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106 別れ際の伝言

 フライム達と別れた後、ライムはゼーレ達を探して、ヒストア王国各所を走り回っていた。


 くそっ。魔力って基本戦う時以外は抑えてるから、魔力探知で探せない。何処らへんに行くのかぐらい聞いとけば良かったな。


「てか、さっきの戦いで精神すり減らしまくったからか、ただ走ってるだけなのに息が切れそうだ」


 ライムは少し浅い呼吸をしながら、ゼーレ達を探してヒストア中を駆け回った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 数分後。


 ヒストアのとある緑豊かな木々が並び、地面には人工芝が敷かれた広場。

 その中央にある大きな噴水には、ゼーレとレイラ、そしてクロエが虚ろな表情で腰掛けていた。


「あっ、居た居た。ごめん、別れる前に何処行くか聞いとけば良かった」


 ライムは息を切らして走りながら、ゼーレ達に近づいた。


「お、ライム。赤い髪の女性と何処行ってたのか? もしかして、告白だったりして」


 ゼーレは、ライムが見えた瞬間に元気を取り戻し、ライムをからかうような目で見た。


「そんなんじゃないよ。ただ裏路地で荷物確認をしてただけ」


「ふぅ~ん」


 ゼーレは、少しニヤついた表情を浮かべて、再び正面に顔を向けた。


「それより、ゼーレ達はそんな覇気の無い顔で何してたんだ?」


「ちょっと疲れたから休憩してたんです」


 クロエは、覇気の無い中にも優しさに感じる静かな声で話した。


「そっか……」


 ライムはゼーレ達の顔色を見ながら、リュックを肩から下ろして、ゆっくりと噴水に腰掛けた。


 広場には、ボール遊びをする子供や、ピクニックを楽しんでいるカップルなどが居たが、ライム達はただ無心で眼の前の自然を感じていた。


 そんな時間を数分程過ごしていると、突然クロエが立ち上がった。


「勇者パーティーの皆様、宜しければ少しお茶にしませんか? この辺りに行きつけの喫茶店があるんです」


 クロエは背伸びをし、サラサラとした紫色のショートヘアがそよ風で靡く。


「そう言えば、アルバートに誘拐されたから昼ごはんまだ食べて無かったな」


「思い出したら、すごくお腹が空いてきた」


 レイラはお腹を触りながら、先程とはまで違う理由で疲れた表情をしていた。


「王女様御用達の喫茶店なんて、期待が高まるな」


「こら、余計な事言わない」


 レイラは、ライムの頭を軽く叩いた。


「ふふっ、そう期待されては何だか緊張しちゃいます」


 そうして、ライム達はクロエ行きつけの喫茶店に移動したのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 喫茶店に移動したライム達は、クロエ王女と一緒という事で、他のお客さんがあまり居ない端の席に案内された。


