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意気地なしの片想い

「…護衛って何するんだろうね」


「さ、さぁ?想像もつかないけど」


「戦うのかな?」


「武器を持つことは、そうかもね」




俺は美姫ちゃんの目を見ずに質問に答える。


すると俺達の間で静寂が訪れた。


2人して黙ってお互いに次の言葉を待つ。


それでも俺は手を止めずに水を汲む。


水の音だけが俺の耳に入ってきた。




「怪我、しないでね」




美姫ちゃんは消えいるような声で俺に言う。しかし俺は弱気な返事を返してしまった。




「…何とも言えない」


「そこはしないよくらい言ってよ」


「ご、ごめん。でも本当に初めての経験だからさ」


「頼りないなぁ…」


「頼りないよ。俺なんか」




ボソッと呟いてしまった言葉に俺自身が驚く。


そんなこと言ったら余計に心配させてしまうではないか。


つい出てしまった本音に美姫ちゃんはどうだろう。


遂に水汲みは終わってしまって音さえ聞こえなくなった。


俺はバケツから美姫ちゃんに視線をずらすと少し悲しそうな顔をした美姫ちゃんが俺を見ている。




「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃ……」


「私が変なこと言ったから。謝るのは私だよ。ごめんね」


「ううん。美姫ちゃんは悪くない」


「……雅人」


「何?」


「私のこと叱っても良いんだよ?」


「何で急に」


「いつも雅人は私のこと叱らない。私が悪くたって自分が悪いからって決めつけるんだもん」


「それは…」


「私だって悪いことはあるの。だから遠慮なくダメなことはダメって言って欲しい」




美姫ちゃんはちゃんと俺の目を見てそう言う。


でも俺はその視線を返せずに下に逸らした。


美姫ちゃんの行動を否定しない理由は自分でもわかってる。


好きだからだ。


嫌われたくないからだ。


しかしそんなこと今言って正解なのか?


自問自答を繰り返してもどうすればいいのかわからない。


もし、あいつなら、アキロならどうするかなんてことも考え始まっている。


俺は口も開かなかった。


そんな時、俺達の空気を破るように村長の家の玄関が音を鳴らす。




「ご飯持ってきましたよ〜!」




息子さんのお嫁さんから発せられた声だった。


美姫ちゃんは慌てて家の裏口に走っていく。


俺は力が抜けて一旦持っていたバケツを下ろした。


家の方からはお嫁さんとの話し声が聞こえる。


助けられた…。




「意気地なし…」




俺は俯いて俺自身に言うように呟く。


ネガティブな弱音は次々に出て来る。




「弱虫、、馬鹿、、気にしすぎ、、」




こんな言葉誰にも言えない。


自分だから言える。


美姫ちゃんには聞こえないから言える。


俺はその場にしゃがみ込んで少し流れた涙を拭いた。




「好きって何で辛いんだろ…」




そう誰かに向けた質問は地面へと落ちて、届くことはなかった。


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