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120 暴風VSかまいたち

 様々な敵との遭遇を経て地下工場中央区に辿り着いたライムとリサ。


 大きなトンネルの様な廊下を出た先には、鉄の匂いと熱気が広がり、真ん中には手足を拘束されている少女とフィオナが居た。


「お前がこんなにも堂々と我々に喧嘩を売るとは、薄明同盟はそこまで頼もしいんだな」


 フィオナは白い大剣を地面に突き刺し、堂々とした佇まいでニヤリと笑った。


「ああ、大陸の精鋭が集まっているからな」


 リサは真剣な眼差しでフィオナを見つめながら答えた。


「精鋭? それにそっちの獣人は……。ふっ、そう言うことか」


 フィオナは、ライムを見るや否や顔を俯かせて怪しく微笑んだ。


「それより、他の奴隷達は何処なんだ? ここに来るまで、一人もそんな身なりの奴に会わなかったが」


 ライムは、『奴隷聖女セイントスレイブ』目線で指して言った。


「安心してくれ、他の奴隷達は皆、別の工場に一時移動させてある」


 フィオナは、話しながら右手を微かに動かした。


「だが、君は自分の心配をした方が良いんじゃないか?」


「は?」


 ライムが気づいた頃には、既にライムを取り囲むように黒く小さい火種が浮かび飛んでいた。


「塵火も積もれば爆炎となる。焼き尽くせ、『粉塵爆炎(ふんじんばくえん)』」


 フィオナが指を鳴らすと、火種は瞬く間に業火と化し、ライムを黒い炎で包みこんだ。


「最強の効果を付与するって言うふざけた魂之力ソウルを持ってるからか、避ける意識が疎かになってるぞ」


 黒い炎は少しするとフィオナの右手に吸い込まれて消えた。


「っ! ライムさん、私達が転生しているという事は、神を殺せる魂之力ソウルを持ってるんですよね!?」


 リサはライムの肩を掴んで鬼気迫る表情で話した。


「あ、うん、そうだけど……」


 ライムは少し痛そうにリサの手を肩から剥がした。


「その魂之力ソウル、今使えますか?」


 リサは落ち着いたのか、いつもの口調で質問をした。


「え、どういう事? まぁ良いや、『破滅帝』……」


 ライムは魔力を高め、右手に雷を纏わせた。


「は?」


 しかし、その雷は漆黒色になる事は無く、黄色いままだった。


「ふっ、私の究極之魂アルティメットソウル剥奪者(強き者)』は、他人の筋力やスタミナ、知恵や魔力などを奪って自身に宿すことができる。つまり、君の魂之力ソウルを奪ったんだ」


 フィオナは不敵な笑みを浮かべながら、自身の周りに黒い炎と黒い雷を漂わせた。


「ま、神授之権能ゴットソウルや魔素みたいに魂に宿ってる物は奪えないがな」


 くっ! 風祭雷霆の時にあの黒炎に当たって、奪う系の魂之力ソウルだとは感づいてたが、まさか魂之力ソウルまでも奪えるとは。


 ライムは戸惑いを見せず、冷静な面持ちでフィオナに話しかけ始める。


「でも、何で僕の魂之力ソウルの効果を知ってたんだ? まさか、そう言う魂之力(ソウル)持ちか?」


「惜しいな。私が魂之力ソウルの効果を知っているのは、エリーのお陰。あの娘の魂之力ソウルからはどんな隠し事も通用せず、その力を味方に共有することも出来る」


「何かめんどくさいのは分かった。そんな事よりも、とっとと返しやがれ」


 ライムは怒色を黒き瞳に宿し、フィオナを睨みつけた。


「おっ! 少しはやる気になったみたいだな。ま、くれぐれもこの娘に攻撃を当てないように気を付けてくれ」


 フィオナは、不機嫌そうにしている少女の肩に手を当ててそう言った。


「「当たり前だ!」」


 ライムとリサは口と動きを合わせて、剣を鞘から抜き出してフィオナへ向けた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ライムとリサがフィオナと出会っていた頃、ラビッシュとマテオは各々の風で壁や家具などを斬り裂き続けたり、様々な物を地面に散乱させていた。


「足がどんだけ速くても、屋内では避け続ける事は出来ない。『風之狂乱ウインド・ディザスター』」


 マテオが剣を振り下ろすと、マテオを中心とし、緑色の風の斬撃が至る所に向かった飛び交った。


「そんな魔法を地下で使うなんて!」


 ラビッシュは自慢の脚に魂之力ソウルの効果を付与した風魔法を纏って斬撃の間を掻い潜っていたが、一瞬ふらついた際、右腕に斬撃が当たってしまった。


「痛っ……、くない? お前の風何か変だぞ!」


 血が出ている腕を抑えながらラビッシュは言った。


「フッ、私の風は何者にも痛みを与える事はしません。私自身も痛いのは嫌なので」


 マテオは眼鏡を上げて微笑んだ。


「そう、痛いのは嫌なので私自身も痛い思いをさせない戦いをしたい。なので、魂之特性(ユニークソウル)零付与(嗜虐の申し子)』のあらゆる物を封じる効果で貴方の痛覚を封じたのです」


