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怪しまれる性癖

巫女様の社から村に戻った俺と美姫ちゃん。


向かう先はカルイの家ではなく、おばあちゃんの息子さん達が住んでいる家だった。


昨日のパーティの後、今にもスキップしそうな歩きで帰って行ったおばあちゃんを見たので場所はわかる。


真っ直ぐにおばあちゃんが居る家へ向かうと勢いよく玄関が空いて小さな男の子が走り出してきた。




「うぉっ!」


「わあああああ、怖いよーーー!!」


「な、何!?」


「何があった!?」




泣き喚きながら玄関から飛び出していく男の子はそのまま村の何処かへ行ってしまった。


幸い俺達にぶつかる事はなかったけど、心配になってくる。


あの泣き方からして怒られたか、怪我したか。


美姫ちゃんは眉を下げながら「大丈夫かなぁ」と男の子が走り去った方向を見ていた。


俺は開いている玄関から顔を覗かせる。




「お、おばあちゃん…?」




目の前の居間には怒る男性と正座して頭を下げているおばあちゃんの姿があった。




「どんな状況…」


「雅人、私ちょっと見てくる」


「えっ、美姫ちゃん!?」




美姫ちゃんは居ても立っても居られなかったのか小走りで男の子の方へ行ってしまった。


俺は玄関から中の状況を確認する。


なぜ男の子ではなくておばあちゃんを怒っているのだろう…。


邪魔しないようにと忍び足で玄関から入って行く。




「あいつはまだ4歳だ!怖い話はやめろって言っただろ!?お袋!」


「うう、すまん」


「これで3度目…良い加減やめてくれ…」


「でも、でも…」


「ん?」


「ワシは……ワシはあの子が怖がる姿が好きなんじゃ!!」




顔を勢いよく上げてそう言うおばあちゃんに俺は踏み出した足を外して転けてしまった。


その音で2人は俺の存在にやっと気づく。




「雅人!大丈夫か!」


「雅人くんが何故ここに?」


「いや、おばあちゃんに用があって」




転けてぶつけた足を摩りながら俺は引き攣った笑いを見せた。


おばあちゃんの性格が怪しく感じる。


男の子が泣いていたのはおばあちゃんから怖い話をされたかららしい。


長い前髪で時折鋭い瞳を見せながら話されたら、そりゃ怖いだろうな…。




「ワシに用とは?」


「巫女様からこれを預かって来たんだ」


「巫女様から!」




おばあちゃんはスッと立ち上がると杖をつきながら俺が居る玄関に歩いてくる。


息子さんと思われる男性も後ろでその様子を見ていた。




「ほう…筒で渡してくれるとは。流石巫女様。きちんとしてらっしゃる」


「雅人くん、そんな所に居ないで上がりなよ。今お茶出すから」


「ありがとう。でも大丈夫だよ。すぐに帰る予定だから」


「いやいや。ちょうどお袋の分も注ごうと思っていたところなんだ。まぁ脱線したけどな」


「あははは…」




息子さんの言葉に甘えて俺は靴を脱ぎ、家へ上がらせてもらう。


おばあちゃんと一緒に玄関から囲炉裏の側へと移動した。




「どれどれ…」


「ゆっくり読んでいいからね、おばあちゃん」


「ありがとう。年寄りになると目が追いつかなくてな」


「狩りで動物仕留めてるだろ」


「それとこれとは別じゃ」




おばあちゃんは引き笑いして前髪を少しだけ耳にかけて手紙を読み始めた。


息子さんは俺の前に温かいお茶を出してくれる。


日本に居た頃と全く変わらない味に心と体がホッとしながら頂く。




「そうだ。美姫ちゃんが飛び出して行った男の子を追いかけて行ったよ」


「ほ、本当か?それはすまない事をしたな…」


「………」


「今、お袋は集中して何も聞こえないから後でキツく言っておくよ。美姫さんにも迷惑かけたとなればきっと収まるだろうから」


「おばあちゃんって怖い話好きなの?」


「怖がる子供が好きなんだ。全く、悪い癖だよ。俺も子供の時は散々怖がらせられたものだ」


「村の子供達も大変だね…」


「それでもお袋を村長として慕ってくれるのはきっとその他の面での人柄にあるのだろうな」




息子さんは自分の湯呑み茶碗を持ってお茶を飲む。


息子さんの言葉はおばあちゃんの事を尊敬しているのが伝わってくる。


お茶目な一面もあれば村長としての一面もあるおばあちゃんは素敵だなと思いながら、俺は隣で真剣に手紙を読んでいるおばあちゃんを見ていた。


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