99 人間達とエルフ達の前哨戦
ヒストア図書館にある秘密の部屋で、勇者の残した古い本を読んでいたライム達。
そこに、突如として扉を塞ぐようにして闇魔法が放たれた。
「「レイラ!」」
「姉さん!」
ライムとゼーレはレイラをスズリはエマを見て叫んだ。
「「分かってる!」」
レイラは杖を前に突き出し、エマは両手を前に突き出し、魔力を一点に集中させる。
「全てを反射せよ! 『反射水!』」
「包み消せ! 『包容神之水球!』」
二人の魔法がけたたましい轟音を上げながら、闇魔法とぶつかる。
「くっ! 跳ね返しきれない!」
「私の魔法もあまり通用していないようだ」
二人は苦しい表情で、目の前のおぞましい闇を睨んでいた。
「ふふっ、流石は勇者の末裔。生命力は我々エルフ以上、ですか……」
ライムとレイラの耳は、扉の先の声を微かに拾った。
「ライム! スズリ! もう、爆発するの覚悟で僕達も応戦するぞ」
「おう!」
「仕方ないか」
ライム、ゼーレ、スズリが応戦しようとしたその時。
『空間之交換』
ライム達は謎の魔力に体を覆われ、動きを縛られた。
ふっ、マジでストーカーだな。
ライムは心の中で不敵に笑った。
「な、何だ!」
ライムを除き、ゼーレ達は混乱していた。
だが、そんな事も顧みず魔法は発動される。
気づいた時にはライム達の目の前の景色は、オスカー王とクロエ王女が居る部屋に一変していた。
「瞬間移動!? 誰の魔法だ!」
ゼーレ達は咄嗟にヒストア図書館の方向に視線を移した。
その瞬間、ヒストア図書館の地下から大きな爆発音が鳴り響き、地面を激しく揺らした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヒストア図書館の地下で大きな爆発が起き、地面を激しく揺らした数分後。
ヒストア図書館の秘密の部屋へ通じる階段入口付近。
そこでは、近くに居た人々は既に避難しており、黒いフードを素顔を隠すように深く被っている二人の魔将軍と対になる色に染まったスーツを下に着た人間とエルフが互いに睨み合っていた。
金髪ロングのエルフも素顔を見せたくないのか、白いフードを深々と被っている。
「ふっ、お前がアンナ様の言っていた我々の真似事をする集団の盟主か?」
赤髪ロングの人間は、魔将軍を睨みながら金髪ロングのエルフに話しかけた。
「真似事とは聞き捨てならないな。私の組織には、ただ貴方達の活動に感銘を受け、リスペクトしている者達が集まっているだけだ」
金髪ロングのエルフは、強気に返した。
「それに、私は元々貴方達の様な活動をしたいと思ってましたし。貴方達の方が始める時期が早かっただけじゃないですか」
「その早さが重要なんだろ」
「そうですね」
「それより、あまり話し込んでいると怒られてしまいますよ」
金髪のエルフが見据える先には、不敵な笑みを浮かべてこちらを優しく見つめる二人の魔将軍が居た。
「分かってる……。てか、お前等は本当に魔将軍で合ってんのか?」
「はい。我々は種族こそ人間とエルフですが、れっきとした魔将軍です」
ルークは落ち着いた口調で話した。
「俺はエンペラーズみたいに魔王様の血を貰ってるから、半分魔族みたいなもんだしな」
セイカは、水色の剣に手をかけている。
「エルフであるにも関わらず、魔王軍に堕ちる者がいたとは、世も末だな」
金髪ロングのエルフは、ルークに殺意を乗せた鋭い眼光を向けている。
「ふふふっ、私にとっては褒め言葉ですよ」
ルークはそう言いながら、セイカの肩に手を乗せた。
「あなたの生命力、貰いますね。発動、『終焉に導く手』」
ルークがそう言うと、手から禍々しいオーラが溢れ出て、セイカから白に光り輝く力の源を吸い込んだ。
「ちっ、お前との共闘は慣れねぇな……」
「すみません。私の究極之魂『終焉之帝』は、他者の生命力を奪い、闇魔法を強化する魂之力なので」
