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127 青天井の意味

 ライムがリサに語り始めたのと同時刻。

 ラスファート王城1階にある応接室。


 そこでは、ユキネとルミナス商会の従業員2名、そしてスレング王とマテオとフィオナがソファーで向かい合っていた。


「先日お伺いした時に忠告しましたよね? 我が国に従わないのなら、ルミナス商会のラスファートでの商売は今後一切認めないと」


 スレングは、高圧的な口調でユキネを問い詰めた。


「ふふっ。自国のみならず、他国までもを経済と力で支配しようとしている貴方達からすれば、大陸中に経済路線を伸ばし続け、顧客からの支持率も高い私達が目障りなんでしょう」


 スレングの高圧的な態度も気にせず、ユキネは余裕の笑みを浮かべる。


「あぁそうだとも、だがそれがどうした? ここはケリーの一族が代々治めてきた国だ。そこで好き勝手されたら面倒だから出て行けと言っている。主導権はこちらにあるのだよ。分かったらさっさと買い取れませんと言ってこの国から出て行け!」


 スレングが大声で言い放つと、ユキネは怪しく微笑んだ。


「いえ。提案された量以外にも、そちらが所有している武器や武器工場を買い取れる分だけ、我がルミナス商会が買い取らせて頂きます」


 ユキネの言葉に、スレング達は驚愕の表情を浮かべて固まっていた。


「そんな大金を使っては、それこそこの国から撤退せざるを得なくなりますよ。ルミナス商会のトップがこんなにも経営下手だとは」


 スレングは、苦笑を浮かべながら嘲罵した。


「あら? 生産性が落ちるのが目に見えていて、尚且つ貴方にはもう武器が必要無い。だから、多くの武器を高く売れる時に大金を持っている商会に買わせようとしたんでしょ? なら工場が数個無くなっても、問題ない筈ですよね」


「生産性が落ちる? 何を言っている」


 スレングの表情は、一気に曇り始めた。


「調べはついているんです。なので、この商談の主導権は既に私達の手の中なんですよ」


 ユキネはそう言いながら、隣りに居る従業員から紙を受け取り、スレングの前に提示した。


「これは誓約書です。どうすれば良いか、分かりますよね?」


 ユキネは全てを見透かしているかの様な、深海色の冷たい瞳をスレングに向けている。


「ぐっ。マテオ、情報が漏れているのか?」


 スレングはマテオに顔を寄せ、小声で詰めた。


「分かりません。しかし、ここは従う他無いかと……」


 マテオは緑色の眼鏡をクイッと上げ、冷や汗を流している。


「わ、分かったルミナス殿。そちらの提案を受け入れよう。だが、工場を売却するには時間が掛かる、誓約書を書くからここはそれで勘弁してくれ」


 スレングは低い姿勢で短髪で赤のメッシュが入った黒髪を掻きながら、ユキネ達の態度を伺った。


「良いでしょう」


 ユキネがそう言うと、スレングはマテオから筆を預かり、誓約書にサインした。


「誓約書のサイン、きちんと頂きました。それでは私達はこれで……」


 ユキネはそう言いながら立ち上がると、一緒に来ていた従業員の人も立ち上がって応接室の扉を開けた。


「貴方達が青空を見上げられる事、心より願っております」


 ユキネは冷気を纏ったオーラを出しながら、雪の様な白髪ポニーテールを揺らして姿を消した。


「最後の言葉……。やはり、ルミナス商会と薄明同盟は繋がっているんでしょうか?」


「さぁな……。おいライアン達よ、入って来い」


 スレングがそう言うと、ライアンやガルノ達が応接室に入って来た。


「エリー、奴等は今日来るんだよな? まだ片腕での戦闘慣れてねぇんだけど」


 ライアンはノアに斬り落とされ、包帯を巻いている右腕を擦りながら、強がる様に苦笑していた。


「えぇ、後少しでリサと風祭雷霆が来ます」


 エリーは暗い表情で佇んでいた。


「エリー、この戦いの勝者はどっちなんだ?」


 ファティーが落ち着いた口調でエリーに問う。


「見ていません……」


 エリーは、ファティーから目線を逸らし、小さな声で呟いた。


「それで良い……。それよりエリー、私のせいでこんな所まで連れてきてしまってごめんなさい」


「何を今更。それにフィオナが居なくても、どうせスレング王様は私の魂之力ソウルも利用できると判断してましたよ。ですよね? スレング王様」


「スレング王様」


 フィオナはソファーから立ち上がり、黒く真っ直ぐな瞳でスレングを見つめた。


「何だ?」


 スレングはフィオナを不満そうな顔で見上げた。


「死ぬ時は一緒ですから、自分だけ生き残れるなんて思わないでください」


「ふっ、手を抜く素振りを見せたら、先に我がお前等を殺してくれるわ」


 スレングがそう言い放った刹那、ラスファート全土を覆い尽くさん程の強大な魔力が突如として顕れた。


「な、何だ!?」


 スレングは立ち上がって天井を見上げ、ラストナイト達は鬼気迫る表情で戦闘態勢に入った。


 すると、上の方からバチバチと雷の音が鳴り始め、数秒後には応接室に一筋の雷霆が落ちた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 雷霆が落ちた応接室は天井に穴が空き、埃と木屑が舞っていた。


