124 夜に蠢く策略
サリファ救出を成功させた薄明同盟は、拠点にサリファやオスカー王と共に戻っていた。
「オスカー王様は疲れている様子でしたので、先に二階で眠るとの事です」
リサは扉をそっと閉めて、ソファーに座った。
「聖女救出作戦が、まさか別の国の王を助けることになるとはね……。大変な時代に生まれたもんだ」
エイダンは疲れた表情を浮かべ、溜息を吐いていた。
「私達も、もう深夜2時なので寝ましょう」
イーサンがそういう先には、気まずそうに視線を合わせないように座っているリサとサリファが居た。
「そうね。サリファさんは私と寝ましょ♪」
サキはサリファの手を引いて、軽い足取りで2階に上がっていった。
他のジャスティスクローやリサも2階へと上がり、残ったのは勇者パーティーだけになった。
「じゃあ僕達もそろそろ寝よっか。今日はサリファさんを守る為に僕達もここに泊まるんだし」
「うん、寝ましょ」
ゼーレとレイラはリビングに敷かれた布団を少し近づけ、互いに別方向を向いて横になった。
あのー、もしかして僕邪魔だったりしますかね。
そんな事を思いながら、ライムはそっと玄関に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
深夜3時頃。
ラスファート東南区にあるルミナスデパート兼ルミナス商会本社の社長室。
そこに一人の獣人が窓を開けて入った。
「ライトニング、お疲れ様」
アンナは、お茶を飲みながら優雅に出迎えた。
「三人も、今日はありがとう」
ライトニングは、優しい笑顔を3人に向ける。
そんなライトニングに、ラビッシュは目を輝かせながら抱きついた。
「ボス! ボク、いっぱい頑張ったよ! 褒めて!」
ラビッシュは頭を差し出して興奮気味に話していた。
「うん。ありがとうな、ラビッシュ」
ライトニングは優しくラビッシュの頭を撫でながら、ソファーに腰掛ける。
ラビッシュはライトニングから離れ、向かいのソファーに飛び移った。
「てか、ユキネとシエル達は居ないのか」
「シエル達ナイトサンダーズには、中央区の調査をお願いしてるわ。シエルとアイ、そしてカルラは主にスレング王の調査をしている筈よ」
「そっか、シエル達ナイトサンダーズは何でも出来るな。それで、ユキネの方は?」
「ユキネは最近忙しいみたいだからな」
ノアはお菓子を食べながらそう話した。
「そうか……。なぁアンナ、どんなトラブルなのか聞いてないか?」
ライトニングに質問されたアンナは、嬉しそうに答え始める。
「えっとー。確か、スレング王や鎖の砦が噛んでる工場から、武器を適正価格以上の値段で無理やり買わされそうになってるって言ってたわ」
「大量の武器? 何で商会に売るんだよ。武器なんていくらあっても国や闇組織としては誰にも渡したくない筈なのに……。これは、調査する必要がありそうだな」
ライトニングは顔に陰を作り、不敵な笑みを浮かべた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻、ラスファート王城の玉座の間。
そこでは、ガルノとエスメ、ラストナイト達がスレング王に招集されていた。
「お主ら、『聖女奴隷』を奪われたらしいな」
スレングは玉座に座りながら顔に陰を作り、低い声でその場の空気を更に重くした。
「申し訳ございません」
フィオナ達ラストナイトは、深々と頭を下げた。
「ま、『奴隷聖女』自体は、フィオナが表の世界にバレぬように効率良く強くなる為の道具に過ぎなかったから、私的にはどうでも良い……。だから問題なのは、リサ率いる薄明同盟とやらにこの国の実態を世論に暴かれ、それに加えて滅紫の剣を殺された事だ」
スレングは前屈みになり、不敵な笑みを浮かべる。
「お主ら、どう責任を取るつもりだ?」
