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104 時を司る者の特権

「今さらストーカーぐらいで何も言わないけど……」


 ライムは、圧倒的なオーラを身に纏い、爽やかな笑顔を浮かべている金髪ウェーブショートに水色の瞳をした高身長イケメンを睨んでいた。


「フライム。そちらの方は誰なんだ? フライムと居るって事は、邪神じゃないんだろ?」


「ふふ〜ん。こちらの方は、時の神へライト。余の自慢のお兄様だ」


 フライムは、へライトの腕に抱きつきながら、自慢げに話した。


「フライム。お前、もしかしてブラコンか?」


「神に向かってお前とは失礼……、ってもう良いか……」


「もう破壊神より破壊神だし、雷魔法しか使ってないから、実質雷神みたいなもんだしね」


 フライムは小声で呟きながら、呆れた表情でライムを見ていた。


「余は、ただ神の中でも優秀で、強くて優しい兄様を愛しているだけだ。決して、何をするにしても完璧な兄様と結婚して、時空の神を産みたいなどと思っていないからな」


「ふっ、それはもうブラコンというのを隠す気が無いだろ……。てか! 神の子って親の司る物を二つとも受け継げるのか!?」


「いえ冗談よ。それが本当なら、今頃オリードは力のインフレを抑えられなくなっているでしょうし」


「まぁ時空の神自体は居なくても不思議じゃないし、もしかしたら出来ちゃうかもだけど……」


 フライムは頬を赤くしながらお腹を擦り、小声でそう呟いた。


 ブラコンはブラコンでも、重すぎじゃないか?

 てか、兄弟は兄弟でも、ゼイト様の創造で産まれてるから、血が繋がってなさそうなのが余計に心配だし、恐いんだよな。


「それで、兄妹愛が強い二人がなんでわざわざ僕の前に姿を現したのかな?」


「それはね、お兄様の活躍を貴方に教えてあげる為よ」


「ごめんね、ライム君。私は他の理由で来たんだけど、どうせなら余も行って、お兄様の活躍を話したい! って聞かなくて……」


「いえいえ、フライムのお兄さん愛は十分伝わってるので……」


 ほんと、こんなに愛が伝わってくる妹が居れば、全国のお兄ちゃんが甘やかし尽くすだろうな。

 てか、時の神ってこんなに低姿勢なんだな。ほぼ無敵みたいな力を持ってるから、もっと偉そうな神だと思ってた。


「それで、へライトさんはどういう理由で僕に会いに来たんですか? フライムといる時点で、僕を殺しに来たという理由は消えてますよね?」


「あぁ、多分君の思ってる通りだよ。私は時の神だ。その力で未来を見て、君がこの世界を変えると確信したから、魔王軍にスパイとして入り、君と君の仲間の手助けとなり得る行動をしてきた」


「そうなの。ちなみに、つい最近も貴方を助けてるのよ」


 フライムは鼻高々に言い放った。


「え? どういう事なんです?」


「はぁー。ここまで妹に言われて、はぐらかす方がカッコ悪いか……」


 へライトは頭を抱えて溜息を吐いた後、気分が乗らなさそうに話し始めた。


「君もヒストア図書館の秘密の部屋で感じたと思うが、ここにはセイカとルークと言う魔将軍二人が来ていたんだ」


 やっぱり、あの闇魔法は魔将軍の物だったのか。

 まぁ流石に、魔王から血を貰ってるとは言え、アルバートがあの質量の魔法を維持できる筈ないもんな。


「そして、君達が妹に助けられた後、ホノカ君とハルカ君がセイカとルークと戦っていたんだ」


 ゼーレ達と部屋にいた時に感じた地鳴りはその時のか。

 ホノカと魔将軍二人の魔力は微かに感じてたけど、ハルカの魔素はだいぶ変化してたから、よく分からなかったんだよな。


「そして、ホノカ君とハルカ君対魔将軍二人の戦いに私が割って入らなければ、ホノカはセイカに殺されていた」


「は!? 確かにホノカは虹雷剣の中では唯一人間で、魔力も身体能力も覚醒した獣人には及ばないが、それでも魔将軍に数で負けているならまだしも、同数対決で死ぬなんてあり得ない!」


 ライムは怒りに身を任せて、怒号を上げた。


「落ち着いてくれ、ライム君。この時間軸では、ホノカ君はまだ死んでいないから」


 へライトがなだめたことで、ライムは正気を取り戻した。


「でも、もしホノカ君がセイカに殺されていたら、本当に危なかったんだ」


「どういう事なんです?」


「もし、セイカがホノカ君を殺し、それを君が知ってしまったら、君は怒りで理性を失い、虹雷剣やナイトサンダーズ含む、サンダーパラダイス全勢力を引き連れ、この世界の悪と呼ばれる者全てを滅ぼす」


 いわゆる主人公闇堕ちか……。


「その末に待っているのは、己の力で守りたい者を守る為に世界を征服した、まさに魔王軍と呼ばれるに相応しい君達だけが残る未来に辿り着く……」


「これが、私の見た未来だ。ま、何度も言うけど、今はもう別の時間軸になってるから心配はいらないよ」


「そんな……」


 ちょっとカッコいいと思ってしまった不謹慎な自分の頭を殴りたい。

 てか、ディアブロ時代の僕は邪神を絶滅する事と、どんな種族も変わらず幸せに暮らせる世界を。そして今の僕は、主人公のラスボスを横取りする事が夢なのにそんな幸せも面白みも無い未来なんてごめんだ。


 つまり、最強である僕の闇堕ちは、この世界のシナリオには向いていない!


