や住人がいっぱい居たし」


 ゼーレは勢い良くソファーに腰掛けて体を伸ばしていた。


「そうね。でも、私達には手伝っている暇は無い……。直ぐにこの国を出ないと、ナハトが言っていた四週間後に魔王城へ到達する事が出来ない」


 レイラは壁に魔法の杖を立てかけてから、ゼーレの隣に腰掛けた。


「そうなのか?」


「レイラの言う通り、ラスファートから僕の故郷の村まででも歩いて一週間は掛かる。四週間のタイムリミットを抱えながら、余裕を持って魔王城を目指すには、明日朝一でこの国を出た方が良い」


 ライムは何処か気まずそうにゼーレ達と距離を取りながら話している。


「そうか、じゃあ早く寝ないとな」


 ゼーレはそう言いながら、布団を床に敷いた。


「ところで、ライムは何で部屋の隅に居るんだ?」


「あ、いや、ごめん。ついさっきまでまさか二人がそこまで親しい関係になっているとは思ってなくて……。何か急に距離感分かんなくなっちゃてる」


 ライムは頬を赤らめながら、ゼーレ達をチラチラ見て話した。


「あぁ〜、そういう事か。でも、僕達が付き合ったのは結構最近だから気づかなくて当然だぞ。それに、旅の仲間に気を遣わせたくはないから、今まで通りの距離感で接して欲しい」


「私も、ライムの事は大事な仲間、そして友達だと思ってるから」


「そうか。ま、それもそうだよな。これから本格的に魔王城を目指すっていう時に気まずくなってる暇なんて無いもんな」


「そうだぞ。ライムが強いのは、レイラも旅の中で十分理解している。正直僕は魔族特攻やチート魂之力ソウルがあるから勇者として魔王に立ち向かえるけど、純粋な力ならライムの方が強い」


「ん? チート魂之力ソウル? そういやレイラの魂之力ソウルは聞いた事あるけど、ゼーレの魂之力ソウルってどんなのなんだ?」


「ふふん、聞いて驚く勿れ。僕の魂之力ソウルは森羅万象を浄化する魂之特性(ユニークソウル)純心(穢れ無き魂)』と、各々で生と死を司る神授之権能(ゴットソウル)死神(デハス)』に『生神(ラトフ)』だ!!」


 マジか、これは思った以上にゼーレが強くなってるな。


「そうそう、噂では魂之力ソウルは強者やその魂之力ソウルの特性に合った人が発現してるらしいけど、ライムは持ってないのか?」


「あ、えっと……。実は持ってるんだけど。まだ内緒にしたいかな。魔界に行ってからのお楽しみって事で」


「そっか。でも、内緒にするぐらい強い魂之力ソウルだって期待しちゃうぞ〜」


 ゼーレは揶揄う様に言った。


「あ、そうだ。気になってる事が二つあるんだけどさ、一つ目は、2人ってどうやって王城に侵入したんだ? 騒ぎになったりとかしてなかったから気になって」


「あぁ〜、それはユニスさんのお陰だよ」


 ゼーレは自慢げに話した。


「ユニスさん?」


「私がユニスに体を貸して、私達の周りの空気に音を発さないと言うルールを与え続けてたの。ほんと、『神秘付与(ミステリーギフト)』の扱いはユニスの方が上手いからって、長時間体を預けてると変な気分になる」


「ま、そのお陰で王城に居る騎士達と戦わずに済んだんだけど」


「で、もう一つは何だ?」


「もう一つは王城の地下、丁度丘の内部に当たる場所にあった勾玉模様をした玉について何だけど。あれが魔王アビスの封印された力なのは伝承とかで知ってるけど、どういう経緯で封印したのかレイラは知らないか?」


「う〜ん、この件についてはあまり詳しく語られていないから、私も詳しくは知らない」


「そうか……」


「でも、勇者パーティーに居たユニスなら何か知ってるかも」


「確かに! レイラ、ユニスさんと変わってくれないか?」


「ごめん。今日は長い間ユニスに体を預けてて、もう魔力が残ってないし、普通に疲れたから寝たい。ユニスに体を預けるのにも魔力を消費するし、ユニスが魂之力ソウルを使う時にも魔力を消費するから」


 そうぼやきながら、先に敷いていた布団に気絶する様にして眠りに入った。


「ふわぁー、じゃあ僕も寝るよ。おやすみ、ライム」


 ゼーレはそう言って、レイラの横に敷いていた布団に寝転がって目を瞑った。


「う、うん、おやすみ」


 思っていたよりも早く横になる仲間に戸惑いながらも、ライムは静かに布団を準備し始めた。


 それから数分後。


「よし、二人とも寝たな」


 ライムは二人が寝たのを確認すると、リビングを後にして外へと出ていった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 深夜に外へ出たライムは、ラスファート東南区にあるルミナス商会本社の社長室に到着していた。