 マテオは優しい口調で話しながらも、口元は常に怪しく笑っていた。


「う〜、やりにくい奴だな〜」


 ラビッシュは縦に長い耳を毛繕いしながら、嫌そうに言った。


「でも痛みを感じないなら、もっと大胆に攻撃が出来る!」


 ラビッシュは再びオレンジ色の風を足に纏わせて、マテオに突撃した。


「吹き飛ばしちゃえ! 『流星暴風(スター・テンペスト)』」


 ラビッシュはオレンジ色の風を足に纏い、飛び蹴りを繰り出した。


「痛覚は消えても、実際怪我をする事に変わりはないので、あまり無理をしては駄目ですよ」


 マテオはラビッシュの飛び蹴りを剣で受け止め、笑みを浮かべた。


「ま、敵が自滅するなら私にはメリットしかありませんが」


 オレンジ色の風に肌を斬られながらも、マテオは余裕の笑みを浮かべ続けている。


「お前こそ、ボクの風を受け止めて良いのかな!」


 ラビッシュがそう言うと、マテオの体からは突如として力が抜け、なすすべ無くラビッシュに壁まで吹き飛ばされた。


 壁まで吹き飛ばされたマテオと直撃した鉄の棒などが凹んでいる中、マテオ自身はほぼ無傷で立ち上がった。


「風魔法で作った空気のクッションが間に合わなかったら、背骨が折れる所でしたよ。貴方の魂之力ソウル、妙な効果をしていますね」


 マテオは、地面に落ちた眼鏡を拾い上げて掛け直した。


「ボクの魂之力ソウルは、神授之権能(ゴットソウル)力神(フォパース)』。常時筋力がアップされるだけじゃなく、触れたエネルギーのベクトルを自在に操る事が出来るのです!」


 ラビッシュは自慢げに鼻を鳴らした。


「ちっ、神授之権能ゴットソウル持ちでしたか。では、こちらも遊んでいる場合ではありませんね」


 マテオは剣に普通の風を纏わせ、予備動作無く、一瞬で剣を振り上げた。

 振り上げられた剣は空気を押し出し、空気で出来た不可視の斬撃がラビッシュに向かった。


「面白い事をするね!」


 ラビッシュは興奮しながら、斬撃目掛けて走り出した。


 斬撃に当たる寸前、ラビッシュは横に大きく回りながらマテオの一寸先まで近づいた。


「貴方と戦うと、戦いには知力も大事だと再確認できますね。『天導之風(ヘブントルネード)』」


 マテオがそう呟くと、ラビッシュの事を緑色の風が巻き上げて天井に衝突させた。


「グハッ! ……、何で? 何か見えないよ!」


 天井に叩きつけられたラビッシュは、目が開いているのにもかかわらず、視界が真っ暗になってパニックに陥っていた。


「でも、お前を倒せば全部解決する!」


 ラビッシュは直ぐに正気を取り戻し、空を風で蹴って、マテオに突進した。


「貴方ならそうすると思いましたよ」


 マテオは緑色の暴風を剣に纏わせ、力一杯振るった。


「世界と分かつ風。『無風之地獄(ゼロの風)』」


 マテオの剣から振るわれた巨大な緑色の斬撃は、けたたましい轟音を上げながら、地下工場全体を揺らした。


「また知らない魔法の名前。でも、力でねじ伏せれば関係無いもんね! 『破滅之暴風(ルイン・テンペスト)!!』」


 ラビッシュは感覚だけを頼りに風の斬撃を蹴った。


 だが、ラビッシュは斬撃に触れた感覚を感じる事は無かった。


 それだけに収まらず、ラビッシュは視界だけで無く、聴覚、嗅覚、触覚等、様々な感覚が感じ取れなくなっていた。


「な、何これ……」


 ラビッシュは自分の体と精神が離れてる様な異様な体験を真っ暗闇の中でしていた。


「フフッ、貴方の五感を封じました。まるで魂と肉体が分離している様でしょ?」


 マテオは剣に緑色の暴風を纏わせたまま、ゆっくりと棒立ち状態のラビッシュに近づいていった。


「感覚を封じられていても立てるとは、体幹が化け物じみてますね」


 マテオは直立不動で目を閉じているラビッシュを見て呆れ顔を浮かべた。


「貴方はそのまま自らが動いているかも分からず、何かを感じることも出来ぬまま、私に殺されるのです」


 マテオは無駄の無い動きでラビッシュの首元に剣を振った。


 そうして、マテオが勝ちを確信した瞬間。

 ラビッシュの魔力が尋常な程に増加し、オレンジ色の風を纏った足がマテオの顎を蹴り上げた。


「な、何故だ? 感覚は全て封じられていて、私の存在や魔力を感知する事も出来ない筈……」


 吹き飛ばされたマテオは顎を抑えながら、ラビッシュに怖気づいていた。


「っ! 剣が!」


 マテオは顎に食らった凄まじい衝撃のせいで剣を手放していた。


 マテオが地面に落ちている剣を拾いに行こうとすると、剣の前に目を閉じたままのラビッシュが仁王立ちしていた。


「な、何故そんなにも正確に動ける!?」


 マテオはお尻をついたまま後ろに素早く下がったが、もう遅い。


 ラビッシュはオレンジ色の暴風を右足に纏い、ボールを蹴る様な体勢になっていた。


「グギャ!」


 ラビッシュはそのまま蹴りを繰り出し、マテオのお腹に直撃した。


 マテオはラビッシュに蹴飛ばされて壁に激突し、その周りにあった木材や家具の下敷きとなって気を失っていた。


「フフン。昔から五感を封じて戦って、六感を鍛える修行はボスと一緒にしてたのです! ボクの魔素や魔力も封じてたら、もう少し耐えれたかもね!」


 ラビッシュは得意げな顔でマテオを見下した。


「それにしても、魂之特性ユニークソウル持ちや究極之魂アルティメットソウル持ちとの戦いの時は、魔法を避けるようにしないと。でも、何か嫌だな〜」


 ラビッシュは、木材や家具の下敷きとなったマテオを引っ張り出しながら嘆いていた。

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