「言われなくても分かってる。行くぞ、ホノカ!」
セイカは水色の剣を鞘から抜き出し、頭上に掲げた。
「俺の速さには誰も追いつけない。神授之権能『時神』、『時神之加速燐火』」
セイカが叫ぶと、水色の炎がたちまちセイカの全身を覆い、メラメラと燃え盛った。
「ホノカァァー!!」
セイカは叫びながら、ホノカに突っ込んだ。
ホノカも赤い剣で応戦し、二色の炎がぶつかり合う。
「やっぱり、変な速さだな。フィジカルや魔力での強化じゃないだろ?」
ホノカは、妙な速さで移動するセイカに疑問をぶつけた。
「あぁそうだ。俺の持つ魂之力『時神』は、時を司る神の力が宿った魂之力だ。流石に世界全体の時間を早めたり、巻き戻したりとかは俺の魔力量的に出来ないが、自分を含めた数人の時間を操作することぐらいは出来る」
「それだと、いつか死ぬんじゃねぇか?」
ホノカは喧嘩腰に煽った。
「ふっ、言っただろ? 時を司る神は、時間を巻き戻すことも出来るって。まぁ、実質不老みたいな感じで巻き戻し続けることはできないけど、早めた分だけ巻き戻すぐらいの魔力の余裕は持って魂之力を使ってる」
「なら、制限時間付き、何だな?」
ホノカは剣を握る力を強め、ニヤリと微笑んだ。
「あぁそうだ。でも、もう一人の方はしんどそうだが、助けなく良いのか?」
そう言うセイカの視線の先には、ルークの闇魔法により押されている金髪ロングのエルフが居た。
「フハハッ、避けてばかりでは勝てんぞ。特に私にはな!」
図書館の広い廊下に闇魔法で作られた禍々しい玉が雨のように降り注ぐ。
「くっ! 初手を取らせてしまったのが痛いな」
金髪エルフは、慣れない身のこなしで当たる寸前の所で避け続けている。
闇魔法が一瞬止まったその時。
金髪ロングのエルフは肩膝立ちになり、地面に両手をついた。
「そちらが終焉なら、こちらは生命の神秘を持って対抗しよう。神授之権能『森神』、『森神之脅威!』」
金髪ロングのエルフが両手の先に魔力を込めると、地面から大量の太い木の幹や枝、綺麗な花吹雪などが波のようにルーク達に押し迫った。
「な、何だよこれ!」
金髪ロングエルフの近くに居たルークは、森の波に圧倒され、足が動かずに波に飲まれた。
セイカとホノカは、森の波に押し流されつつもなんとか抵抗していた。
それから暫くの間、森の波は収まらずに廊下だけでなく、外壁なども突き破って図書館の一区画を埋め尽くした。
数分後。
森の波は収まり、辺りには葉や花びらが雪のように舞っていた。
「くっ、カハッ……!」
そんな綺麗な景色が広がる中、ルークは太い木の幹に心臓を貫かれ、宙に浮きながら吐血していた。
自然に生きる筈のエルフが闇に染まり、今や自然に心臓を貫かれている。
その様は、まるで自然が裏切り者を粛清しているかのようだ。
「神授之権能……、相変わらずデタラメが過ぎる……」
ルークの綺麗な顔が歪み、鋭い眼差しで金髪ロングのエルフを睨む。
「ふっ……」
金髪ロングのエルフを睨む顔が、不敵な表情に変わる。
「まぁ私の究極之魂も大概か。ほんと、魂之力をこの世に復活させてくれた奴には感謝ですね。運が良ければ、どんな下等生物でも私のような高貴な存在に手が届くんですから」
「それはそうかもね。実際、魂之力がこの世に復活しなければ、私が組織のトップを続ける事は出来なかったでしょうし。でも……」
金髪ロングのエルフは、フードを地面に投げ捨て、素顔を明かした。
「あ、貴方は、ハルカさん!」
ホノカが驚きの視線を向ける先には、肌にフィットしている長袖長ズボンの純白に染まったボディースーツを身に纏う、ハルカが立っていた。
艷やかな金髪ロングヘアを風に靡かせ、鮮やかなピンク色の瞳を眉毛あたりまで伸びた金髪から覗かせる。
スタイルは、ゼーレ達と旅をしていた時より引き締まっており、舐められない為の口調も相まって、カッコいいお姉さんになっていた。
