119 固い絆VS危ない女
途中でスーツを着た男達に追われながらも、ノア達の助けを借りて難無く地下工場東南区へと走り続けていたライム達。
しかし、目の前にとある男が立ちふさがった為、ライム達勇者パーティーは足を止めた。
「お前! ここで何してんだよ」
ゼーレは静かな怒りを言葉に乗せ、目の前に居る男を睨んだ。
ゼーレと同様、ライムとレイラも怒色の混じった眼光で男を睨んでいる。
「これはこれは、勇者パーティーではありませんか。まさか、黒キ盾の手伝いで再会するとは」
ゼーレ達の怒りの先には、不気味な笑みを浮かべているアルバートの姿があった。
「ここに貴方が居るという事は……」
レイラは、魔法の杖をアルバートに向けながら杖を強く握っていた。
「えぇ居ますよ。オスカー王はこの先の部屋です」
アルバートは不気味な笑みを浮かべ続け、ライム達はアルバートを睨み続けている為、廊下一帯には重たい空気が漂い始めていた。
「滅紫の剣が言ってた奴らが、まさか勇者パーティーとは。ここの所長として違反者は捕まえないといけないが、リサ様だけだと思っていたのに相手が悪すぎる」
張り詰める空気の中、フライオスがリサ達を見ながら頭を抱えた。
「おっと、まさか私だけなら相手できると思っているのか?」
リサは紫色の魔力をちらつかせながら、高圧的な口調で話した。
「いえいえ、違いますよ。言葉の綾です」
フライオスとリサの掛け合いで空気が少し緩んだが、すぐに重たい空気に戻り、暫くの間静かな時が流れた。
「リサさん。合図はまだですけど、ここで別行動させてください」
ゼーレは鞘に手を置きながら、殺意むき出しでアルバートだけを見ていた。
「私からもお願いします。ライムは連れて行って構いません」
レイラの言葉と共に、ライムがリサを見ながら頷いた。
「あ、あぁ分かった。何があったのかは聞かないが、気をつけてくれ」
リサは少し困惑しながらも、ゼーレ達の先へと足を踏み出し、それに続いてライムも走り出した。
その瞬間、リサ達の後ろから魔法同士、鉄同士がぶつかる音が響き渡った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
地下工場東南区へ繋がる廊下。
そこでは、ライムとリサが向かってくるスーツを着た男達を蹴散らしながら進んでいた。
「あの、ディアブロ様」
あらかた敵が片付いて落ち着いた時、リサがライムに話しかけた。
「ライムで良いよ。リヒト達とも、今の名前で呼び合ってるし」
「そうですか。では、ライムさん。勇者パーティーとサンダーパラダイスは貴方のお役に立てているんでしょうか?」
「リサ、それは愚問だよ。僕の味方は、僕の味方である時点ですでに役立つことが決まっている。僕は勝利しか見てないからね」
ライムはライトニング寄りの低い声でそう言った。
「なるほど。では、私もお役に立てると思っていただけてるんですね」
「当たり前じゃん。最強の魔剣士が何言ってるんだよ。……って、いつの間にか東南区に着いてたな」
ライム達がふと前を見ると広い空間で一人だからか、寂しそうにしているエリーが居た。
その周りには、大きな段ボールや画用紙、新聞紙などの紙製品が積まれている棚が置かれていた。
「あの女の子は、ラストナイトのエリー」
リサは鞘に手を置き、戦闘態勢に入った。
へぇ~、あんな可愛い女の子も騎士になれるんだ。
魔力万歳、能力スキル万歳だな。
ライムがそんなことを考えていると、後ろから女の子の声が聞こえてきた。
「そこの二人、ぼぉ~っとしてる暇ないんじゃないの?」
ライム達の頭上を飛び越え、エリーの前に立ちはだかったのは、アンナだった。
あのエリーって娘に虹雷剣をぶつけるのは少し心が痛むけど……。
「アンナ。相手が誰であれ、妥協は許さないからな」
ライムは黒雷を自身の周りに漂わせながら、鋭い眼光をアンナに向けた。
「っ!」
アンナは、ライムに名前を呼ばれた事で動揺して、驚いた表情で思わずライム達の方を振り返った。
「ライムさん。やはり、貴方がライトニングだったんですね」
リサの言葉を聞き、少し冷静になったアンナは、前を向いてクールに言う。
「そこの廊下を降りた先に中央区があります」
その言葉を聞いて、ライム達は廊下の先へと走り出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方その頃、ジャスティスクローとファティーの戦いは熾烈を極めていた。
地下工場南西区は一面に黄色い炎が広がり、戦い続けていたファティーとジャスティスクロー達は、地面に汗を垂らしていた。
ハンガーで並べられた衣服や机に置かれていた布なども燃え上がり、南西区には異様な匂いが充満していた。
「服従しろ……」
ファティーが持つ黄色い炎を纏った鞭がイーサンの背中を捉えた。
「クククッ、やっと捕まえたぜ」
イーサンは大きな斧を地面に落とし、ファティーに近づく。