 そこでは、ライムはソファーに座り、カルラごライムの肩を揉んでいた。


「力加減は、ど、どうでしょうか?」


「丁度いいよ、カルラ」


 ライムは顔を緩ませながらそう答えた。


「あ、有難うございます」


 カルラは小さな声でそう言い、ライムの肩を揉みながら嬉しそうに微笑んでいた。


「ライトニング様、今日もお疲れ様でした」


 ライムの正面にあるソファーに座っているシエルは、湯呑みを静かに机に置き、そう言った。


「お疲れ様です、ライトニング様! ハムハム」


 シエルの隣では、アイがお菓子をボリボリ食べ続けている。


「皆んなも、今日はイレギュラーな奴が来たのに柔軟な対応をしてくれて助かったよ」


 ライムはカルラに肩を揉まれて顔が緩くなったまま話した。


ライムがカルラの肩揉みを堪能していると、ライムの影からディストラが出てきた。


「今回は見せ場を用意して下さり有難うございます」


 ライムの影から出たディストラは冷静な口調で話しながらライムにお辞儀をした。


「あぁ〜。ああいう敵の攻撃を潰さないといけない状況だと、僕よりディストラが対応した方が被害が少ないからね。でも、ガルノも僕が退社したと思ってたみたいだから、陰の実力者ムーブは大成功だったよ」


 ライムがそう言うと、ディストラは満足そうな笑みを浮かべていた。


「ふぅ〜、カルラのマッサージ気持ち良かった。カルラ、マッサージはもう大丈夫だよ」


「了解です」


 かるらはライムにお辞儀をした後、シエルとアイが座っているソファーに腰掛けた。


「そうだ、ユキネ。スレングとの交渉はどうなったんだ?」


 カルラの肩揉みを堪能したライムは、真剣な表情に戻し、社長机で大量の紙に目を通していたユキネに話しかけた。


「この先、魔王との戦いは激しさを増すでしょう。ライトニング様の助言の通り、武器を作る工場や武器そのものの価値はまさに青天井の如く上がると推測し、武器のみならず、ラスファートが所有していた工場の半数近くを買収致しました」


 ユキネは怖さを感じる余裕の笑みを浮かべている。


 げっ、そんな意味で『この青天井に終わりなど来ない……』って言った訳じゃ無いんだけど……。

 ま、ユキネの考えも一理あるし、過ぎたことを気にすることもないか。


「あ、あのさ、ユキネにはぜひ前線に立って欲しい。だからさ、これから暫くの間は誰かに商会を任せる用意をしておいてくれ」


「ご安心下さい。スレングとの交渉はどうしても私が対応しなければなりませんでしたが、ライトニング様達がこの国に入った時点で、ルミナス商会を数日空ける準備は整っております」


「抜かりは無いか……。流石はユキネだ」


「お褒めに預かり光栄です。ライトニング様」


 ユキネは座ったまま軽く頭を下げた。


「そうそう。勇者パーティーがエルフの里に到着した時ぐらいに、決戦前最後の会議をサンダーパラダイス本拠地で開く予定だから、それにも参加するつもりでいてね」


「了解致しました。それまでには、ルミナス商会での用事を全て処理しておきます」


 ユキネは椅子に座りながら、ゆっくりとお辞儀をした。


「最後に一つ、これはシエル達とディストラにお願いなんだけど……」


 ライムがそう言うと、アイはお菓子を食べる手を止めた。


「今回の戦いで魔王軍はかなり戦力を失った。ナハトが宣戦布告をしに来たとは言え、あちら側ももう一度主戦力を集めて会議をしたい筈だ」


「そこで、シエル達にはその会議の情報を盗んできて欲しい」


「っ! その、私達を頼ってくださるのは嬉しいのですが、魔界の調査はラビッシュ様が対応している筈ですが……」


「いや、今回に関してはラビッシュには荷が重い。だってアイツ何回かは魔王軍に見つかってるみたいだしな。流石のラビッシュも今回見つかれば逃げれないだろう」


「確かに、ラビッシュ様は豪快な人だもんね」


 アイはラビッシュを馬鹿にした様にくすくすと笑っていた。


「ラストナイトや魔将軍との戦いでお前達の力は分かった。シエル達の所にディストラが加われば隠密行動もやり易いだろう。それにディストラの魂之力ソウルなら、進化した獣人じゃ無いお前達でも、ここから一瞬で魔王城まで行ける」


「了解しました。この陰の実力者がシエルさん達をサポートしましょう」


ディストラは自信満々に言い放った。


「あぁ。ディストラ、よろしく頼む。でも、シエル達だけだともしもの時が怖いから、ルナも一緒に同行させろ。本当は虹雷剣の誰かが良いんだけど、自分たちの仕事で手を離せないだろうし、ルナなら魔王二人に魔将軍、そして邪神達に囲まれても数十秒は対抗できるだろうし」


 そう言いながら、ライムはソファーから立ち上がり、社長室の扉に向かって歩き出した。


「勇者パーティーがラスファートを後にしたと言う情報は、瞬く間に大陸中に知れ渡るだろう……。決戦の時は近い、使える戦力と戦略は全て使う。勝つのは我々サンダーパラダイスだ」


 ライムはライトニングの低い声でそう呟きながら、社長室の扉を開けてユキネ達と別れた。

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