「それとね、それとね。君の相棒、ディストラ君に裏切り行為を命じたのもお兄様なのよ」


「なんでそんな事したんですか? 僕、ディストラのお陰で魔族に対しての敵意が結構薄れてたんですけど」


 ま、今は僕がディアブロの時の記憶が蘇って、魔族も他の種族も皆が仲良くできる世界を作りたいって本気で思ってるけど。


「あ〜。それは、ディストラ君を完全に魔王軍から引き離す為だよ。ほら、あの頃ってまだディストラ君の立場ってあやふやだったでしょ?」


 確かに、あの頃のディストラって勝手に自分の持ち場を離れて僕について来てただけだもんな。


「それに、君とディストラ君が本気で殺し合う未来が見えなかったし、ディストラ君も最終決戦に必要だから、わざと危険を冒したんだよ」


「最終決戦? 別にディストラは必要じゃないと思いますけど。だって最後の戦いは、勇者パーティーと魔王の戦いでしょ? 確かに魔王は二人になりそうですけど、僕が一人で相手すればいいですし」


「ふふっ、やはり君は自分が最強だからって、魔王軍との戦いを楽観視し過ぎてる様だ」


「いや、そりゃあだって、神にも圧勝出来るんですから魔王軍なんて敵じゃないでしょ」


「君一人ならそうかもね。でも、君には仲間が大勢いることを忘れてはいけない。そして、その仲間が殺されれば、君は暴走してしまうこともね」


「っ! それって……」


 僕以外の味方が死ぬ可能性があるってことか……。


「まぁあくまでも、現段階で見える未来でしか無い。先程も触れたように、未来は行動や考え方一つで変えられる……。だから、私と妹がここに来たんだ」


「教えてください、へライト様。僕は、僕の夢の為に巻き込んだ人達を誰一人として失うつもりは毛頭ない!」


「いい顔だ。その心持ち一つで未来は変えられる」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「と言う事で、今の君に一人で仲間全員を守りきれる程の実力があるのか、私達と戦って確かめさせてもらおう」


「いえーい。パチパチ」


 フライムは、これから始まる戦いを想像して、楽しそうに、しかし何処かおしとやかにはしゃいでいた。


「ふっ、やっぱりこういう事になるのか」


「うん。現段階の実力がハッキリと分かっていない状態で変に知恵を授けると、それこそ悪い方向に未来が動く可能性があるからね」


「ま、正直。今見える未来でも、君一人で魔王軍も邪神も全てを相手にする必要なんてないから、気楽に戦って欲しい……」


 へライトは、雰囲気が一気に変わり、気迫溢れる声色で話しを続けた。


「ただ、この戦いは君の戦闘技術や判断能力等々を知る為の戦いだ。手加減もしないで欲しい」


「まぁ僕も神の中でも最強クラスの二人と戦うのは願ってもない事なんですけど、流石にここで僕達が本気で戦う訳には……」


 ライムは、自身の影や周りの景色を見て、戦いに対して躊躇している様だった。


「ふふっ、勿論それも考えた上で君の前に現れてるんだ」


 へライトはフライムの方に視線を向けながら話した。

 一方フライムは、両手を胸の辺りに出していた。

 その両手には、小さな空間の玉が創られている。


「ライム。貴方忘れてる? 余は空間を司る神、フライム何だよ。『別世界之空間ディフェレントディメンション・スペース!』」


 フライムがそう言うと、小さな空間の玉はみるみる内にライム達を飲み込み、辺りの景色を宇宙のど真ん中のような景色に変えた。


「これで、余達のいる空間は、どこの世界とも繋がりの無い、完全に隔離された新たな世界になったよ」


「つまり、僕達がどんだけ暴れようが、どの世界にも影響が出ないと……。やはり、神授之権能ゴットソウルでの模範なんかより、本職の方が何倍も化け物だな」


「あっ! 勿論、時空を壊すとかは止めてよね。別にそこまでするやうな戦いじゃないし、余達も貴方がそうせざるを得ないような戦いはしないつもりだから」


「あー、分かってる。ディストラ、起きてるか?」


「はい!」


 ライムの影からディストラの声がすると、ライムは楽しそうに不敵な笑みを浮かべながら、影の渦に包まれた。


 数秒後。


 影の渦目掛けて漆黒の雷が落ち、影の渦は散り散りに散った。

 そして、フライム達が雷鳴が鳴った所に視線を向けると、漆黒と雷に染まった服と漆黒な剣を握ったライトニングが仁王立ちしていた。


「我は雷鳴の猫王ライトニング。いずれ雷鳴の覇者と成る者……」


 ライトニングの周りには漆黒の雷が漂っている。


「やっぱこっちの姿の方が気分上がるからな。最初っから本気で行くぞ!」


 舞台は神によって創られた新たな世界、向かい合う最強達。

 ()は懸かっていなくとも、最強と言う名誉が懸かっている。


 そんな、最強同士の戦いが幕を開ける。

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