「おいおい、イーサン。丸腰で敵に近づくなよ」
「これは、精神系の魂之力ですか……」
「あぁそうだぜ。アタシの魂之特性、『契約之主』は相手の意思関係なく、一方的に服従させることが出来る。ま、私とイーサンの実力にあまり差が無かったから服従させれたんだが」
ファティーはイーサンの背中を椅子にして足を組んで堂々と座った。
「そこを退いて下さい」
サキは魔法の杖を構えながら、ファティーを睨んだ。
「ククッ、アンタ達みたいなお人好しで仲良し冒険者パーティーは、人質が居ると弱くなる」
ファティーは好色そうな目でイーサンの体を見ていた。
「それはどうかな?」
エイダンはそう呟き、剣を抜く。
「あ? 何か言ったか?」
ファティーが顔を上げると、そこにエイダンの姿は無く、後ろから物凄い殺気を感じた。
ファティーの後ろに現れたエイダンは、剣を上から下にイーサンごと思いっきり振り切った。
「ば、バカなのか!?」
ファティーは頬に切り傷ができたが、そんな事よりも仲間ごと斬り掛かってきたエイダンに驚きを隠せなかった。
「家のリーダーはこの程度の傷、なんてこと無いんですよ」
エイダンはそう言って、サキの方へとイーサンを蹴飛ばした。
「ちっ、この際全員を屈服させれば良いか」
ファティーはそう呟き、エイダンへと鞭を伸ばす。
「エイダン。鞭には当たらないで! 『風切断』」
サキの出した風魔法が、ファティーの綺麗な腹筋を切り裂き、ファティーは痛みで体勢を崩した。
「クソ!」
「後方支援は、別にバフを掛けるだけじゃ無いんですよ」
サキはイーサンを支えながら、優しく微笑んだ。
「なんてな。真の狙いはアンタだよ。『炎之銃弾』」
ファティーはサキに指を向け、炎魔法を放った。
サキはイーサンを支えていた為、避けられずに足に黄色い炎が当たってしまった。
「サキ!」
エイダンは、サキ達の方へと足を進めようとした。
「動くな! そっちの二人は私に屈服している」
「イーサン、サキ、こっちに来い」
ファティーの命令通りにイーサンとサキは動き、イーサンは再び椅子になった。
「ガタイの良い男を屈服させて椅子にするのは、やはり気分が良いな。しかも、今回は汗をかいていて筋肉に艶がある」
ファティーは、イーサンの汗ばんだ肌をなぞるように触った。
「騎士のくせに悪趣味だな」
エイダンは剣を構えながら苦笑いを浮かべている。
「なんとでも言ってくれ。これが私の魂之特性なんだからな」
「おい、サキ。お前が付けた傷だ、舐めて綺麗にしろ。汗をかいていて塩っぱいかも知れないが、お前も汗をかいていて水分が欲しいだろ?」
サキはファティーに言われた通り、傷口に近づいてペロペロと舐め始めた。
「ふっ、か弱い女に体を舐めさせるのも悪くないかもな。くすぐったくて面白い」
ファティーは、くすぐっそうに笑った。
「お嬢さん。そろそろ満足したんじゃないか?」
「あぁそうだな。そろそろ、そこの金髪剣士も屈服させて終わりにしようか」
ファティーはイーサンの背中から立ち上がり、鞭を手に取った。
「……って、さっきのは誰の声だ?」
ファティーが不審に思い、イーサンとサキが居た方を振り向くと、そこには誰も居なかった。
「『妖精之加護』、筋力超強化!」
何処からかサキの大きな声が南西区に響いた。
「多勢に無勢ですみませんが、こちらも勝たないといけないので……」
ファティーが気が付いた時には、既にイーサンの顔はファティーの耳元にあった。
いきなり囁かれたファティーは胸が高鳴り、動きが止まってしまった。
「ハハッ。アンタ、本当に良い男だな」
ファティーがニヤリと笑いながら呟いたと同時に、イーサンの右拳がファティーのみぞおちを捉え、強い衝撃を与えた。
「ぐっ、お前達どんな魂之力を隠し持っているんだ……」
「ふっ、知らないんですか? 私達は魂之特性や究極之魂を持たず、魔力と魔法のみを使う冒険者パーティーとして活動してるので」
エイダンは、金髪を手で靡かせてカッコよく言った。
「ま、シンプルに発現しなかっただけですけどね」
サキが淡々とツッコむと、ジャスティスクローは皆顔を合わせて笑い合っていた。
「ハハッ。大陸一の冒険者パーティーだと言うのに、なんとも平和でなんとも馬鹿げた連中だな」
ファティーは羨ましそうにそう呟いて、目を閉じた。
「ふぅ~、何とかラストナイトの一人を抑える仕事は完遂できたな」
イーサンは背中に斧をしまって一息ついていた。
「まぁあ、俺は結構余裕でしたけどね」
剣を鞘に納めながら、ドヤ顔を決めるエイダンを見て、イーサンとサキは呆れ顔を浮かべていた。
「私が助けなかったら危なかったくせに」
サキは頰を膨らませて怒り顔を浮かべた。
「ハハハッ。そうだサキ、目覚めさせてくれてありがとうな」
イーサンは笑顔を浮かべながら、サキの頭を優しく撫でた。
「いえ、仲間の状態異常を回復させるのも後方支援の役目ですから」
サキは柔らかい表情で微笑み、ピンク色のショートヘアはフワリと浮かんだ。