貫かれる頭
「あいつ来たせいで!村が……!あいつは祟りだ!魔物だ!この汚れた人の皮被った者め!」
俺は今、炎上して燃え上がる火の中に立てられた1本の太い木の棒に縛られている人を見ている。
木の棒の下側は焦げ始め黒く染まっていた。
「信じた私達が間違っていた…!」
今叫んだのはいつも村長の裏手の井戸で会話するふくよかな女性だ。
そんな女性の言葉にみんなが同意の声を上げる。
それにリンクするように炎もまた、勢いを増した。
「クソっ!クソっ!」
そう地面を叩きながら蹲り嘆くのはカルイ。
叩くその手は血が滲んでいる。
俺はカルイを止めようと走るが一向に辿り着けない。
その場でずっと走っている感覚だった。
頑張って速度を速めても、少しだけ緩めても村人達との距離は変わらない。
手を伸ばしたって届かなかった。
「………さぁ!その剣でトドメをさすのじゃ!」
おばあちゃんの声が聞こえる。
すると何処からかもう1人の人間が出てきた。
俺が居る場所からは火で顔が隠れて見えない。
すると村人達は一斉に静かになり自身の両手を握って祈り出した。
火で顔が隠れた人間は腕を上げる。
その瞬間、俺の目が大きく開いた。
「白の眼の大剣……」
今日、カルイとお父さんに作ってもらった大剣が振り上げられている。
白の眼は炎の色で血のように赤く染まって、神聖な雰囲気は何処にもない。
そして俺が目を閉じて開けた瞬間、悲痛の叫び声が響き渡った。
そう、殺したのだ。
白の眼の大剣が人を斬りつけて。
俺は膝から崩れ落ちるかのように地面へ座ると徐々に体が薄くなっているのに気付く。
けれど目線は炎上する火の中心に向けられていた。
村人はまだ祈り続けて誰も喋らない。
「そういえば、美姫ちゃんは…?」
俺は大切な存在がこの場面に居ない事がわかり、顔を上げる。
するといつの間にか目の前に白の眼の大剣を片手に持った人が立っていた。
俺は驚き、声を出そうとするけどその人に手で首を絞められて咳しか出ない。
誰がこんなことをと思い、顔を見ようとするが首を絞められたことによって視界が揺れて見えなかった。
そして大剣の鋭く尖る先が俺の額に添えられる。
「汚物よ。地獄へ召せろ」
そう言われた1秒後、俺の額は白の眼の大剣にやって貫かれた。
ーーーーーー
「夢……オチ?」
時刻は朝日が昇る前。静寂に包まれた村。
今の時間帯は誰も外に出てないようで物音1つ聞こえなかった。
俺は布団から体を起こして荒れた呼吸を整える。
背中には汗をびっしょりとかいていた。
周りを見れば囲炉裏やタンスで村長の家だとわかる。
自分の額を触っても傷がないから本当に夢だったのだろう。
でも冷静に考えればそうだ。
状況もわからない中、殺されるなんてあり得ない。
さっさと夢だと自覚して目覚めてしまえばこんなに苦しい思いなんてしなかったのに。
にしても、リアルすぎる夢だった。
「水浴びしよ…」
俺は掛け布団を退かして静かに立ち上がると忍び足で居間から出る。
途中で振り返って美姫ちゃんが起きないかを確認すれば、すやすやと寝息を立てて寝ていた。
自然と上がる口角を誰にも見られてないのに片手で隠して俺はもう片方の手でバケツを持って裏の井戸へ向かう。
道中、裏口を開ける時もそうだが、土を踏む足跡さえ響き渡る気がした。
日中はあんなにも活気溢れて音が混ざり合うのに夜になれば無に還るのだ。
水汲みも静かにゆっくりやらなくてはご近所迷惑になってしまう。
俺は井戸に垂れ下がる紐をギュッと握りしめて慎重に水汲みを始めた。
 




