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消えた君

「いっ!」



私は急な頭痛で目を覚ます。


一瞬で消え去ったが、ものすごく鋭い痛みは頭の奥の方で響き渡っていた。


思わず体を起こして両手で頭を抱えるように抑えつける。


風邪でも引いたのだろうか。


この世界には頭痛薬なんてないから風邪だったら簡単には治らないだろう。


最悪家事などは雅人に任せて……。



「雅人?」



私の呼び声には誰も反応しない。


いつも名前を呼べば「美姫ちゃん?」と言って首を傾げるのに。


隣の方を見れば雅人の布団は間抜けの殻だった。


私の寝床と雅人の寝床は離れているから抜け出しても大きな物音さえ立てなければ気付けない。


それにしても何処へ行ったのだろう。


現在時刻は、朝日が昇り始めて村の人達は既に活動している時間だ。


私は自分の掛け布団を退けて雅人の布団まで行き、暖かさを確認する。



「濡れてる…」



お漏らし……では無さそうだ。


敷布団の上側にかけてしっとりと水分が染み込んでいる。


たぶん正体は汗。


暖かさを感じ取って雅人が起きた時間を計算しようと思ったけど、汗の冷たさのせいで雅人の体温なんて感じなかった。



「雅人〜」



お風呂場に呼びかけても返事無し。


もしかして井戸で水を組んでいるのかもしれない。


雅人のスニーカーも玄関には置いてなかったから。


私は自分のサンダルを履いて、裏口から井戸へと足を進めてみる。



「あら珍しい。今日は美姫が当番なの?」


「おはようございます。雅人を探しにきたんですけど……」



裏の井戸の前には先客が居て少しぽっちゃりした女性だった。


ガラガラと音を鳴らしながら井戸から水を取り出している。


私が雅人の事を聞くとバケツを置いて自分の顎に手を当てた。



「んーー。毎朝ここで会うけど見てないね。私が家からここに来た時も姿は見えなかったし」


「どこ行ったんだろう」


「居ないのかい?」


「はい。家の中で呼んでも返事が無かったので、水汲みに行っているのかなと思って来たんです」


「残念だけど見てないね。もしかしたら男達の誰かに誘われて狩りにでも行ったんじゃ…?」


「私はその話は全く聞いてないです」


「まぁ聞くだけ聞いてみよう。ほら、こっちおいで」



ぽっちゃり女性は水の入ったバケツを片手で軽々持つと私に手招きして村の中心まで連れて行く。


そこら辺を歩いている男の人や子供に雅人の事を聞いてみるけどやはり行方の収穫は無しだった。



「どこ行ったの……」


「美姫、大丈夫だから。案外ひょっこり出てくるさ」



私は一向に出てこない雅人の姿に不安を覚え始める。


まさか寝ぼけてフラフラと村を出てしまったとか?


でも私の中の記憶には雅人はそこまで寝ぼける人ではない。


お腹が空いて1人で魚を取りに行った?


でもまだ土地勘が無いのにそんな無謀な行動をする人でもない。


自分の表情がどんどん曇って行くのがわかる。



「美姫!」


「カルイくん」



元気な声が後ろから聞こえたと思ったらカルイくんが手を振ってこっちに走って来た。



「早いな!おばちゃんと一緒にどうした?」


「カルイ、あんた雅人と何か約束してないかい?」


「約束?もしかしてオレ、何か忘れてるのか?」


「実は雅人が居なくなったの。カルイくんは見てない?」


「嘘だろ……見てねぇ」



雅人が居ないと言う事を知ったカルイくんは眉間に皺を寄せていた。


そのままおばあちゃんの息子さん夫婦が住んでいる家へ走って行くと、大声で何かを喋り始める。


大きく身振り手振りしながら話すカルイくんは数回頷いた後、またこちらへ戻って来た。



「ばあちゃん達も知らないって。なぁ美姫、白の眼の大剣って家にあるか?昨日オレと父ちゃんが作ったやつだ!」


「えっと、わからない。何も見ずに来ちゃったから」


「とりあえず確認だ!おばちゃん!美姫借りるな!」


「こっちも他の人に聞いてみるから!」


「ありがとうございます。よろしくお願いします!」



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