2人で…
バーベキューが始まって10分ほど経てば、俺は汗が凄かった。
うちわを仰いでいたのもあるし、ずっと火の熱さをダイレクトに感じる場所で食べていたからだと思う。
俺は一旦皿を置いて立ち上がるとタオルを取りに玄関に向かった。
「タオル取ってくる」
「はーい」
タオルはお風呂場の前に置いてあるのですぐに戻って来れるだろう。
本当ならしばらくは部屋に閉じこもって心を落ち着かせたいのだが…。
仕方ない。
俺は1枚のタオルを取ると首や背中を拭き始めた。
これではシャワーを浴びた意味がほとんどない。
バーベキューが終わったらまた浴びなければ。
「あっち〜」
ある程度拭き終わってタオルを洗濯機に投げ入れると人の気配がした。
俺は振り向くけど誰もいない。
気のせいかと思いお風呂場の窓を見ると人影があった。
身長は低めだから父さんやおじさんではないだろう。
場所からしてこの先は倉庫だ。
俺はお風呂場に入って窓をガラリと開けた。
「みっ、美姫ちゃん!?」
「わっ!」
「ごめん!驚かすつもりじゃ…」
「だ、大丈夫」
窓の外にいたのは美姫ちゃん。
ポニーテールで髪を縛っているので顔の綺麗さが際立っていた。
「えっと、何してるの?」
どうしても言葉がしどろもどろになってしまう。
美姫ちゃんも少し気まずそうだった。
指を倉庫の方に向けて俺に言う。
「炭が足りないって。お母さん達は他の仕事やってるし…謙さんは少し酔っ払ってきちゃって…」
「父さん……」
俺は額に手を当てて父さんに呆れる。
まだ始まったばかりなのに酔っ払うとは。
「俺がやるよ。重いかもしれないから」
「大丈夫。私が頼まれたことだし…」
「なら手伝う。そこで待ってて」
俺は窓を閉めてすぐに玄関へ戻るとそのまま美姫ちゃんの場所へと小走りで行く。
美姫ちゃんは壁に背中を預けて待っててくれた。
「ごめん。炭だよね?」
「うん。倉庫にあると思うって」
「たぶんあるよ。こっち」
俺は庭の奥へ案内する。
自分から来てしまって言うのもアレだが早く終わらせたい。
そうすれば2人きりの時間は短くなる。
俺は倉庫へ着くと重い扉を両手で引いた。
「うっ!…ここの扉重いんだよね」
「そうなんだ。手伝おうか?」
「いや!大丈夫!…ふっ!」
俺は力を入れて徐々に小さく開いていく。
最後の突っかかりを越えれば一気に開いてくれた。
これは後で閉じるのが大変そうだ。
「どこにあるかな…」
「あのダンボールじゃない?」
「どれどれ?」
2人で倉庫の中に入って炭を探す。
物が周りに敷き詰められた状態だと必然的に距離が近くなってしまった。
「あった」
「それ1つで大丈夫かな?」
「結構中身あるよ?」
「ならそれをおじさんの所へ持って行こう」
「うん。それじゃあ私が持つね」
「重かったら交代するから」
「わかった」
美姫ちゃんは自分が頼まれたからと言って俺に持たせる気は無いようだ。
そう言うところも好きなんだよな。
俺は少し後ろにずれて美姫ちゃんがダンボールを持つのを待つ。
「あれ?」
「どうしたの?」
「なんか引っかかって…あっ」
ダンボールに何かが重なって取れないらしい。
すると勢いよく引っ張った美姫ちゃんがダンボールと一緒に俺の方によろけてくる。
俺は咄嗟に手を広げて受け止めた。
「……」
「……」
目が合ってお互いに無言になる。
ヤバいと思った瞬間だった。
「「えっ」」
上の方に積み上げられた荷物や道具が一斉に落ちてくる。
俺達は一瞬の出来事で逃げ遅れた。
パニックになった俺は美姫ちゃんを庇うように頭を守ろうとする。
しかし手を伸ばす前に頭に強い衝撃が走り、意識が無くなってしまった……。