114 忍者、風祭雷霆始動でござる!
太陽が空高くに昇った真昼頃。
リサやジャスティスクロー達と合流したライム達勇者パーティーは、ラスファートの中でも工業が盛んな北西区に移動していた。
今ライム達は、住宅街の狭い路地裏に隠れている。
「来る途中にも言ったけど、この区画の地下に奴隷達と奴隷聖女が働かされている武器工場がある。でも、正確な場所は分かっていないから、しらみつぶしに奴隷工場を壊して探すしか無い。だが、この作戦はスピードが命……」
リサは辺りを警戒しながら、小声で話した。
「よって、ここからは支援担当のサキ以外は個別行動になる。そして忘れてはいけないのが、顔が有名な私達は変装をしなければならない……」
「だからって、これは無いですよ。リサ様……」
ゼーレは奇抜なデザインをした目元を隠す白いマスカレードマスクを顔に付けていた。
「逆に目立つのは分かっているが、我慢してほしい。店で変装道具を買うと足がつくから、自作するしかなかったんだ。それでも結構頑張った方なんだ」
「話しは戻るが、ラスファートは基本的に5つの区画に別れていて、ラストナイトが一人ずつ担当している」
「つまり、工場を襲い続けるなら、ラストナイトと戦うのは避けられないと……」
ライムは黒と黄色に染まったマスカレードマスクをスッと付けてカッコつけていた。
「ちょっとライムさん。カッコつけるのは俺の仕事なんですから、奪わないで下さいよ」
エイダンは黄金に輝くマスカレードマスクを付けながらそう言った。
「ライムさんの言う通りです。ですが、こちらは変装している上に北西区を担当しているラストナイトを知っている。これをうまく使って我々の存在を国民にも広める」
「夜じゃなくて、朝に作戦決行するのはそういう理由だったんですね」
イーサンは、茶色いマスカレードマスクを付けた後、斧を背負った。
「あぁ、革命の証言者は国民自身と言う事だ」
ライム達は路地裏の先を見据えて、真剣な表情を浮かべていた。
「では、行こう。私達が勇往邁進していけば、どんな事も必ずやり遂げる事が出来るだろう……。『薄明同盟』、始動だ!」
リサはそう言いながら、黄色いマスカレードマスクを顔に付けた。
「リサさん。カッコつけ過ぎですよ」
サキは口元を手で隠し、ピンクのマスカレードマスクの下で笑っていた。
「サキ、スピードが命だと言った筈だ。早く行こう!」
リサの掛け声で、ライム達七人は一斉にそれぞれの方向に走り出した。
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ラスファート北西区にあるとある鉄工場の屋上。
そこには、ライムが天井扉から中の様子を伺っていた。
「ま、流石に今は昼休憩の時間か」
「それより、ふふ〜ん。リサ達には悪いけど、僕は自由が好きなんだ。自分のやりたい活動を優先させてもらう。と言っても、やる事自体は変わらないんだけど」
そう言いながら、ライムはマスカレードマスクを外して、影の中に落とした。
「受け取ったって事は、ユキネに頼んでた衣装を持ってきてるんだよね? 武器は戦う時に貰うから、衣装だけ頂戴」
「了解しました。ライトニング様」
ディストラはそう言いながら、黒基調の中に黄色い雷が輝く忍者装束を影から投げ渡した。
「ん、ありがとう」
ライムが忍者装束を受け取ると、ディストラは影のカーテンを展開した。
数秒後、影のカーテンはライムの影に戻り、ライムは忍者装束に着替え終わっていた。
ライムの着た忍者装束は、猫耳まで完全に覆う特別仕様で、尻尾の穴はしっかり空いており、風通しの良い軽い生地で漆黒の中に黄色い雷が輝く、中二病感満載の仕上がりになっていた。
「うん、僕の忍者イメージ通りだ。これぞ、まさしく陰の者の姿だよな。前世から忍者に憧れてたけど、まさかこんな機会が巡ってくるとは」
忍者装束を身に纏ったライムは、ライトニングの時より、少しだけ声を高めに変化させていた。
