嫁という名の相棒
「凄い音…びっくりしたね」
「完成の音だ。父ちゃんが剣を完成させたみたいだぜ!」
「ほ、本当か!?」
「ああ!父ちゃん、いつも完成させる最後の一打ちの時はわざと大きな音を出すんだ。職人の魂を込めるためだってな!」
「なるほど」
「カルイくんのお父さんにそういうこだわりがあるのも職人って感じがしてかっこいいね」
「そうなんだ!職人はみんなかっこいい!」
カルイは自分の前に両手を持ってきて拳を縦に振りながら興奮している。
根っからの職人好きと言うことがわかる笑顔だ。
やはりカルイは武器職人を継ぐのにぴったりかもしれない。
こんなにも熱く語れるくらいの好きがあれば職についたってやっていけると俺は思う。
「うっし!完成だ!!!」
のれんが勢いよく上がったと思えばカルイのお父さんが出来上がった剣を片手に持って掲げた。
白の眼を使った大剣は窓から漏れる日の光でキラキラと神々しく輝いている。
俺は立ち上がってこれから共に戦うであろう相棒の剣を迎えにお父さんの元へ行く。
「雅人。これが俺が作った白の眼の大剣だ。受け取ってくれるか?」
「勿論」
カルイのお父さんは俺に大剣の持ち手を突き出す。
その目はとてつもなく真剣で職人の魂が宿っているように見えた。
俺はそんな素晴らしい人が作った剣を両手で自分の物にする。
やはり凄く軽くて持ちやすい。
剣の先を天井に向けて俺は目を瞑って想いを伝えるようにギュッと握った。
「これからよろしくな」
俺の力が剣と共鳴しているように感じられる。
弱い俺の力を、剣が強化しているかのように鋭く輝いた。
「満足してくれたか?」
「本当にありがとう。これ以上にない満足感だよ」
「その言葉が職人にとって1番嬉しい。相棒を大事にしろよ。自分の嫁だと思え」
「よ、嫁?わかった」
「白の眼は軽量にしては強大な攻撃力と硬さを備えている。多少無茶しても壊れはしないさ。まぁ、相棒に無茶はさせ過ぎるなよ。これが俺からの注意点だ」
「約束する」
俺は改めて白の眼の大剣を見る。
その名の通り外見は全て白く染まっていた。
持ち手は所々黒色で染められている場所もありオシャレ感満載。
それに剣と持ち手の境、鍔となる部分にはゴツゴツとした素材で模様が浮き出ている。
「本当にかっこいいよ。鍔の部分の模様が特に目立って強い感じがする」
「私にも見せて。……本当だ。凄くかっこいいね」
「ま、雅人…!!」
「カルイくん?」
「どうした?なんか震えてるけど」
いつの間にか隣に来て剣を見ていた美姫ちゃんも鍔の部分を気に入ったように見入っていた。
そしてカルイはなぜか口を震えさせている。
「どうしたんだ?」
「ハハッ、良かったな。お前が作った鍔の部分をかっこいいって言ってもらえて」
「えっ?まさかこれって」
「カルイくんが?」
俺と美姫ちゃんが問いかけるとカルイは震えた口角の力を抜いて満面の笑みを咲かせた。
「雅人!美姫!オレが初めて家に呼んだ日を覚えてるか?」
「勿論。一昨日くらいのことだよね。確かカルイくんが宴の後に来て」
「でも昨日はまだ秘密って言ってたけど…もしかしてこれのことだったのか?」
「最初は腕飾りにしようと思ってたんだ。でも昨日雅人が剣を欲しがっているのがわかって、オレが作った腕飾りを剣の何処かに付けられないかって思い付いたんだよ!」
「そうだったんだ。カルイ、ありがとう。凄くかっこいいよ!」
「へへっ、照れるやい。…美姫にはこれ」
「えっ私にも?」
カルイは美姫ちゃんの右腕を取ると手製の腕飾りを巻き付けて縛る。俺と同じ素材を使っているのか少しゴツゴツとした飾りが紐に付いていた。
「元々は2人にあげる予定で作ったんだ!雅人はその腕飾りをバラして鍔に。美姫そのまま腕飾りとして使ってくれよ!」
照れた笑いを浮かべて自分の頬を掻くカルイ。
俺は嬉しくなって剣を片手に持ち替えて持ってない方の手でカルイの頭を撫でた。
美姫ちゃんは何度も腕飾りを触って嬉しさを噛み締めている。
「まぁ、初めての作業にしては上出来だ。近いうちに俺の手助け無しで出来るようになれよ」
「わかった!父ちゃん!あっ、なぁなぁ2人とも。その飾りの素材わかるか?」
「「わからない」」
「魚の骨だ!!」
「魚の骨って……もしかして!」
「美姫はわかったか!そうだ!オレ達が初めて会った時に食べた魚の骨だ!」
「カルイ、ずっと取っておいてくれてたのか?」
「言ったろ?動物の骨は魔除けに効くって。2人が魔に取り憑かれないように俺が祈りながら作ったから効果抜群のはず!」
「凄い……思い出とカルイくんの祈りが込もってるんだね」
「実は後でオレの分も作るんだ!そしたら3人でお揃いだな!」
俺は改めて白の眼の大剣を見た。
これにはお父さんだけじゃなくてカルイの想いも沢山詰め込まれているんだ。
大切に扱って、誰かを守るために振るわなくては。
俺は大剣に映る自分の顔を見ながらそう誓った。




