103 心強き王女 クロエ・ヒストア
ライトニングとアルバート、そしてオスカー王が姿を消してから数分後。
冷静になったゼーレとレイラは、拘束を解き、エマとスズリの容態を確認していた。
「息はあるけど、食欲を増幅させられてたのと、力みすぎてたから、完全に意識を失っているな」
「それに、骨も何本か折れていて、意識を取り戻しても自力で歩くのは難しそう」
ゼーレ達は、ひとまずエマ達を拘束している物を全て外し、地面にゆっくりと寝かせた。
「そう言えば、ライムは何処だ?」
「ほんとだ。いつの間に拘束を解いてたんだろ?」
二人の視線の先には、拘束に使われていた縄と椅子だけがあった。
「あれ〜? アルバートの奴、僕らの荷物どこやったんだよ」
ライムはそうぼやきながら、階段を降りてきた。
「荷物ならライトニングが置いていったぞ」
「へぇー。ライトニングって、割といい奴なんだな」
ライムはそう言いながら、リュックを背負った。
まあ、僕達が拘束されてる間にディストラが見つけてくれから、ライトニングは何もして無いんだけど。
「てか、ライムどこ行ってたんだよ。拘束解いてたなら、僕たちの事も助けてくれればよかったのに」
「まぁ、ライトニング程の実力者でも逃がしたんだから、私達が解放されてた所で何も出来なかっただろうけど」
ゼーレとレイラは、自分達の無力さに言葉を失った。
「ま、取り敢えず今すべきなのはエマさん達の介抱じゃないか?」
ライムがエマとスズリの首元に触れながら、暗い雰囲気を壊すように提案した。
「そうね……」
だが、レイラとゼーレは暗いままだった。
「てか、ライム。今、話し逸らしたろ」
少しの沈黙の後、ゼーレが明るい口調でツッコんだ。
「あっ、やっぱバレた? アハハ」
ライムはあからさまにおちゃらけた笑いを浮かべていた。
「じゃあ、ヒストア図書館に行くか。あそこならエマさん達を安心して預けられるだろ」
ライムはそう言いながら、スズリを抱えて階段を登っていった。
「そうだな。レイラ、僕はエマさんを連れて行くから、クロエ王女を頼んだぞ」
「分かった」
こうして、ライム達は弱っているエマさん達を連れて、ヒストア図書館へと向かったのだった。
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あれから、ライム達はヒストア図書館に居る騎士達にエマとスズリを任せて、王城エリアの一室でクロエ王女と休憩していた。
「ふぅ~。気を失ってる人間って、身体強化しててもやっぱ重いんだな。アルバートの奴、どんだけ力持ちだったんだよ」
「まぁエンペラーズは、魔王から血を貰って色々強くなってるらしいしね」
「ま、エマさんとスズリ君は、ここの騎士達がなんとかしてくれるでしょうし、私達は一旦休みましょう」
「あ、あの……」
「ん?」
「私達をここまで送ってくださり、ありがとうございます」
「いえ、僕達勇者パーティーが居ながら、お父さんをお守りできず、すみません」
「そんなに申し訳無さそうにしないで下さい。アルバートの素性を見抜けなかった私達にも落ち度はあります……」
そう言うクロエの顔は、暗い表情に染まっていた。
「強いですね。クロエ王女様」
そんなクロエに、レイラは優しく言葉をかけた。
「え?」
「だって、アルバートにお父さんを連れて行かれる時に言ってましたよね? お父さんだけは連れて行かないでって」
「あれって、今までにも家族を失っていて、残りの家族がお父さんだけだったから出た言葉何でしょ?」
クロエは少しの間悩んだ後、重い口を開けた。
「勇者パーティーの皆様には色々と助けられましたし、何より信頼できるので、少し弱音を吐いてみるのも良いかもしれませんね」
クロエは、胸の内を明かす様にゆっくりと話し始めた。
「実は、私のお母さんは私が小さい頃に病気で亡くなって、弟も最近サンダーパラダイスに殺されたんです」
「まぁでも、弟に関してはアルバートに利用されたとは言え、悪い組織に入ったのは事実ですから、自業自得なんですけど……」
「それでも、家族だったんです。私の弟だったんです。私がアカキを止めれていたら、今頃は……」
部屋には、しんみりとした空気が漂っていた。
「なんて、アルバートが館長をしている限り、いずれはこうなる事が決まっていたんでしょうね」
クロエは、先程までの暗い表情から一転、重い枷から解放されたかの如く、自然な表情で軽く微笑んでいた。
