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100 悪辣な過去と新たな闇組織

 セイカとルーク対ホノカとハルカの戦いに突然割り込んで来た時の神へライト。

 ホノカ達が居る図書館の廊下は、へライトの出現で、静まり返っている。


 神の威圧により動けずにいるホノカやセイカ達を見て、へライトは思わず鼻で笑った。


「中途半端な強さってのも、不便なものだね。普通の生き物なら、ちょっと魔力が多いだけの人間にしか見えなかっただろうに……」


「まぁ、そこの魔将軍二人が私達の強さをしっかり理解した上で反抗的な態度を取っていたと分かったのは嬉しいかな」


 へライトは、セイカとルークに対し、ジメッとした見下す視線を向けていた。


「もし、傲慢に神より自分達のほうが強いと勘違いしていたなら、体に覚えさせる必要があるからな」


 へライトはそう言いながら、自分の魔力を増幅させ、セイカ達にチラつかせた。


「それじゃあ。どうせ、ここから君達がライトニングを殺す事は不可能だろうし、戻ろっか」


「な、何故だ。へライト様も手伝ってくださるから来たのではないのですか?」


「いや違うよ。私にはそろそろやらなければならないことがあるんだ。だから、私は君たちを逃がす為に立ち寄ったに過ぎない」


 へライトは立ち上がり、木の上からゆったりと飛び降りた。


「ふっ、貴方達では神を殺せませんので、邪魔しないでくださいね」


 へライトはそう言い、余裕の笑みを浮かべながらホノカとハルカの間を一歩一歩進んで、セイカ達の元に歩いていった。


「さっきから自分の事を神とか言ってるけど、魔王軍はナルシストばっかなのか?」


 へライトを煽るハルカの声は震えていた。


「ほう。そう言えば、貴方は私達の事を知らないんでしたね」


「まぁこの世にも他の世にも、関わらないほうが良いことはある。どうしても知りたいなら、そこのホノカと言う人間に聞くと良い」


 そして、セイカとルークの元に到着したへライトは、一気に魔力を高めた。

 へライトの周りに黄金の魔力の竜巻が立ち込める。


「ハァ〜。まぁまだホノカと会う機会はあるだろうし、ここで死ぬ訳にはいかないか……」


「ふっ、貴方のシスコンぶりは何度見てもドン引きレベルですね」


「え? シスコン?」


 ホノカは、ルークの言葉に呆気に取られる。


「何だ、ホノカ。まだお兄ちゃんの事を思い出してくれないのか? って、顔隠してたんだった」


 セイカはそう言いながら黒いフードを脱いで、素顔と青い軍服を露わにした。


「っ! まさか、そんな筈は……。だって、私の故郷は全部巨大狼(ジャイアントウルフ)に壊されて、私以外の生き残りなんて……」


 ホノカは口元に手を当て、目を見開き、己の前に立っている男の顔に後退りしながら驚愕していた。


「なぁホノカ。その時、お兄ちゃんは村に居たか?」


 セイカはニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。


「そんな、でも……、何でお兄ちゃんが魔将軍に」


「ん? あぁだって、あの狼を操ってたのはお兄ちゃんだからな。アビス様の血を分けてもらって、半分悪魔、半分人間の体になったんだ」


 セイカは軽く、さもその真実が当たり前かのように話した。


「っ!」


 その時、ホノカは突然腸が煮えくり返るような恐ろしい吐き気に襲われた。


「な、何でそんな事を……」


 ホノカはいつもの活力を無くし、赤く輝いていた瞳は光を失い、眼の前に居る家族達の敵以外見ていなかった。


「だって、あぁでもしないとホノカは強くなろうとしなかっただろ? 人は、亡くした人が親しければ親しい程、復讐心に燃えるもんだ」


「ホノカ。お兄ちゃんはな、本気でお前に勇者になって欲しいんだよ。たとえ、自分自身が大好きな妹の敵になってでも……」


 その言葉を発するセイカの口元は緩み、目元は笑い、まるで長年溜めていた物を全て吐き出した殺人鬼の様な悪魔の表情を浮かべていた。


「な、なんでそこまでして……。私、お兄ちゃんの事大好きだったのに……」


 活力を無くした赤い瞳から零れた一粒の涙が地面に落ちていき、小さな水滴音を奏でる。


「ホノカ、辛い記憶も己の熱に変えろ。世界は不平等で成立してる……。生まれながらに不幸な奴は、綺麗なままでは幸せになれない」


 そう言うセイカの目は、光を失っていた。


「人生の何処でも良い。何かを本気で成し遂げたいなら、悪魔と契約するんじゃなく、自分が悪魔と成れ!」


 その言葉を聞いた直後、ホノカはけたたましい叫び声と共に泣き叫ぶ。


「ウアァァァアア!」


 ホノカは涙を流し、頭を抱え、艷やかな赤髪ロングを掻きむしりながら獣のような叫び声を上げて泣き続けた。


「ふふっ。セイカ、金輪際私を腹黒と言わないてまくださいね」


 ルークは気味の悪い笑いをしながら、セイカから距離を取った。


「ハハッ、お前が魔王軍に入った理由も俺とどっこいどっこいだろうが」


 ハルカは、そんなやり取りをしているルークとセイカに嫌悪の視線を向けながら、泣き崩れているホノカに駆け寄ってなだめていた。


「おい、もう良いか。そろそろ時間が不味いんだが」


「はっ、自由にこの世界の時間を操れる時の神が何言ってる」


「そうですよ。私だって、あの金髪エルフともう少し話したかったのに」


 文句を言いながらも、ルークとセイカは、黄金の竜巻を起こしているへライトの体に触れた。


「ホノカとハルカ、信じた道を進み続けてくれよ。それがきっと、この世界を守る最善策だ……」


 へライトはそう言い残し、魔法を発動した。


「それじゃあな、『時間之跳躍ワールドタイム・スキップ』」


 へライトが魔法を発動すると、瞬く間にへライトとルークとセイカは姿を消し、その少し後に黄金に輝く魔力な竜巻が大気中に粉のように散った。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 場所は変わり、オスカー王とクロエ王女のいる一室。

