カルイ
村に戻った俺達は真っ直ぐにカルイの家へ向かう。
俺は2回目で、美姫ちゃんは初めてだ。
日の傾きからしてまだ夕方ではないが、時刻で表せば午後の3時くらいだろう。
途中途中、村人に挨拶されながらカルイの家の前に着いて俺はノックしてから玄関を開けた。
「お邪魔します。雅人です」
「美姫です」
「おっ、来たか!早いな!」
ちょうど俺が開いたら奥ののれんからカルイのお父さんが登場する。
汗だくで手拭いを頭に巻いている姿を見ると頑張って作ってくれてるんだと感動した。
それなのに護衛を延期してしまうのは申し訳なくなる。
でもカルイのお父さんならわかってくれるはずだ。
問題はアキロの家にいるおじいさんになんて話すかだけど…。
「もう少し待っててくれ!最後の段階だからな」
「大丈夫。逆にごめん。早く来すぎた」
「ハハっ、遅く来るよりはマシだ。美姫も上がってくれ」
「ありがとうございます」
カルイのお父さんはそう言うとお茶の準備を始めてくれる。
丁寧に美姫ちゃんが断ってくれたけど、そうはいかないらしく素早いスピードでお茶を出してくれた。
「妻がそういうのをちゃんとする人なんだ。ちょっと今は起きれないから別の部屋で寝ているけどな。だからあの人が起きれるようになるまではもてなすのも俺の仕事だ」
「体調が悪いんですか?」
「ある時からな。カルイの姉が居なくなったあたりに」
「あっ、」
「雅人は知ってるか。…まぁ気にしないでくれ。妻が寝ているからって静かにしなくても良い。騒がしい方がかえって気分が良くなるんだ」
俺は出してもらったお茶を飲みながら頷く。
美姫ちゃんは事情を何も知らないので相槌を打ちながらもハテナマークを浮かばせていた。
カルイのお父さんが奥ののれんを潜って居間から居なくなると俺は美姫ちゃんの耳に口を寄せる。
美姫ちゃんも聞く気満々で自分から寄ってきた。
「カルイのお姉さん、行方不明らしいんだ」
「そ、そうなの?」
「村の人からは神隠しって言われてる。おばあちゃんの息子さんの話によれば」
「だからか……」
美姫ちゃんは納得して閉まりきっている1つの扉を見つめた。
たぶん別室はあの部屋だ。
他は開放的に開いてあるのに1番端にある部屋だけ扉がピッタリと閉じていた。
「捜索はしてるの?」
「わからない。でも2年は経ってるって言ってたんだ。もしかしたら……」
「うん……」
それ以上の言葉は口にはしなかったけど美姫ちゃんはちゃんと読み取ってくれた。
俺と美姫ちゃんは話終わると体を離してお茶を飲む。
すると奥の方から金属を叩くような音が聞こえた。
大きく鳴り響く音。
もしかしたらカルイのお父さんはわざと大きな音を出しながら仕事をしているのかもしれない。
そんな中、カルイの元気な声も聞こえてくる。
俺は少し安心しながら、金属を叩く音をBGMにお茶を飲んでいた。




