狩り人
歩き始めて体感的には15分くらいだ。
一向に森から出ない。
途中途中、転がっている大きな足に腰かけたり川の水を飲んだりと休憩はしていたが、疲労は確実に蓄積していった。
「美姫ちゃん、ちょっと休もう」
「そうだね」
何度目かの休憩で俺達は川に近づく。
両手で掬って水を飲んだ。
「これだけ飲んだらお腹壊すかな…」
「ま、まぁ壊す時は一緒だよ」
「しょうがないよね」
俺達は苦笑いして水を飲んで、地面に腰掛けて休憩した。
「来たことさえ覚えてないからな。父さん達の所まで辿り着けるか…」
「こら!弱気にならないでよ」
「ご、ごめん美姫ちゃん」
「とりあえず歩くしかないよ。もしかしたら帰って来ない私達を心配して探してるかもしれないし」
「それだったらここで留まっていた方がいいのでは?」
「……」
「やっぱり歩いた方がいいかもね」
「うん」
まだ日が暮れる時間ではなさそうだけど、この調子だと野宿の可能性も出てくる。
しかし体は疲れていた。
歩いた方がいいと言っても一向に立ち上がらない俺達。
すると目の前に流れる川からぶくぶくと泡が立った。
「な、なんだ?」
「どうしたの?」
「あれ。ぶくぶくしてる」
「本当だ…」
泡はどんどん範囲を広げて沢山出てくる。
警戒した俺は立ち上がって目を凝らした。
美姫ちゃんも同じように泡の方を見る。
「ぶはーーーー!」
「ひっ!」
「だ、誰!?」
泡は水飛沫になり辺に飛び散る。
俺と美姫ちゃんは水を浴びた。
ビショビショになりながら出てきたものから距離を取る。
「大量、大量っと」
川の中央から上半身裸の男がこっちへやって来る。
俺は美姫ちゃんと並びながら後退りしてると、男は俺達に気づいた。
「見かけない顔だな」
「えっと……」
「どこから来たんだ?服もオレとは違うみたいだ。ここ周辺の村じゃないだろ?」
「あ、あの…」
「ん?女ってことはお前達は番いか?」
「つが、い…?」
「ち、違います!あの!ここら辺で人を見ませんでしたか!?たぶん男女4人くらいの!」
「この森で?見てないよ。オレが森に入って会ったのはお前達だけ」
美姫ちゃんが俺の前に立って男の人と話してくれる。
しかし男は俺達以外は見ていないらしい。
片手に持っている数匹の魚を揺らしながら言った。
「じゃあここの地名を教えてください!」
「地名?ビャッコだ!」
「へ?」
「ん?聞こえなかった?ビャッコだ」
「ビャッコ?」
「ははーん。お前達は噂の奴らか…」
「噂…?」
ビャッコと言われても俺達はピンと来なかった。
そんな地名日本にはないはずだ。
もしかしたら他の県の地区にはあるかもしれないけど、俺達が住んでいる東京では聞いたことなかった。
美姫ちゃんと目を合わせていると、1人で納得した男は魚を俺達に見せて笑う。
「腹減ってない?魚食う?美味いぞ!」
「いや大丈夫で…」
丁寧に美姫ちゃんが断ろうとすると俺のお腹が急に鳴る。
空気を全く読めないお腹だ。
「雅人…」
「ごめんなさい…」
「今から火付けて焼くか!大丈夫!食べたらまた取れば良い!」
「ありがとう」
「すみません」
俺と美姫ちゃんはお辞儀をして男へ感謝を表すと、またニカッと効果音が付きそうな笑顔を見せてくれた。