 クロエとゼーレ、そしてレイラは紅茶と軽食を頼んで少しずつ食べていた。

 だが、ライムだけは肉料理や麺類など、メイン料理を何個も頼んでドカ食いしていた。


「あの、クロエ王女様……」


 ゼーレは紅茶を一気飲みして、クロエに話しかけた。


「何ですか?」


 クロエも、飲みかけの紅茶を音を立てずにゆっくりとソーサーに置いて、ゼーレの方に視線を向けた。


「聞いて良いのか分からないですけど、エマさんとスズリの容態ってどうなんですか?」


 ゼーレは言葉を選んでいたのか、落ち着かない様子で話した。


「僕達、明日にはこの国を出る予定だからね。流石に気になります」


「ま、まぁ話したくないなら話さなくても大丈夫」


 レイラは、口を閉ざしているクロエを見て、慌てて助け舟を出した。


「いえ、皆さんには話しても良いでしょう」


 クロエは一呼吸置いて話し始めた。


「エマさんとスズリの容態はかなり安定していますが、今まで通り航海を続けることは難しいそうです」


「そうですか……」


 ゼーレとレイラは悲しい表情を浮かべていた。


 まぁ航海する目的を達成出来てたのは、不幸中の幸いかもな。なんて言える雰囲気じゃないか。


 ライムは、麺を啜りながらクロエ達の顔を伺っていた。


「なので、エマとスズリのこれからは私が責任を持つことにしました」


「責任を持つ?」


 ゼーレは首を傾げて、不思議そうにクロエに質問した。


「はい。勇者パーティーの皆さんとエマさんが来たのが引き金だったのかもしれませんが、元々アルバートの目的は私とお父様だった訳です」


 クロエは暗い顔で下を俯いていた。


「なので、結果的に巻き込んでしまったエマさんとスズリには、これからお父様が戻られるまでの間、女王となる私の補佐や護衛を任せることになりました」


「「「っ! クロエ王女!?」」」


「そんな急に決めて大丈夫なんですか? その、責任の重さとかもこれまでとは比べ物にならないでしょうし……」


 ライム達は突然の告白にあたふたしていた。


「大丈夫ですよ、レイラさん。いつでも王位継承が出来るように教養を積んできましたから。それに……」


 クロエは一呼吸置いて話しを続けた。


「私は強いですから、勇者パーティーの皆さんがお父様を救ってくださるまでの間ぐらい頑張れます。エマさんとスズリの助けもありますしね」


 そう話すクロエは優しく微笑んでいたが、赤と水色の瞳には強い覚悟が宿っていた。


「それは良かったです」


 レイラは安堵の表情で微笑んでいた。


「……。じゃあ、そろそろ店を出るか」


 ライムは、地面に置いていたリュックを背負った。


「お腹も膨れたし、そろそろこの国を出ないと直ぐに夜になるからな」


 ゼーレ達も椅子から立ち、喫茶店から出た。


 喫茶店から出ると、外はオレンジ色の夕日に照らされていた。


「クロエ女王。私達勇者パーティーがヒストア図書館までお送りいたします」


「いや悪いですよ。今日は色々あったから、貴方達も疲れてるでしょ?」


 心配そうな表情でライム達を見つめるクロエは、紫色のショートヘアが夕日を反射して後光が指している様に見えた。


 おっふ。やっぱり、クロエって本物の女神に負けず劣らずの優しさと美貌だな。


 てか、今シンプルにオタクみたいな反応出てたな。心の中でだけど。

 声に出さない様に気をつけないと。


 その瞬間は、ライムだけで無く、ゼーレとレイラまでもがクロエに見惚れて動きが止まっていた。


「く、クロエ王女。貴方は、今やこの国に残っている唯一の王族です。ご自身の立場を考慮した上で行動しないといけませんよ」


「そうですね……。では、宜しくお願いします」


 こうして、ライム達はクロエをヒストア図書館まで送り、自分達は街にある宿屋に泊まった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 翌日の早朝。


 誰も居ないヒストア図書館の入り口付近では、ライム達とクロエ、そしてエマとスズリが顔を合わせていた。


「それでは、クロエ女王……」


 ゼーレがそこまで言うと、途中でクロエが割り込んだ。


「昨日良い忘れてたのですが。クロエ、で良いですよ」


「ゔっゔん。それではクロエさん、エマさん、スズリ。私達勇者パーティーはこれで失礼いたします」 


「ヒストアとクロエ女王は、私とスズリが守る。だから、安心して行ってらっしゃい」


 母性を感じる様な柔らかい笑顔を浮かべるエマ。

 彼女の淡いピンク色をしたロングヘアがそよ風に揺られて靡いていた、


「まぁあ、魔王を倒した後ならいくらでも歓迎してやる」


 スズリは、ライム達から視線を逸らして小さい声量で話した。


 それを見て、勇者パーティーやクロエとエマは視線を合わせて静かに笑い合っていた。


「あっ! あの、勇者パーティーの皆さん一つ伝言をお願いしても良いでしようか?」


「勿論、全然大丈夫ですよ」


 ゼーレは爽やかな笑顔で返事をした。


「それでは……」


 クロエは咳払いをした後、背筋を伸ばして真剣な表情でゼーレ達を見つめた。


「あわよくばアルバートに伝えて欲しいのです……」


 クロエの声色が段々と大きく、強いものになっていく。


「『私は、貴方が思っている様な絶望に染まり続けるか弱い王女では無い!』と」


 クロエは、赤と水色に輝く眼に強い意志を乗せて、ゼーレ達に言葉を託した。


「クロエさん……」


 ゼーレは、クロエの言葉を聞いて笑みを浮かべた。


「分かりました。僕達勇者パーティーが、必ずやクロエ王女の代わりにアルバートに伝言を伝え、オスカー王をお救いいたします!」


 ゼーレとライム、そしてレイラは、互いに顔を見つめ合い、同じ意志を持つことを確認した。


「それでは、失礼します」


 ゼーレとライム、そしてレイラは深々とクロエにお辞儀をして部屋を出た。


 ライム達が部屋を出て数秒後。


 クロエは深呼吸をし、窓際まで移動して、窓越しに空を見つめて一言呟いた。


「アルバート。貴方もアカキ同様バカですね。だって、人類の希望である勇者を敵に回したんですから……」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから数時間後。


 クロエと別れた勇者パーティーは、ヒストア王国の東に位置する草原を歩いていた。

 快晴の青空と強い日光が、草原を歩くライム達を晴れやかな気持ちにさせる。


「で、何も決めてないけど、次はどこに行く?」


 顔には出ないが、レイラはいつもより軽快な足取りで歩を進めていた。


「あっ! それならさ、ちょっと寄りたい所あるんだけど」


「ん? 良いけど、どんな所なんだ?」


 草原の中の虫を探すように屈んでいたゼーレが立ち上がった。


「まぁ簡単に言えば、ゼーレに会い行く為の旅の途中で知り合った人達がいる村だよ」


「へぇ~。わざわざ会いに行くってことは、相当仲良かったのか?」


「うん。それに約束したんだ、勇者パーティーとしてもう一度会いに行くって……」


 ライムが見上げる空は、雲一つ無く青く澄んでおり、強い日差しを降り注ぐ太陽は、ライム達のこれからの旅路を明るく照らしているようだった。


 そんな中、ゼーレは草原で捕まえたカマキリの様な虫を掴んでレイラに見せびらかしていた。


「ほら、レイラ。カッコいいだろ?」


「ちょっと、私が虫嫌いなの知ってるでしょ」


 一方レイラは、杖を持ちながら走って逃げるが、その後をゼーレも走って追って行った。


 ライムはそんな二人を見て、頬を膨らませながら呟く。


「何か、僕が知らない内にめちゃくちゃ仲良くなってるじゃん。ちょっと小学生っぽいけど……」


 少しの嫉妬を胸にしまいながら、ライムはゼーレ達の後を追う。


 そうして、ライム達はラスファートの南方面へと足を進めていくのだった。

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