 そこには、何者かの力により、秘密の部屋からワープして来たライム達5人がオスカー王とクロエ王女の容態を心配していた。


「オスカー王、怪我はありませんか?」


 エマは、腹部を押さえているオスカー王に駆け寄り、優しく話しかけた。


「うむ。先の爆発に驚いただけだ」


「クロエ王女もご無事そうで何よりです」


「心配してくれてありがとう。スズリ」


 クロエは、明るい笑顔を返した。


「さっきの爆発音や地鳴りで、図書館の人は大体外に出たっぽいな」


 ゼーレは窓から下の方を見て、避難し終わって、図書館入口付近の一箇所に固まっている人たちを確認した。


「そうね。一応爆発音とかも聞こえないし、今なら安全に外に出られそうだけど……」


 レイラは杖を強く握りしめ、不安の表情を浮かべながら周りを警戒している。


「戦ってた奴らと俺達を襲ってきた奴らは同じ可能性がある。そいつらが他のやつと戦っているとなると、図書館のどこに敵がいるか分からないから危険だな」


「うん。それに、この建物の3階って結構高いから、オスカー王とクロエ王女を抱えて窓から飛び降りるのも危険だし……」


 ライム達が図書館からの脱出方法を悩んでいると、突然部屋の扉が開いた。


「誰だ!」


 スズリが気迫ある大きな声で扉の先にいる者を威嚇する。


「何だ、アルバート君じゃないか」


「オスカー王様、お元気そうで何よりです」


 アルバートはそう言いながら、オスカー王に駆け寄った。


「オスカー王様、お怪我などはございませんか?」


「うむ。大丈夫だ」


「そうですか。ですが、気づかぬ内にかすり傷や内出血などをしている可能性もございますので、わたくしがご確認させていただきます」


 アルバートは、そう言いながらゴム手袋を付け、オスカー王の体の至る所を診察した。

 アルバートがオスカー王の体に触れるたびに紫色の霧状の魔法? を流していたようだが、回復魔法の一種なので気にしないでくださいとのことだった。


「はい、終わりました。軽い怪我などもないようですね。では、クロエ王女やそちらの方々も診察いたしましょう」


 アルバートさんは膝立ちから立ち上がり、ゼーレ達の方に視線を向けた。


「いや、僕達全員怪我してないですし、素人が見てもわからないのでは?」


 ゼーレは警戒しているのか、アルバートに鋭い眼差しを向けている。


「安心してください、わたくしはこの図書館の館長ですが、医学にも多少なりとも精通しておりますので。勿論、女性の方の肌は極力見ないようには努めます」


 そう言うアルバートは、怪しげな雰囲気を纏った笑顔を浮かべている


「勇者殿、アルバートはかなり腕が立ちます。任せてみてはどうでしょう?」


 オスカー王は、乱れた服を整えながらそう話した。


「……分かりました」


 ゼーレは不服そうにしていた。


 こうして、一悶着あったもののライム達はアルバートに怪我をしていないかなどの診察を受ける事になった。

 それから、アルバートは言葉通り、クロエ王女やエマさん、そしてレイラの肌は極力見ないようにしていた。


 勿論、アルバートさんはライム達にも紫色をした回復魔法を掛け続けた。


「うん。皆さん健康そのものですね」


 アルバートさんは爽やかな笑顔でゴム手袋を外した。


「なぁライム……」


 服を整えたゼーレは、ライムに耳打ちをした。


「ん? どうした?」


「診察されている時、妙な感じがしなかったか?」


 ライムとゼーレは、ヒソヒソ声で会話を続ける。


「あぁ、何か回復魔法にしては変だったね」


「だよな。でも、変な感じがするだけで、何の効果なのかが分からないから余計怖いんだけど、ライムは分かるか?」


