132 モノトーン達の初対面
リサの作った一面真っ白な空想次元において開始されたライトニングとファパースの力比べ。
両者は互いに一歩も引かない激しい戦闘を繰り広げている。
「ちっ、流石は力の神、実質無限の魔力で身体強化しているのに純粋な力で負ける」
ライトニングは手を閉じたり開いたりしながら、痛そうにしていた。
「そりゃあ神は全員魔力無限だしな。それに加えて、力の神は純粋な筋力にバフが掛かっている。ま、俺様との戦いで純粋な殴り合いを選択する様な、イかれた奴との勝負は好きだ。もう少し相手してやるよ」
全身に橙色の魔力を纏わせているフォパースは、余裕の笑みを浮かべていた。
そう、力を司り、敵が発する力すらも掌握できるフォパースにとっては、己の力を解放すれば勝つことが確定している、読んで字の如く娯楽でしか無いのだ。
たとえ、相手がどんな強者であっても……。
「そうか、ならば……」
ライトニングの飛び出しを合図に、二人は激しいルール無き喧嘩の様な戦闘を続けていた。
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一方ライトニング達から遠く離れた所では、ガルノとエスメが二人の戦いを眺めていた。
「な、あれから結構走ってあいつ等から離れたけど、普通にここに居ても俺達死ぬくね?」
ガルノは絶望混じりの苦笑いを浮かべていた。
「いやよ! 私、まだナハト様と結婚してないもん!」
エスメは無力な自分にムカついているのか、行き場のない怒りをガルノにぶつけている。
「いや、そんなん言ったって俺達じゃこの世界から出る方法はないだろ!」
二人は言い合いながら、更に遠くまで走るのだった。
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ライトニングとフォパースは全力で拳をぶつけ合った後、後ろに飛んで距離を取った。
「俺の一振りは地形を変える核レベルだ……。耐えてみろ、ライトニング!」
ファパースは橙色の魔力を右拳に集中させていた。
「ふっ、この世界で核と相対する事ができるとは。ならばこちらは宇宙創生の力を持って相手しよう……」
ライトニングは美しい姿勢のまま、右人差し指を自身の顔の正面に立てた。
すると、ライトニングの人差し指からほんの少し離れた所に極小の目に見えるかどうかレベルの漆黒の雷玉が出現し、辺りに強い魔力と黒雷を放出していた。
少しすると、極小サイズの漆黒の雷玉は小刻みに震え始め、凄まじい轟音と共に徐々に膨張を始めていた。
「全てを吹き飛ばす我が拳よ! 『星爆核覇王拳!!』」
フォパースが下に居るライトニング目掛けて拳を放つと、橙色の魔力が爆音と共に爆ぜてキノコ雲が空高く上がった。
しかし、キノコ雲は黒雷によりかき消された。
「くっ! これで傷すらつかぬか」
核レベルの爆発をももろともせず、ライトニングは魔力を漆黒の雷玉に注ぎ続ける。
「世界を漆黒に……。『黒雷之宇宙創生爆発』」
ライトニングがそう言い放つと、漆黒の雷玉はその場に居る者の脳が視覚情報を処理できぬ程の速さで急速的に膨張し、その場に居る者が理解できぬまま『空想次元』は漆黒に包まれた。
だが、力の神がライトニングの実力を見誤っていた訳では無かった。
力の神は来る事が分かっていたライトニングの技を一アト秒も経たない無意識下の中で、漆黒の雷が持つエネルギー全てを掌握し、漆黒の雷全てを己の手中に収めたのだ。
フォパースの判断と技量がこのレベルに達していなければ、ガルノとエスメが漆黒の雷に触れた瞬間、細胞一つ残さず消滅していただろう。
まさに、神業である。
1秒後。
フォパースは漆黒の雷を握っている右拳を大きく振り翳し、橙色の魔力で包んだ漆黒の雷を真下へと放った。
そして、『空想次元』は漆黒の雷と橙色の魔力によって、粉々に散った。
