115 闇を纏いし光の騎士団 ラストナイト
「おいおい、雷鳴の猫王って。獣人界隈では、そんな異名が流行ってんのか?」
「真相を知る権利、お主にはまだ無い」
雷霆は腕を組み、胸を貫く様な鋭い殺意をライアンへと向けた。
「ちっ、お前さっきから明らかにスカしすぎだよな? こっちは国を背負ってる騎士何だぜ。それに楯突くって事が何を意味すんのか分かってんだろうな!」
ライアンは怒鳴りながら雷霆に突っ込み、首目掛けて剣を振りきった。
「は?」
だが、ライアンの剣が雷霆を捉えることは無かった。
雷霆の体や忍者装束は、黒雷へと変化し、糸が解けるように散り散りになって空気中に散乱した。
「それは残像……。いや、『空蝉の黒雷』」
雷霆はライアンの後ろから、耳元で小さく囁いた。
「ふざけてんじゃねぇ!」
ライアンは叫びながら、後ろへと思いっきり剣を振り払った。
「お主、何故さっきから一度も魔法を使わない。お主程の手練れなら、勇者の素質である魂之特性や究極之魂の一つぐらい持っている筈だろ?」
「人の戦い方にケチつけんな。でも、まぁ究極之魂自体は確かに持ってる」
ライアンは、舌打ちをして明らかに苛つき度が上がっていた。
「だが、俺の魂之力は、使えば辺り一帯が文字通り更地になる。だから、こんな所じゃ使えねぇんだよ」
「そうか、それは残念だ。なら、この工場には地下への道も無さそうだし、お主の全力は次に会った時に取っておくとしよう」
雷霆はそう言うと、今度は本当の残像を残し、音も置き去りにするほどの速さで風のように姿を消した。
「なっ、待ちやがれ! あー、クソ!」
ライアンは工場の柱を叩き、怒り狂っていた。
「風祭雷霆、雷鳴の猫王を名乗る者か……。おもしれぇ、俺がその化けの皮、絶対に剥いでやる」
ライアンの水色に輝く瞳は、怒色と殺意で満ちていた。
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時刻は変わり、夕焼けが空に輝く時。
舞台は北西区にある鉄工場内部。
そこでは、行動を共にしていたレイラとサキがラストナイトの男に待ち伏せされていた。
「私の名前はマテオ、マテオ・ワトレン。北西区担当のラストナイトです」
その場の空気すべてを包み込む様な程良く低い優しい声が工場に響き渡る。
「近接が不得意な魔法使い、それも可愛らしいお嬢さん達の相手をするのは、騎士として男として少々心が痛みますが、こちらも仕事ですのでご理解下さい」
マテオは、余裕のあるゆっくりとした口調でレイラ達に頭を下げた。
長身細身で、後ろで編んだ長い草原の様な黄緑色の髪と深緑の瞳。
緑色の眼鏡をかけており、常に余裕のある優しい笑みを浮かべている。
白い隊服も相まって、蛇の様に這い寄る不気味な雰囲気を纏った男。
「貴方優しいんですね。ですが、女だからって手加減していると痛い目見ますよ」
レイラは魔法の杖に魔力を込め、鋭い眼光をに向けた。
「そうですよ」
サキも胸に手を当てて覚悟を決めたような真っ直ぐな瞳をに向けていた。
「安心して下さい。手加減は一切致しませんので」
マテオは緑色の刀身をした剣を鞘から抜き、剣に黄緑色の風を纏わせて優しく微笑んだ。
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そして、イーサンはとある食品工場にて、女性のラストナイトに出くわしていた。
「アタシは南西区担当のファティー・グララスだ。アタシはガタイの良い男を屈服させるのが趣味でね。丁度いい相手が来てくれたよ」
勢いのあるハキハキとした声量でイーサンを圧倒している。
そんな彼女は、赤髪ロングにオレンジ色のインナーが入った炎を彷彿とさせる特徴的な髪をしており、真っ赤に燃え盛る深紅の瞳をしたツリ目からは常に鋭い眼光を放っている。
「私としては、勝気な性格の女性は少し苦手なんですがね」
イーサンは大きな斧を構えて、少し後ろに下がっていた。