「ちよっと、そんなに恐がらなくても……。拙者達の方が悪者みたいでござる」


 埃と木屑が落ち着き、視界が鮮明になると、その中から女の人と猫の獣人が姿を現した。


 その二人は、稲妻が模様された忍者装束を身に纏い、自身の周りに雷を漂わせている風祭雷霆と、白い剣に紫色の魔力を纏わせ、赤く燃え盛る炎の様な赤髪ポニーテールを風で靡かせているリサだった。


「拙者の名は風祭雷霆……。祭りの如き派手さで陰を遂行する者でござる……」


「風祭雷霆、お前は……。いや、今は良いか。リサに風祭雷霆……。お前達が協力関係になるとはな」


 フィオナは一瞬言葉を詰まらせたが、直ぐに不敵な笑みを浮かべた。


「あの日から色々あったんだ。それよりフィオナ、今日こそ決着をつけさせてもらうぞ」


 リサは殺意の乗った鋭い眼差しでフィオナを睨む。


「国王を殺そうとする者相手なら、お前も本気を出すしか無いだろ?」


「ふっ、そうだな……」


 リサに挑発されたフィオナは嬉しそうに微笑み、白い大剣を鞘からゆっくりと抜き出した。


「それではリサよ、他の者は拙者達が相手する。フィオナを頼んだぞ」


 雷霆はそう言い、フィオナと他のラストナイト達の間に一瞬で移動した。


「ラストナイトよ、その者を頼んだ」


 フィオナはエリー達に優しく微笑みかけると、エリー達は静かに頷いた。


「私の名は『黒炎雷の騎士』フィオナ・ロワーリ。ラストナイト団長として、国に反する者に罰を下す!」


 烈火の如くフィオナが言い放つと、ウェーブがかった黒く長い髪は黒炎に変化して燃え盛り、その周りに黒雷がバチバチと漂い始めた。


「私はラストナイトの為に最後まで戦う!」


 フィオナが振り払った白い大剣は黒炎と黒雷を纏い、凄まじい魔力を放っている。


「想像力に際限は無い。空想を取り上げる事など誰にも不可能だ」


 リサの白い剣には、紫色の魔力が波打つ様に流れていた。


「今の拙者には、手加減する余裕など無いぞ……」


 雷霆は忍者装束の隙間から怒色の混じった黒き瞳を覗かせ、緋色の刀には黄色い雷を纏わせている。


 雷霆の前には、フィオナを除いたラストナイト達やガルノとエスメが魔法を身に纏い、戦闘態勢に入りながら、冷や汗を流していた。


 そんな緊迫した状況の中、穴の開いた天井から雷鳴スーツを着たエルフが3人、応接室へと静かに降り立った。


「シエル達か……」


 雷霆はシエル達をチラ見して呟いた。


「その服は……、サンダーパラダイス!」


 ファティー達は、シエル達の服装を見て驚きの表情を浮かべていた。


 手に汗握る呼吸さえまともに出来ない空気を、フィオナが突き破る様に声を上げた。


「力を奪う黒き烈日と破滅の黒雷よ、彼の者達を葬りされ! 『死誘之黒炎雷斬タナトス・ザ・サンダーフレイム!』」


 フィオナはそう言い放ちながら、黒炎と黒雷を纏った白い大剣をリサ目掛けて大きく薙ぎ払った。


 すると禍々しい程に黒く燃えたぎり、離れていても肌がヒリヒリする程に強い電圧を放つ黒い斬撃が、轟音を上げながらリサに向かって行った。


「私は、ここら一帯を吹き飛ばす覚悟で来てる。際限なき空想よ、全てを吹き飛ばせ! 『空想暴風ファンタジー・テンペスト』」


 リサが白い剣を振るうと、黒い斬撃目掛けて紫色の暴風が吹き荒れた。


「おいおい、今の拙者では相殺しきれるかどうか……」


 雷霆は楽しそうに微笑みながら、緋色の刀が黄色に染まる程、雷を多く纏わせて逆手で構えた。


「ガルノ、アンタの暴風で何とかしなさいよ!」


 エスメは深碧色の髪をリサ達が起こした暴風で激しく揺らしながら、ガルノの袖をぎゅっと握っていた。


「いや、そんな急に言われても……」


 ガルノは苦笑いを浮かべながら、ただ呆然とリサとフィオナの魔法がぶつかるのを待っていた。


 轟音を伴う黒い斬撃と紫色の暴風が吹き荒れ、夕空に凄まじい音を響かせている中、刻一刻とその時は迫る。


 そして、その時は来た。


 リサとフィオナの魔法は正面から衝突し、凄まじい爆音と爆風と共に、ラスファート王城は応接室を中心に殆どが爆散した。

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