スレングの放つ威圧に臆すること無く、マテオが前に出て話しを始めた。
「先ず薄明同盟についてですが、先の戦闘で判明した通り、魔剣士リサとジャスティスクローに加え、勇者パーティーが構成員である以上、こちらから仕掛けるのはリスクがあるかと思われます」
マテオの話しの間、スレングは変わらず圧を放ち続けている。
「ですので、彼らの目的であろうフィオナ含め、スレング王様には二人ずつラストナイトが護衛致します」
マテオが話し終わると、スレングは少しの間、目を瞑り考え込んだ。
「……、そうか。なら、エスメとガルノもその作戦に加われ」
「分かったわ」
エスメは軽く溜息を吐いて返事をした。
「了解、スレング王……。これで奴等とも戦えるって訳だ」
ガルノは闘志に燃えたぎった赤い瞳でニヤリと笑みを浮かべた。
それを他所に、マテオは淡々と報告を進めていく。
「続いて、滅紫の剣についてですが、恐らく魂之力による効果で眠るように息を引き取ったと鑑識の結果が届いております」
「あのバカが、死に急ぎやがって」
スレングは鬼の形相で舌打ちをした。
「そして、実質的トップであった滅紫の剣の死により、砦の鎖は少しずつ力が衰えていくと予想されます」
マテオは頭を下げた後、一歩後ろに戻った。
「ちっ、砦の鎖はナハト教団の一活動、そして隠れ蓑として使っていたのに。面倒を残しやがる」
スレングは玉座にもたれ掛かり、溜息を吐いた。
「ま、実際サンダーパラダイスとかヘルホワイトみたいな例外を除いて、この大陸にナハト教団の噂って全然出回ってないもんな」
ガルノは晴れやかな表情で話した。
「まぁ各国の首脳陣ですら、砦の鎖に意識が囚われてますから。庶民がナハト教団の存在に気づかなくても無理は無いのでしょう」
エスメは冷静に、淡々と語った。
「ま、過ぎた事は仕方が無い……。それに、奴隷聖女を今更失った所で、薄明同盟もサンダーパラダイスも、その他全ての勢力すら、私の皇帝への道を防ぐ事は出来ない」
「お前が皇帝になったとしても、魔王よりかは地位が下なのを忘れるなよ」
「分かってる。この協力関係が対等でないことぐらいな」
「終焉は近い……。どんな道を辿ろうとも、私達が勝つ。我々の楽園はもうすぐだ……」
「ラストナイト、魔将軍。武運を祈っている」
スレングの言葉を聞いたラストナイト達やガルノとエスメは、スレングに一礼し、玉座の間を後にした。
「遅すぎたんだよ。勇者が来るのも、反旗を掲げるのも……」
玉座の間に、スレングの不気味な笑い声が反響している。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は玉座の間の出入口付近の柱の後ろ。
そこには、柱の陰からラストナイト達を監視しているシエル、アイ、カルラの姿があった。
「ふふん。彼奴等、アイ達が居るのにも気付かないなんて、間抜けだね」
アイは柱の陰から顔を覗かせ、嘲笑を浮かべていた。
「それは、魔力で干渉できる範囲の音を完全に消し去るカルラの魂之特性『夜之静寂』のお陰なんだから、あまり気を抜かないでね」
シエルは優しい口調で話した。
「分かってる。でもカルラが集中出来てるのだって、どんな精神状態であろうとも、自身や他者をいわゆるフローやゾーンの状態へと強制的に没入させられるアイの魂之特性『独走精神』のお陰でしょ?」
「そうね。でも音が出ないからって、任務中にお菓子を食べようとしないで」
シエルが呆れ顔を向けている先では、アイが雷鳴スーツのポケットからお菓子の袋を取り出そうとしていた。
「うっ、ちょっとぐらい良いじゃんか〜」
アイは文句を言いつつ、お菓子の袋をポケットにしまった。
「だ、大丈夫です。私、このくらいの事はやり遂げられますから」
少し後ろで地面に手を付いてシエルを見つめているカルラは白い魔力に身を包まれていた。