「ハッ、ガタイは良いが、控えめな性格なのか。ますますアタシ好みだ! 一面焼け野原になってでも、屈服させてやる!」
ファティーは黄色い炎を纏った真っ赤なムチを振り回して発狂しながら、イーサンに向かって走り出していた。
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ここは北西区にあるとある物流倉庫。
「わ、私は東南区担当のエリー・リフネイトです。私、戦うのはあまり得意ではありませんが、精一杯騎士として戦わせて頂きます」
覇気の無い消えてしまいそうな小さな声を目一杯張ってゼーレを見つめる女の子が一人。
淡い水色ショートヘアに薄紅色の瞳。
幼い顔つきに気弱そうな佇まいをしており、服装は隊服では無く、オーバーサイズの白いコートで、手首から先を隠している。
所謂萌え袖をしている天使の様な女の子。
「お、おう。何か頑張ってくれ」
ちょっと、相手がラストナイトとは言え、こんなか弱そうな女の子と戦うとか、勇者のイメージぶっ壊しに来てるでしょ。
ま、だからといってやられてあげるわけにもいかないんだけど。
ゼーレは葛藤しながらも、白い剣を鞘から抜き出し、エリーへと向けた。
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一方、エイダンはと言うと。
「な、何で俺様の行く所は何もないんだよー!」
人気の無い工場で、一人佇んでいた。
「地下に繋がる道どころか、奴隷やラストナイトすらも一向に見当たらないんだが!」
「いや待て、他の皆んなも案外暇してるかもしれん。一応集合時間になったから、一旦家に戻るか」
エイダンはそう言って、無人の工場を後にした。
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時刻は変わり、月明かりが下界を照らす深夜。
リサは夕方を過ぎてからも工場を回り続け、ラストナイト団長フィオナの居る工場に着いていた。
「リサよ。変装をしていても、私への殺意と魔力までは偽装できていないぞ」
黒髪ウェーブロングに夜空の様に美しい紫紺の瞳。
胸元の開いた白い隊服を着ていて、モデルの様な長身に引き締まった体をした大人なお姉さん。
「今頃、他のラストナイトがお前の仲間を捕まえている頃だろう」
禍々しい黒い魔力を身に纏い、自信に満ち溢れた表情を浮かべている。
「ふっ、私の仲間を侮ってもらっては困るな」
リサはそう言いながら、腰から白い剣を抜いてフィオナに向けた。
「そうか。まぁお前と私の様な人間は話し合いよりも力で語った方が問題も片付くか」
フィオナは白い大剣に勢い良く燃え盛る黒炎を纏わせた。
「それは私も同感だ」
リサは白い剣に激しく波打つ紫色の魔力を纏わせて、怒色の混じった青く光る鋭い眼光でフィオナを睨んでいた。
同じ白い剣でも全く異なる色を纏う二つの剣。
リサの紫色の魔力は空気を揺らす程の轟音を、フィオナの黒炎は辺りの鉄を溶かす程の高温に。
「行くぞ!」
「お前との戦いは胸が高まるよ! 最強!!」
二人は同じタイミングで地面を蹴った。
常人では目で追えぬ程のスピードにより、二人の後ろには各々魔力の光芒が取り残される。
「敵は今討つ! 『崩壊之空想!』」
「全てを奪え。『死誘之黒炎』」
「そこまでだ……」
二人の剣がぶつかり合う寸前、黒い影が二人の間に降り立った。
「っ! 私達二人の剣を一人で受け止めるか!」
フィオナは高揚を抑えられず、嬉しそうに笑っていた。
二人の剣を受け止める緋色に染まった細い刀と微動だにしない腕。
そして、衝突により起こった風で揺らめく猫耳と尻尾が二人の困惑を加速させる。
「進化した猫獣人……。ライトニングでは無さそうだが、同じ黒雷を纏う者。貴様、誰だ?」
リサは、鬼気迫る表情で雷霆を睨みつけていた。
そんな二人を嘲笑うかの様に鼻で笑い、雷霆は言う。
「拙者の名は風祭雷霆……。雷鳴の猫王として、祭りの如き派手さで陰を遂行する者でござる」




