110 再会の約束を果たす時
ミラ達の居る街に到着した僕達は、僕の案内の元、小さなホテルの前に来ていた。
このホテルは、以前この街に来た時にお世話になったホテルと同じホテルだ。
ま、この街は小さいから、そもそもホテルは一つしか無いんだけど。
それより、う〜ん。
到着したのが既に夜10時ぐらいだったから、あまり人に会えなかったな。
僕はそんな事を考えながら、ホテルの扉を開けた。
僕が扉を開けると、水色の長髪をポニーテールにしたお姉さんが受付で頬杖をついて寝ていた。
お姉さん、あまり客が来ない街だからって、営業時間に寝るのはマズイですよ。
「すみませんお姉さん。泊まりたいんですけど……」
僕が話しかけると、お姉さんは寝ぼけながらこちらを見つめ、暫く沈黙が続いた。
「っ! ライム君じゃない! 噂には聞いていたけど、本当に勇者パーティーに入ってたんだね」
お姉さんは急に言動がハキハキとし、目も完全に覚めている様子だった。
「はい、あの時は親切にして頂きありがとうございます」
お姉さんは乱れたポニーテールを結び直し、慌てた様子でホテルの扉に手をかける。
「ちょっと、フレディさん家に行って知らせてくるから待ってて!」
お姉さんはそう言って扉を勢いよく開けた。
「あ、いえ、時間も遅いですし良いですよ。今日はこの街に泊まりますし、また明日会えば良いんですから」
そんな言葉も聞かずに、水色髪の女性は真夜中の外へと飛び出していった。
「ほんとにこの街に帰ってくる約束をしてたんだな」
ゼーレは、お姉さんがいきなり飛び出したので、困った顔をしていた。
「何だ? まだ疑ってたのか?」
「いや、ライムの口からしか聞いたことが無かったからさ」
「ライムって口数少ないし、人への関心も薄い方だから、誰かと再会する約束をしてるのを想像しにくいのはゼーレと同意見」
レイラは、杖を壁に立てかけていた
「そうそう、そうなんだよ。ね、レイラ」
ゼーレは、レイラと息を合わせて焦っているのを隠していた。
それから暫くして。
水色髪のお姉さんが帰ってきて早々、僕達はフレディさんの家に案内された。
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お姉さんに案内されたライム達は、玄関の前でフレディさん達と顔を合わせていた。
「私は仕事があるので、失礼します」
水色髪のお姉さんは頭を下げた後、ホテルの方面へと走っていった。
「お久しぶりです。ライムさん」
茶髪のウェーブロングを夜風になびかせ、グレースが会釈しながら挨拶をした。
「もう、ライムお兄ちゃん。遅いんだからー」
ミラは駆け足でライムに抱きつきに行き、涙目になりながら上目遣いをした。
深夜な事もあり、ミラは髪を解いており、ショートヘアと言う新鮮な髪型をしていた。
「ハハッ。ごめんな、ミラ」
「ライム、この人達がお前の言ってた人達なのか」
「あ、うん。まぁこの町の人達とは全員会いたかったけど、この家族は特にかな」
「あの、一応お世話になるんだし、名前を知りたい」
「あぁそりゃそうか」
ライムは、一人ずつ丁寧にアンダーウッド家の皆さんをゼーレ達に紹介し始めた。
「この優しそうなおじさんがこの街の町長をしているフレディ・アンダーウッドさん」
「ご紹介に預かりました。町長のフレディです」
フレディは礼儀正しく、ゼーレ達に深々と頭を下げた。
「そして、こちらの茶髪ウェーブロングの美人な奥様は、フレディさんの奥さんで、グレース・アンダーウッドさんです」
「美人だなんて、ライム君も成長したのね」
グレースは、まんざらでもなさげに照れていた。
「そしてそして、こちらのお嬢さんはケモナー親子の血を引くやんちゃ娘、ミラ・アンダーウッドちゃんなのです」
「そうなのです!」
ミラは、元気に右腕を上げて大きな声でそう言った。
3人の紹介が済むと、グレースが一歩前に出た。
「ライムさん、勇者さん、エルフのお嬢さん。今夜は、是非我が家に泊まっていって下さい」
グレース、フレディ、そしてミラの欲望纏った眼には、ライムしか映っていなかった。
「いえ、ライムだけならまだしも、私達までお世話になる訳には……」
レイラは遠慮気味に後ろに引いて、申し訳無さそうにしていた。
