守るべき人
「雅人くん、大丈夫か?」
「平気だよ。武器ってどんな感じなんだろうって考えてた」
「まぁ見たほうが早い。おーい、居るかー?」
俺と息子さんはカルイの家に入ると、奥の方から元気の良い声が聞こえた。
一瞬でカルイとわかって俺は笑顔になる。
のれんの隙間から顔を出したカルイは俺達の姿を見ると玄関まで来て出迎えてくれた。
「雅人!それにおじさん!」
「カルイ。遅くなってごめんな?実は俺にもカルイ達に用事が出来たんだ」
「全然平気!あっ、こっちにおいでよ!父ちゃんは今は居ないけど…」
「親父さんはいつ帰ってくる?」
「んー、素材を取りに行ったからな…。わからねぇ…」
「そうか。それなら雅人くん、先に服を頼みに行こう。カルイは親父さんが帰って来たら教えてくれないか?」
「良いけど、雅人もう行くのか?」
「すぐにまた来るよ。だから待ってて」
「わかった!」
カルイは頷くと俺は手を振って家を出る。
息子さんは向かいにある家を指差して入って行った。
その家が服屋…チャラ男家族が住んでいる家だろう。
あいつに出くわさなければ良いのだが。
もし家族も全員チャラチャラしていたら話しづらいな。
俺はチャラ男家族を警戒しながら息子さんと一緒に玄関を叩いた。
「邪魔するよ」
「お邪魔します」
玄関を跨ぐと家の中央にお爺さんが座っている。
その周りにはマネキンのような木に様々な服が掛けてあった。
「村長の倅と坊主か…」
お爺さんは手の動きを止めて俺達を見る。
どうやら今も服を作っているようだった。
少しだけ周りを見たがチャラ男の姿はない。
「実は服を作って貰いたくて来たんだ」
「今は手一杯だ…」
「巫女様直々のお願いだ」
「言ってみろ…」
切り替わりが早いお爺さん。
大抵村人は巫女様の名前を出せば耳を貸してくれるのかも知れない。
いざとなった時のために覚えておこう。
息子さんはお爺さんに巫女様からのお願いを話すと作っていた服を床に置いて俺を手招きする。
「寸法を測る。護衛服となれば、丁寧に作らなければ…」
「よろしくお願いします」
「それなら、俺はカルイの家で親父さんを待つよ。向かい側だからもう場所はわかるだろ?」
「うん。色々と案内ありがとう」
「まだ役目は終わってないけどな。じゃあまた後で」
「また」
息子さんはお爺さんに挨拶して家を出て行くと、俺は寸法を測るために上がらせてもらう。
お爺さんは木の板のような物を引き出しから出すと俺の体に当て始めた。
ずっとむすっとした表情で測っている。
本当にチャラ男家族なのかと疑ってしまうほどに。
「…この服もお爺さんが作ってくれたの?」
「ああ、作る奴が俺しかいねぇ」
「そっか。ありがとう。着心地が凄くいいよ。美姫ちゃんも気に入って喜んでいた」
「そうか。……坊主、お前はこれからどっちを守るんだ?」
「えっ?どっちって?」
「人間が命懸けで守れるのは1人しかいない。巫女様か、嬢ちゃんか、どっちを守る?」
俺はお爺さんの質問に黙ってしまった。
一瞬の間に俺は自問自答を始めるが、そんなのどっちも守りたいに決まっている。
答えは決まっているから即答も出来はずだ。
けれどお爺さんの言っている事とは回答が違くなってしまう。
言葉通りに行けば選べるのは1人だけ。
勿論、美姫ちゃんを守るのは当たり前だ。
一緒に同じ場所から来た人であり、俺の好きな人だから。
でも巫女様は俺を見出してくれて護衛を任してくれた。
それに村人が尊敬して大切に想う存在の1人だ。
守る理由はどちらにもある。
俺が迷って黙っているとお爺さんは俺の肩に自分の手を置いた。
「甘ったれるな。どっちも掛け持ちしようと思うな。お前が人間なら、1人を守り通せ」
「……はい」
「寸法は測った。後は完成を待つだけだ。出来たら孫のアキロに持って行かせる。それまでに決断出来るといいな」
お爺さんは置いた手を離すとまた先程いた定位置に戻って作業をし始めた。
数秒前の苦しい雰囲気とは一変して元に戻っている。
俺は少し重くなったような体を動かしてお礼を言うと家を出る。
すると前の方から男がやって来た。
「あれ?雅人クン。何でここに?」
「えっと、、アキロ…」
「美姫チャンは居ないのか?ああ、もしかして別行動?なら俺ちょっと行ってこようかな」
「あ……」
「なんだよ?」
「いや、美姫ちゃんに会えたら俺はまだやる事があるからって言っててくれないか?」
「まぁ、それくらいならいいぜ。じゃーな」
「うん…」
チャラ男はもう俺を見ずに美姫ちゃんを探しに行った。
それを止める事も出来ずに俺は立ちすくむ。
お爺さんの言葉が俺を止めてしまった。
「どっちを…守るか…」
自分の感情を優先するか。
それとも村人の大事な人を守るか。
初めてぶつかる選択の壁は今の俺には高すぎた。