「さぁあ、どうだろうねぇ〜」


 ゼーレの目には、ライムが黒真珠の如く輝く瞳に喜色を浮かべ、微かに微笑んでいる様に映っていた。


「ねぇ二人共、さっきから何話してるの?」


 ゼーレとライムの話している所に覗き込むようにしてレイラが割り込んできた。


「あっ、 いや、別に面白くない話だよ」


 ゼーレは慌てた様子で誤魔化していた。


「まぁ、健康だと何かと面倒なので……」


 アルバートは、暗く、気だるげな表情で服のシワを整えた。


「……皆さん眠ってください」


 唐突にそう発したアルバートは、手を叩いて大きな音を出した。

 その時の表情は、今までで一番明るく嬉しそうで、それ以上に己の裏に居る悪魔を押し殺したような表情だった。


「なっ! やっぱ、り……」


 その瞬間、ゼーレ達の意識は遠のき、膝から崩れ落ちるようにその場に倒れこんで、眠りについた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ライム達が眠りについてから数時間後。


 ……、ここは何処だ? ゼーレ達は無事か?

 いや、無事じゃない訳無いか。


 だって、アルバートさんからは殺意の欠片も感じなかった。

 それどころか、女性陣の誰かが死んでしまうかもしれないと不安がって、魔法の威力を弱めてたみたいだし。

 まぁ、獣人である僕には念入りに魔法を掛けてたけど……。


 そのせいか分かんないけど、今もめっちゃ眠いしな。


 ライムは、眠気で視界がぼやけながらもなんとか目を覚ました。


 ライムが今いる場所は、ヒストア王国のとある地下。


 ライム達は、そこで手足を鎖に繋がれ、首には重い鉄の輪っかをはめられ、各々別の個室で椅子に座らされていた。

 そこは明かりもほとんど無く、ジメジメとした空気が漂う牢獄がいくつもあるような場所。


 あまり使われていなかったのか、ライム達以外に牢獄に囚われている人影はなかった。 


 うん。皆んな寝てて魔力を探りづらかったけど、ゼーレとレイラは僕の両隣の牢獄に居るし、クロエとオスカー王も近くの牢獄に一緒に入ってるみたいだな。


 いやぁ殺意がなかったとは言え、素性も知らない敵の思い通りに動くのは、流石にリスクがありすぎたな。

 ま、皆んな生きてるなら結果オーライ。

 ここからは、以下に相手の狙いを暴いて、皆んなを無事に救うことができるかが試される。僕の腕の見せ所だな。


 あれ? エマさんとスズリがいない?


 ライムは、魔力感知でエマ達を探しても引っかからず、焦っていた。


「ほう、獣人の子供が一番早く起きましたか。いやぁ、あの量の魔法を流しても一番早く起きるとは、やはり獣人はタフですね」


 コツコツと階段を降りながら、ライムの入っている牢獄へ近づく足音。

 その足音はライムの居る牢獄の前で止まった。


「お前はアルバート……。いや、滅紫の剣と言ったほうが良いかな?」


 苦笑いを浮かべているライムの前には、見下した視線で不敵な笑みを浮かべているアルバート・クラークが立っていた。


「ほう、ナハト教団のみならず、エンペラーズまで知っているのですか……。ですが残念、今の私は滅紫の剣ではありません」


「あ? どういう事だ」


 ライムの黒い瞳は光を失わず、常に目の前の敵を睨んでいる。


「今の私は、『砦の鎖』の一人に過ぎませんので……」


 アルバートは、近くにある明かりに照らされ、顔に陰がある不敵な笑みを浮かべてそう言い放った。

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