「そうですよ、グレースさん。僕達はホテルに泊まるので、ライムと仲良くしてやって下さい。この子、友達少ないみたいなんで」
ゼーレとレイラはわざとらしく涙ぐみながら、ライムに憐れみの目を向けていた。
「いや、混沌の大森林にはいっぱい居るから、ボッチじゃないからね!」
ライムがノリツッコミをした事で、ゼーレ達は笑い合っていたが、フレディ達は少し戸惑った表情をしていた。
「あ、あの、勇者さん」
笑い合っているラム達を遮るように、フレディがゼーレに話しかけた。
「あ、はい」
ゼーレは笑っているのを辞め、勇者として真剣モードに切り替えた。
「確かにライムさんとの再会も喜ばしいのですが、私はこの街の町長として、勇者さんをおもてなししたいとも考えているのです。どうか、私達に甘えて頂けませんか?」
「う、う〜ん。そこまで言われると、断る方が逆に悪い気がしますね」
「そうね。1日ぐらいならお邪魔しても良いでしょう」
「やったー! 勇者さん、エルフのお姉ちゃん、よろしくね!」
ミラは、嬉しそうに元気よくはしゃいでいた。
こうして、ライム達はアンダーウッド家にお邪魔することになったのだった。
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アンダーウッド家にお邪魔する事になったライム達は、夜ご飯を頂いた後、ミラにこれまでの旅の出来事を話したりして楽しい時間を過ごした。
だが、楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去るもの。
時刻は既に0時を周り、ゼーレ達やミラ達は深い眠りについていた。
そんな中、月光が木々の隙間から漏れ出る森の奥地では、ライムとディストラが身を潜めて話し合っていた。
「街の周りにはシエル達が居るから心配無いけど。一応ゼーレ達のこと頼んだぞ、ディストラ」
大きなリュックを背負ったライムは、月光をも吸収する漆黒の黒雷を全身に漂わせていた。
「お任せ下さい。ライトニング様」
ディストラは頬を赤らめ、嬉しそうに声を震わせて頭を下げていた。
そうして、黒雷を纏ったライムは大きなリュックを背負って森を駆けて行ったのだ。
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ディストラと別れたライムは今、エレベーターの中に居る。
「ふぅ〜。この世界でもエレベーターが使えるってほんとに便利な事だよな。いや〜、地球の文明に今更感謝の念が芽生えるよ」
ま、今更芽生えても遅いんだけど。
「おっ! やっと着いたか。99階層目に」
エレベーターの扉が開き、ライムは前へと進む。
少し進んだ先にある木製の扉を開け、ライムはゆっくり中へ入った。
「やぁやぁやぁ、ようこそお越しくださいました。どうぞ、我がラボへ!」
小さな空間に入ると、白髪に青メッシュが入ったロングヘアの儚げな女の子が元気よく出迎えた。
「ぷっ、相変わらずよく分からないテンションだな。久しぶり、ソフィア」
ライムは、満面の笑みを浮かべるソフィアに微笑み返した。
「うん。久しぶり……、この姿の時はライム君だっけ?」
「あぁそうだよ。よく知ってたね」
「いやまぁ、だって僕は天才だからね〜」
ソフィアは、少し焦った様子でそっぽを向いてはぐらかしていた。
「それより、ディストラはどうしたのさ。エレベーターの監視カメラを見てる限り、居なかったんだけど」
ソフィアは目を見開き、ライムの影を凝視していた。
「あぁ、ディストラは少し離れた街で留守番してもらってる。今のご時世、いつ何処で何が起きるかわからないし」
「えぇ〜、会いたかったのに〜」
ソフィアは泣きそうな声でそう言いながら、頭を抱えて床に倒れ込んだ。
「ハハッ、またどっかの機会で会えるだろうから」
「まぁそうだね。僕達悪魔の寿命は、無駄に長いから〜」
ソフィアは愉快なリズムと共に立ち上がっていた。
「で? へライト様がいらっしゃるということは、ここにへライト様が居ないと始まらない何かのイベントがあるんですよね?」
ライムがそう言う先には、壁にもたれ掛かかり、顔に影を作ってカッコつけているへライトの姿があった。
「その通りだよライム君。取り敢えず、説明するより見せた方が早いから行こうか。ダンジョンの地下100階層目に」