2回目の返事
1秒前に言ってしまったことはもう変えられない。
でも俺に後悔の感情は無かった。
しかし顔を上げられずに俯きがちになる。
2人の表情はわからない。
1番気になる美姫ちゃんの顔も見れなかった。
「それじゃあ俺と雅人クンは敵ってことだ」
「……そうだね」
「美姫チャン、この意味わかるよね?」
「…うん」
「美姫チャンは俺達を選ぶならどっち?」
アキロの言葉に木々の葉が風で揺れる音が大きく感じる。
俺の背中には冷や汗が流れた。
美姫ちゃんはアキロの問いにすぐに答える。
俺と同じように小さな声で。
「選ばないよ…」
ちゃんと俺の耳にも届いたその声。
アキロに対しての恋心が無いと安心すると同時に、俺のことさえも何とも思ってないという今の言葉に絶望した。
2回目の告白失敗は流石に辛い。
それでもアキロは何とも思ってない声で美姫ちゃんに近づいた。
俺は思わず顔を上げてしまう。
「だったら美姫チャンに選んでもらうように俺頑張るよ」
アキロはそう言って美姫ちゃんの左手を取って握った。
その行動に俺は固まってしまう。
美姫ちゃんとアキロは付き合ってないはずなのに、その姿はまるで恋人のように見えた。
俺はそんな2人の姿にまた絶望する。
目を瞑ってしまいたかった。
「俺は美姫チャンに一目惚れしたんだ。美姫チャンが今の俺が好きじゃないなら変わってみせよう。だから覚悟しとけよ?」
アキロは美姫ちゃんの左手を離し、そっと下すと俺の方に向かって歩いてきた。
「俺は本気だぜ?」
俺の耳元でそう呟くとそのまま村の方へ歩いていく。
固まった体は今でも動かなかった。
後ろで美姫ちゃんが歩き出す音がして俺は前を見る。
少し先を歩いていた美姫ちゃんは申し訳なさそうに笑って
「帰ろっ」
そう伝えて、俺を待つことなく歩いていく。
俺は力ない声で返事をすると美姫チャンの足跡を辿るように村長の家へと向かった。
道中、俺達は喋る事なくただただ足を動かしているだけだった。
「美姫ちゃん……」
俺が呟いた小さな声も届かない距離まで離れてしまっている。
こんな時、俺が前を歩く美姫ちゃんの腕を掴めるくらいの勢いがあればと何度も思ってしまう。
それでも踏み出すことは無く美姫ちゃんが先に玄関の扉を開けて家へ入ってしまった。