「お似合いです。ライトニング様」
ディストラは影の中から飛び出し、ライトニングに拍手を送った。
「ありがとう。でも、この姿の時の名前は、風祭雷霆だって話しただろ?」
「そうでしたね。失礼しました、風祭雷霆様」
ディストラはそう言いながら、影の中へと帰った。
「ん、じゃあ忍者としての初任務、始めますか」
そう言って、風祭雷霆は天井から静かに飛び降り、魔力を消してそっと工場内に侵入した。
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よしよし、今の所は忍者っぽい立ち回りが出来てるぞ。
多分、リサやゼーレ達は今頃暴れてるから、そろそろ……。
雷霆が隅の方で気配を消していると、工場内に一人の騎士がやって来た。
「報告! 同時に複数箇所の工場が襲撃された模様!」
よし、リサ達の方はもう始めてるみたいだな。
「くくっ、俺の所にリサが来ればいいが……」
灰色髪にくすんだ水色の瞳をしていて、背が小さく、白基調の隊服を着た男が工場の入り口付近まで歩いていた。
あいつ、強そうだな。隊服っぽい服装だし、僕の所にラストナイトが居たのか。
それにしては、リサの言っていた北西区を担当しているラストナイトとは違うみたいだが。
ま、風祭雷霆の初陣に不足は無い。
「確かこの辺に……」
雷霆は、忍者装束の内側から漆黒のクナイを取り出した。
「流石はルミナス商会、僕の下手な絵からよくこんな理想的なクナイを作れるな」
雷霆は漆黒のクナイに見惚れつつも、灰色髪の男へクナイを構えた。
「『破滅帝』にも耐えれる耐久性とこの軽さ、最高だ」
漆黒のクナイは、黒雷を纏い始めた。
「一撃で終わるなよ?」
雷霆はそう言って、風の音を置き去りにする程のスピードでクナイを灰色髪の男のうなじへと軽く投げ飛ばした。
「っ! リサか!」
灰色髪の男は、反射的にクナイを避け、投げてきた方向を見て不敵な笑みを浮かべていた。
黒雷纏ったクナイの方は、そのまま飛んでいき、工場の壁に突き刺さっていた。
クナイが壁に突き刺さったその瞬間、黒雷が工場の天井を突き破り、黒雷が落ちた先には風祭雷霆の姿が顯れた。
「ちっ、リサじゃねぇのかよ」
灰色髪の男は、ツンツン髪を掻きながら苛ついていた。
「リサじゃない? まるで待ち伏せしてたみたいだな」
雷霆が影の方に右手を伸ばすと、影から緋色に染まった刀が飛び出し、それをノールックでキャッチした。
「あぁそうだぜ。俺は北東区担当のラストナイト、ライアン・デストレーだ。今日の昼にリサ達が行動を起こすのは、仲間の魂之力で丸わかりだったんだが、抽象的な未来しか見えないのはやっぱ面倒だな」
ライアンは白い剣の柄に手を伸ばし、握った。
「で? そんな怪しい格好でここに来たってことは、ぶっ殺して良いんだよな!?」
ライアンは、鞘から白い剣を抜き出して興奮気味に叫んだ。
「ふっ、騎士あるまじき発言だな」
てかあの剣の鍔、黒炎でめっちゃかっこいいな。白い刀身や柄だから、黒炎がより際立ってる。
「ぶっ殺す前に名乗らせてやる。それとも、見た目通りの陰キャで、名乗るのも恥ずかしいか?」
ライアンは高笑いをしながら雷霆を馬鹿にした。
「拙者はお主の強さを見抜いているというのに、お主は拙者の実力を見誤っている様だ」
雷霆は煽られても口調を変えずに話し続けた。
「あ?」
「それとも、今までろくな敵と戦える機会が無かったのか」
雷霆は、淡々と言葉を連ね続けた。
「うるせぇな、さっさと名乗れ。俺はリサの首を斬りに行きてぇんだよ!」
ライアンが声を荒げると、雷霆は小馬鹿にした様に鼻で笑った。
「拙者の名は風祭雷霆、雷鳴の猫王でござる」
猫耳まで覆った漆黒の忍者装束の周りを黒雷が漂い、口元が隠れた顔からは、殺意の込められた深淵より濃い真っ黒な瞳がライアンを飲み込まんとしていた。