「私は魂之力をただの運で勝ち取ったものだとは思わない。だって、その証拠にある程度の実力者じゃないと魂之特性すら発現しないもの」
「だから、私は魂之力持ちは皆、才と努力両方を持っていて、手に入れるべくして手に入れた者達だと思っている……。それを運と言う簡単で単純な言葉で片付けるのは考えが浅すぎじゃないの?」
ハルカは鮮やかなピンク色の瞳で、真っ直ぐにルークを見つめる。
「才と努力、ね……」
ルークは落胆の溜息を吐いた。
「お前、自分にその両方があると思ってんのか? だとしたら、自惚れすぎだろ」
ルークは見下した目でハルカを見ながら、鼻で笑った。
「ふっ、自分の事を高貴な存在って言うナルシストにだけは言われたくないわね」
ハルカは心臓を貫かれているルークを見上げながら、勝気な表情でそう言い放った。
「ふふっ。魔将軍である私にそんな大口を叩くとは、神授之権能を手に入れて気が大きくなったんですか?」
「ご生憎様、私は元々こういう性格なのよ」
ハルカは腰に手を置き、煽る様に堂々と言い放つ。
「そうですか……」
ルークは、腕の力で太い木の幹から抜け出し、地面にきれいに着地した。
美しいフードを脱いだ事で、オレンジ色の髪と黄色い瞳が露わになる。
そして、その美しい白皙の胸部は大量の血で赤く染まり、廊下を埋め尽くす花々や木の幹に滴り落ちている。
「ほんと、私の綺麗な体に傷をつけるとは……」
ルークが魔力を胸部に集中させると、滴り落ちていた血は止まり、傷口もみるみる内に塞がった。
「魂にまで傷がついてなくてよかったですよ」
か、回復した? エルフは生まれつき光魔法が得意だけれど、あのレベルの傷を一瞬で治すなんて。
ハルカは、より一層魔力を高めた。
「ふぅ〜。回復するとは言え、痛いものは痛いですね」
ルークは胸の中心を撫でながら、不気味な笑みを浮かべている。
「ふぅ~。危ねえ危ねえ、」
木の幹の間から脱出したセイカが、剣を鞘に納めながらルークに近づいた。
セイカは未だ、黒いフードで素顔を隠している。
「ちょっとハルカさん。強いのはわかったけど、私まで巻き込まないでくれると助かるんだが」
ホノカも木の幹からなんとか這い上がっていた。
「え? 私の名前を知っているんですか?」
ハルカは慌てることなく、冷静にホノカに聞き返した。
「あっ、まぁ何度か顔は見てるな」
やっべぇ〜。思わずライトニング様の旅の手伝いの時に会ったことを話しそうになったぜ。
ホノカは内心焦りつつも、上手くごまかせたことにホッとしていた。
「それでは、皆さん。第2ラウンドと行きましょうか」
胸部に穴の空いた服を着ているルークは、ニヤリと微笑んだ。
それから数秒間、四人は睨み合いを続けた。
四人の殺意が廊下中に広がっていた。
そんな重い空気の均衡を崩したのは、セイカだった。
「行くぞ! 神授之権能『時神!』、『アクセラレー……』」
セイカが抜刀の構えをし、自身に水色の炎を纏わせていると、突然セイカ達の頭上に膨大な魔力が現れた。
ハッとする様な手を叩く音が、暑くなった雰囲気を一気に氷点下まで凍りつかせた。
「は〜い。セイカ、ルーク、そしてそこの二人も落ち着いてくださ〜い」
余裕のあるゆっくりとした優しいイケボが余計に恐怖心を煽る。
「この圧倒的な魔力量! まさか、邪神!」
恐怖で冷や汗を垂らすホノカの見上がる先には、ハルカの魂之力で作られた1本の太く丈夫そうな木の天辺に男が足を組んでホノカ達を見下ろしていた。
ウェーブがかったサラサラの金髪ショートに薄く透き通った煌びやかな水色の瞳。
白皙に白く細い体ではあるものの、最低限の筋肉は付いている。
高身長で全てを見透かしているかのように据わった目。
威圧感のあるオーラを纏い、圧倒的に上位の存在である事を周りの生物に警告する。
そう、ホノカ達の前に現れたのは、時を司る神、『へライト』だったのだ。