そして気付けば空は暗くなっており、ライトニング達は月光の元に放り出された。
一方、漆黒の雷と橙色の魔力が融合したとてつもないエネルギーはラスファート王城中央の地面目掛けて落下し続けていく。
落下した膨大なエネルギーが地面を貫通すると、その中から一瞬魔法陣の様な物と巨大な空間が顕れ、膨大なエネルギーと衝突した。
数秒後に土煙が引くと、ラスファート王城中心部に出来た巨大な穴の下には、禍々しい雰囲気を纏った白と紫色が勾玉模様を描く巨大な発光している球体が浮いていた。
一方『空想次元』から解放されたライトニング、フォパース、そしてガルノとエスメは王城最上階の玉座の間に立っていた。
「あれは……」
ガルノは驚いた表情で遥か下にある禍々しい力を秘めた巨大な玉を見つめていた。
「アビス様の封印された力……」
玉を見つめているエスメは嬉しそうに目を輝かせていた。
「にひっ、やはりそうか……」
地下深くに封印されしアビスの力を見たライトニングは、予想通りと言わんばかりに怪しく笑っていた。
「魔王軍よ、そこまでです!」
玉座の間に、色っぽくも強く芯のある大人な女の人の声が木霊する。
「魂を封じ、留める氷結。究極之魂『封魂狩人』、『封魂之狐吹雪』」
フォパースやガルノ達がその存在に気づいた時には既に遅かった。
フォパースは一方向から迫ってくる吹雪に見舞われ、それが通り過ぎた頃には巨大な白い氷に閉じ込められていた。
「いや〜、あのままだったらリサの作った次元越しにラスファートを壊す所だった。止めてくれて助かった、有難うユキネ」
ライトニングは柔らかい表情でユキネに近づいた。
「いえ、その為にリサさんにも内緒でこの次元に潜入させて頂いたので」
ライトニングとユキネが氷漬けにされたファパースの前で話している中、リサの作った『空想次元』の外側に怪しい影が近付いていた。
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「これは厄介な魂之力持ちが敵に居るな……」
黒い2本の角をフードで隠した悪魔の男が月光の元でそう言いながら、『空想次元』に右手を触れる。
悪魔の男がそのまま右手に魔力を込め、白い雷を放つと、一瞬にして『空想次元』は解除された。
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ライトニング達はそんな怪しい影にも気付かずに話しをし続けていた。
「おいおい、サンダーパラダイスはライトニング頼りじゃなかったのかよ」
フードを深々と被った悪魔の男は静かに玉座に腰掛け、月光に照らされながらライトニング達を見下して言葉を発した。
「っ! 狐獣人である私が魔力を感じれなかった!? それに、リサさんの魔法もいつの間にか解除されてる!!」
いきなり目の前に現れた悪魔に、ライトニングとユキネは直ぐに戦闘態勢に入った。
「注意すべきはそれだけじゃ無い。移動の音、空気の流れ、それにあいつの存在感そのものが無だ。まるで幽霊を見てるみたいだな」
それもそうだが、ユキネの言った通りリサの作った空想の次元を一瞬で消滅させるなんて、相当な実力者だ。
神授之権能持ちか、神本人だろうな。
「フッ、オレは幽霊じゃねぇよ。魔王アビスの息子にして、この時代2人目の魔王ナハトだ」
ナハトはフードを取ってそう言い放った。
その髪色は銀色のインナーカラーは変わらず、元々黒かった髪は真っ白に変色していて、雰囲気も落ち着いたものになっていた。
そして、玉座に腰掛けながらそう名乗る姿は禍々しく、魔界の王に相応しいオーラを放っている。
ライトニングとユキネはナハトの名に驚愕し、ユキネは冷や汗を流している。
魔王ナハト!? つまり、既にナハトは魔王に覚醒していると言う事か。
そう言えば、魔王に覚醒する条件って何だろう?
