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どっちが鈍感?

「美姫ちゃんはさ」


「ん?」


「俺が居なくなったらどうする?」


「えっ何急に」


「もしもだよ。この世界は元の世界の日本に比べて安全とは言えないじゃん?美姫ちゃん残して俺だけが…って考えちゃって」


「縁起のないこと言わないで。雅人が死ぬなら私も死ぬよ」


「美姫ちゃんはいつも優しいね」


「逆に雅人はどうなの?私が居なくなったら」


「うーん。美姫ちゃんと同じ考えにはなるけど…美姫ちゃんに怒られそう」


「怒るね」


「やっぱり」



美人は怒ると怖いのはもう何回も経験している。


美姫ちゃんの場合たまに物理攻撃も与えてくるから怖さが倍増する。


けれどそこまで痛くしないのは優しさが込められているのを俺は知っていた。



「じゃあ次の質問」


「まだあるの?」


「カルイ達が来るまで」


「しょうがないなぁ」



美姫ちゃんはやれやれと言いながらも俺に体を向けてくれる。



「ずっとこの世界に居ることになったら…何していたい?」


「意外と真面目な質問だね。もっとふざけたの来ると思ってた」


「俺はいつだって真面目だよ」


「ふふっ、そうだね〜」



微笑む姿は本当に天女だと俺は思う。


だってこんなにも美しいのだから。


年下が言うことではないけど、美姫ちゃんには悪い色に染まって欲しくない。


とりあえずアキロ色はやめてほしい。


すると美姫ちゃんは俺の眉間に指を伸ばしたと思えば軽く突っついてきた。



「どうしたの?」


「また何か考えている?シワがやってるからさ」


「え?本当に?」


「雅人はわかりやすいの」


「マジか…」


「表情豊かなのは良いことだよ。それで、さっきの質問の答えだけど……」


「うん」


「雅人は?」


「お、俺に聞く?美姫ちゃんへの質問なんだけど」


「私から雅人への質問」


「質問の主導権が握られてる気がする」


「気のせい気のせい。はい、答えは?」



俺は少しだけ口を尖らせて考える。


美姫ちゃんはそんな姿にも笑って余計に眉間を触っていた。


…話を戻すと、この世界には就職という概念はないから本当に生きるための最低限をやってればいいはずだ。


社会に出ろとか金はどうするとか無関係。


勿論、『働く』というのは農作業や魚取りで概念はあるが。


そして趣味と言ってもゲームもテレビもないから元の世界と同じことは出来ない。


やるとしても土にお絵描きだ。


だとしたら生きるために必要な事は……



「好きな人と、暮らすこと……?」


「えっ」



無意識に出た小さな言葉は美姫ちゃんにも届いてしまった。


ツンツンと眉間を触っていた指が止まる。


俺は我に返って適当に誤魔化そうとするけど、上手く言葉が出ずに顔を熱くすることしか出来ない。



「雅人は、好きな人いるの?」


「いや、その…」


「……」



この流れはまさかと思うけど俺は口を固く閉じる。


開けていたら勝手に出てしまいそうだった。


また想いを伝えて3回目のごめんなさいは俺のメンタル的に辛い。



「雅人?」



急に黙り込んだ俺を美姫ちゃんは心配してくれるけど、俺は顔を逸らして口に力を入れるので精一杯だ。


更に顔が熱くなる気がした。


なんとか目を合わせようと美姫ちゃんは覗き込んでくるけど、俺にとっては厄介な行動で首が千切れるほどに横を向く。


美姫ちゃんが一瞬ため息を吐いた。



「雅人、私は…」



美姫ちゃんはそう言うと俺の頬に手を伸ばしてきた。


少しひんやりした美姫ちゃんの両手が俺の両頬に添えられて顔を無理矢理合わせられる。


俺の目と美姫ちゃんの目が繋がって2人の瞳にはお互いが写っていた。



「美姫、ちゃん?」


「私は…1人になりたくない…」


「それってどういうこと?」


「……鈍感」



その呟きと共に少し冷たい手は静かに離れて行った。


俺は自分の左頬に片手を当てて確かに先程までいた存在を確かめる。


しかし俺の体の体温で、確かな存在の熱は変えられてしまった。



「雅人!美姫!待たせたな!」


「「カルイ(くん)」」


「ん?2人、なんかあったか?」


「何もないよ。カルイくん達の作業は終わったの?」


「今父ちゃんが仕上げをやっているんだ!後はチョチョイのチョイ!すぐに終わるはずだ!」


「そっか。ありがとう。カルイとお父さんには感謝しなくちゃな。もし何か手伝えることがあったら言ってくれ」


「へへっ。良いって。オレ達の中だからな!」



のれんから出てきたカルイは顔を真っ赤にして手拭いて汗を拭きながら俺たちの近くに来た。


そんなになるまで頑張って白の眼の剣を作る手伝いをしていたのだろう。


いつの間にか近かった美姫ちゃんとの距離が離れていて、隣に漂っていた香りは薄くなる。



「お茶は…出てるな!」



お父さんと同じようにお茶を気にしているカルイに美姫ちゃんと俺は何事も無かったように微笑んだ。


そして次の瞬間、のれんの奥から凄まじい音がこの家の中に鳴り響いた。


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