番い
男は近くの森から薪を取ってくると石で火を付けて燃やしていった。
火が落ち着いた所で魚に枝を刺して火にあたるよう石で固定する。
こんなのアニメや漫画でしか見たことないから俺は終始夢中になって見ていた。
「っうし!ちょっと待ってろよ!」
「うん。美味しそうな魚だね」
「ここの川の魚は美味い!保証するぜ!」
「楽しみだな〜。ね、美姫ちゃん」
「あっ、うん」
「どうしたの?疲れちゃった?」
「疲れてはいるけど…色々と気になっちゃって」
「まぁ、確かに」
石に座っている美姫ちゃんは少し俯いていた。
俺は焚き火を挟んで座っている男に話しかける。
「あのさ、俺達ビャッコってよく知らないんだけど…」
「だろーな。だってお前ら違う世界から来たんだろ?」
「「……え」」
「息ぴったりだな。流石番い」
「だからつがいじゃありません!」
さっきから2人が言っている番いとはなんだ。
俺はそんな単語は知らなかった。
少し怒ってる美姫ちゃんを宥めるように俺は割って入る。
むすっとした顔も可愛いけど、喧嘩になったら大変だ。
たぶん俺はこの男には拳で勝てない。
「あの!世界が違うって言うのはどういうこと?」
「オレも詳しくはわからねぇよ。でも村の巫女様が言ってたんだ。この話は村の人達じゃみんな知ってることだぜ?小さい時から読み聞かせで言われる」
「その読み聞かせってのは?」
「んー全部は覚えてないけど、霊獣様が呼び寄せるっていう物語。まさか自分の目で見ることになるとはな!」
嬉しそうに男は体を揺らす。
魚は反対側が焼けたらしく男が気づいて裏返していた。
「美姫ちゃん…」
「うん。本当っぽいね」
「信じるの?」
「だって状況的にそんな感じじゃん。知らないうちに森の中で寝ていたなんて」
「そうかもしれないけど」
「あの、もしよければその巫女さんに話って聞けますか?」
「村に行けば聞けるぜ〜」
「案内って…」
「いいよ!どうせ魚取ったら帰る予定だったから!」
「ありがとう。えっと…名前は」
「カルイ!年は12!」
「12歳!?それにしては大人っぽいというか…」
カルイと名乗る人物はまさかの小学6年生の年齢だった。
それなのに俺はてっきり同い年くらいだと確信してしまっていた。
カルイは焼けた魚を取ると俺達に手渡して尋ねてくる。
「お前達は?」
「俺は神家雅人。16歳。雅人って呼んで」
「私は石竹美姫です。17歳で、美姫って呼んでください」
「OK!さ!食べよう!」
カルイは魚を頬張り始める。
それを見て俺も魚を口にした。
意外と脂が乗っていて美味しい。
焼き加減もバッチリで昔美姫ちゃん家と言ったキャンプでの川釣りを思い出した。
あの時、俺は1匹も釣れなくて拗ねていたら美姫ちゃんがわけてくれたんだっけ。
懐かしい思い出だ。
あの頃から結構時は経っているけど俺はずっと片想いしてるんだな。
まぁ一旦終わったのだが。
「美姫ちゃん、これ美味しいよ」
「うん」
俺の言葉に安心したのか美姫ちゃんも食べ始める。
美味しいと思えたのか顔が綻んだ。
「にしても美姫ってべっぴんさんだよな!巫女様に負けないくらいだ!」
「べ、別にそこまで顔が良いわけでは…」
「美姫ちゃんは自信持った方がいいよ」
「…雅人もそう思ってるの…?」
「えっ、いや、普通に考えてだよ!」
「そっか」
危なかった。
変な言葉で美姫ちゃんの事が好きなのを本人に悟られたら終わってた。
せっかくチャンスが舞い降りてきたのにまた振られるなんてごめんだ。
現時点では美姫ちゃんは俺を恋愛的な意味で見てくれてはいない。
でもひとまず意識させることを考えるよりも、今の状況をどうにかしなければ。
俺は魚を1匹食べ終えると1人で作戦を立て始める。
そんな俺を見てカルイは首を傾げていた。