僕の時は魔族達と多種族のいざこざを解決したら、勝手にそう呼ばれ始めただけだし。
獣人が進化した時のステータスは、魔王の一族がデフォルトで持ってるから、条件も違うだろうし。
「フォパース、オレに貸しが一つ出来ちまったな……」
ナハトはそう言うと、玉座に腰掛けたまま右腕を天に挙げ、その腕に白雷を大きな音と共に落とした。
月光が夜に輝く中、それに負けぬ程白く発光する雷がナハトの周りに漂っている。
白雷!? ナハトは白雷使いか!!
ライトニングは自分と正反対の色をした雷を使うナハトを見て、嬉しさのあまり思わず笑っていた。
「氷を虚無に帰せ。神之権能『絶望神』、『絶望神之虚無白雷槍』」
ナハトは天に掲げた腕で白雷の槍を握り、凍ったフォパース目掛けて勢いよく投げつけた。
ナハトが放った白雷の槍は音速の速さでフォパースに直撃した。
フォパースに直撃した白雷の槍は、白い氷を瞬きも許さぬ速さで消し去り、雷鳴と共にフォパースは白い氷から解放された。
白雷は神之権能の力か。
リサの空想次元を破り、万物を封じるユキネの氷が一瞬で消えたと言う事は、解除系魂之力、もしくは破滅帝以上の破壊系魂之力だろう。
どっちにしても、僕のラスボスにはちょうど良いぐらいの化け物に変わりはない。
ナハトの力を目の当たりにしたライトニングは、嬉しそうに不適な笑みを浮かべていた。
「ちっ、流石は魔族と同等レベルに魔法や魔力操作に優れた狐の獣人だ。同じ次元に入っていたなんて全く気付かなかったぜ」
「有難うございます、力の神様。まぁそちらの方には劣るようですが」
ユキネは自身を下げる皮肉を言いながら、怪しくナハトに微笑みかけた。
「ハッ、オレは特別だからな。それに、お前は他の魔族連中よりかは魔力操作に優れている。誇るが良い」
ナハトはユキネを見下しながら偉そうに言い放った。
「さて、ライトニングにフォパースよ。オレが次元を壊してしまったが、まだ戦いを続けるか?」
ナハトは玉座に座りながら、無限とも思える白い魔力を大量に放出して静かにライトニング達を威圧している。
「そうだな。我も別にこの国を巻き込んでまでお前達を今すぐに殺したい訳じゃない」
「こちらもここで魔将軍を巻き込むのは本意ではないな」
「なんだ、力の神の割に状況判断が出来るんだな」
「ふっ、別に俺様は頭まで力に支配されている訳ではないわ。バカにするな」
フォパースがライトニングと言い争っている隙に、ガルノとエスメはナハトの近くまで移動していた。
「双方停戦を望むと言う事で決まりだな」
「では、ライトニングよ。いや……」
ナハトは玉座から立ち上がり、王城中央に出来た吹き抜けになった部分まで移動した。
「聞け! オレの名はナハト。魔王アビスの息子にして、この時代二人目の魔王だ! オレ達魔王軍は、今日から四週間後に魔族含む魔王軍全勢力を持ってこの大陸を侵略する!」
その声は下に居るゼーレ達までハッキリと届いていた。
「これは魔族との友好を完全に拒否した報復でもあり、種族同士の正義と悪をぶつけ合う世界全てを巻き込んだ戦争だ。信念無き者、己を守れぬ者には、我々魔族と魔物が絶望と滅亡と言う名の鎮魂歌を送ろう……」
「止めたくば来るが良い……。オレ等の本拠地、魔界、そして魔王城へ……」
銀色のインナーカラーが入った長めの白髪が夜風で靡く。
「オレは戦いが好きだ。小細工なしで迎え撃ってやる……」
ナハトは力強い声と共に両拳を強く握りしめた。
「絶望の時は近い……。終焉は必ず来る……。オレ達を楽しませろ」
不敵な笑みを浮かべるナハトの濃い紫色をした瞳は、月光を反射して怪しく光っていた。