「はぁー、弱音を聞いて頂きありがとうございます。何だかスッキリしました」
「それなら良かったです」
レイラがそう言うと、クロエは椅子から立ち上がった。
「クロエ王女、どうしたんです? まだ休んでいた方が……」
ゼーレは、心配そうにクロエに話しかけた。
「勇者パーティーの皆さん、気分転換に少しお散歩をしましょう」
「そ、そうですね。あんな暗いことがあったのに部屋に閉じこもってたら、尚の事暗くなっちゃいますもんね」
ライムはそう言いながら、部屋のドアを開けて皆んなと外に出かけた。
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外の空気を吸う為に散歩をしているライム達は、ヒストアの美しい街並みを堪能しながら行き先も決めず、ゆっくりと足を前に進めていた。
「ふぅ~。あんまこういう事は言うもんじゃないけど、あれだけ図書館がボロボロになったのに、街は殆ど何も無かったのは不幸中の幸いってやつだな」
ゼーレがそう呟くと、クロエがゆっくりとした口調で話し始めた。。
「初代ヒストア王は、わざと国から少し離れた所に王城や重要な文献などがある図書館を建てることによって、今回の様な事が起こった際にも街に被害が及ばないようにしたのです」
「へぇ~、国民思いな王だったんだな」
ゼーレはなんとなく空を見上げていた。
「ま、ヒストアは私達の中でも唯一魔物に最後まで情をかけていた様なお人好しだからね」
ゼーレの隣を歩くレイラからは、ユニスの声が発せられていた。
「なっ! ユニスさん」
レイラの隣を歩いていたゼーレとクロエは、驚きのあまり一歩後ろに下がっていた。
「いや〜、ごめんごめん。かつての仲間がどんな国を作ったのか気になってさ。レイラの意識奪っちゃった。てへっ」
ユニスは、クールなレイラでは絶対にやらないであろうあざと可愛い舌出しポーズを披露した。
「てへっ、じゃないですよ。急に変わるのやめてくださいよ。心臓に悪いです」
ゼーレはそっと胸を撫で下ろした。
「アッハッハー。次から気をつけるよ」
ユニスは少し申し訳無さそうにしながら、レイラに意識を返した。
「わっ! ユニス、さては勝手に私の意識を奪ってたんでしょ。はぁー」
レイラは溜め息を吐きながら、少し嬉しそうにしていた。
それから暫くの間街をぶらりと歩いていると。
「あ、あのー、……」
後ろの方で重くてデカいリュックを背負ったライムが手を挙げて皆を呼び止めた。
「何だ? また一人で行きたい所があるのか?」
ゼーレとレイラは、完全に呆れた表情をライムに向けていた。
「あ、はい……」
ライムは申し訳無さそうに小さな声で返事をしるしか無かった。
「まぁ良いよ。正直この国に長く居る理由もないから、明日には出国するし」
「ありがとうございます」
ライムは、よく通る声でピシッとお礼を言って、重いリュックを背負ったまま、ゼーレ達の前からそそくさと消えた。
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ライムは、ゼーレ達と別れた後、ヒストア王国北東にある森に移動していた。
「ライトニング様。アルバート・クラークを追えば良いのですね?」
そこには、シエル、アイ、カルラの3人がライトニングと話していた。
「あぁ、あの怪我ではそう遠くまでは行っていないだろう。オスカー王が無事なら、手を出さずに尾行し続けろ」
「了解しました。尾行する者に伝えておきます」
「あぁ宜しく頼む」
ライトニングはそう言いながら、ディストラに影から服を出して貰ってライムの服装に着替え、ゼーレ達の所に戻っていった。
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ライムが普通の雷魔法をその身に纏いながら、ゼーレ達の所に向かって森を走っているその時。
突然、正面にライムですら死を予感してしまう程の存在感を放つ者が二人現れた。
「ははっ、フライム久しぶりだな。マジでストーカ続けてるとか、ちょっと引くぞ」
「フライム、そんな事してたのか?」
フライムの隣に立っている男が聞いた。
「い、いや〜、そんな事してないよ〜」
そう、苦笑いを浮かべているライムの前には、空間の神フライムと金髪ウェーブショートに水色の瞳をした時の神へライトが立っていたのだ。