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村の衣装

井戸の水を汲み終えた俺は村長の家へと戻る。


扉を開けると美姫ちゃんが笑って「おかえり」と言ってくれた。


本当に同棲してるみたいだ…。


また余計な考えが浮かんで俺は首を振る。




「お疲れ様。どうする?少し温める?」


「いや、俺はこのままでいいかな。こっちが美姫ちゃんの分」


「ありがとう雅人。次は私が汲みに行くから」


「だ、ダメ!」


「え?なんで?」


「だって…」




井戸の水を汲んでいれば筋肉が付いて男らしくなれるから…という本心は言えずに俺は笑って




「重いから!」




誤魔化すように伝えた。


美姫ちゃんは納得したように頷くと「じゃあお願いしようかな」と甘えてくれる。


もしかしたら好感度上がったかもしれない?


俺は美姫ちゃんが頼ってくれたことに嬉しくなってスキップでお風呂場に行きそうになってしまった。


大丈夫。ちゃんと普通に歩いて行った。


俺は井戸から持ってきたバケツを1つ持ちながらお風呂場に入る。


ちゃんと布で見えないように仕切られているので安心だ。


強い風が吹いたら終わりだけど。


俺は少し低めのドラム缶の中に入って服を脱ぐ。


服の洗濯もちゃんとしなくては。


裸になると水を手で掬って体にかけた。


冷たい水が体にかかり、少し身震いするけど気持ちがいい。


真冬だときっと地獄の冷たさだけど、今の季節にはちょうどよかった。


もっと暑ければ倍に気持ちがいいだろう。


水を体全体にかけ終えると遠くから美姫ちゃんの声が聞こえる。




「雅人ー!そこにあるタオルで体拭いてー」


「はーーい」




俺は側に置いてあった綺麗な布で体を拭くとサッパリした体に変身した。


また同じ服を着るのは気が引けるけど、仕方ない。


俺はさっきまで着ていた服を着ると風呂場を出た。




「気持ちよかったよ」


「なら私も行ってくるね」


「ドラム缶に入った水はどうするの?」


「あっ、それは畑にかかる水にするから取るらしい」


「なら俺取ってくる」


「いいよ。ついでにやっておく」


「でも、俺が浴びた水だよ?」


「平気、平気。雅人は休んでて」


「…わかった」




美姫ちゃんに言われるがまま俺は囲炉裏の近くに座って休憩する。


今も火が音を鳴らして燃えていた。


すると人の視線を感じて俺は周りを見る。


立ち上がって瞬間に玄関がガラッと開いた。




「なんだよ、男か…」




俺よりも背の高い青年が布を片手に持って入ってくる。


なんだか不機嫌な様子で靴を脱ぐと俺に布を渡した。




「これ、着替え」


「あ、ありがとう」


「俺の家は服作ってるから持ってけって」


「そっか。助かる」




俺は服を受け取ってお礼を言うが、青年は不機嫌のまま。


周りを見渡して何かを探すように俺に尋ねた。




「ねぇ、美姫チャンは?」


「美姫ちゃんなら今水浴びに…」


「ふーん。覗いてもいい?」


「ダメに決まってるだろ!」


「わかってるよ。覗いたらきっと村長に殺される。それじゃあ、美姫チャンにもこの服渡しておいて。アキロが持ってきたってちゃんと言うんだぜ?」


「わ、わかったよ…」


「じゃあーな。雅人クン」




青年は靴を履くと手を振りながら家を出ていく。


俺は自然と力が入ってしまった。


こいつがさっきふくよかな女性が言っていた奴か?


チャラいのはどこの世界にもいるらしい。


あんな奴に美姫ちゃんを渡してやるもんか。


俺は青年の後ろ姿を睨みつけてまた座った。


数分後、美姫ちゃんがお風呂場から戻ってくる。


さっきと同じワンピース姿だ。




「さっき誰か来た?」


「服家のチャラ男が来たよ」


「チャラ男?」


「これ、服を届けてくれたんだけど…」


「だけど?」


「美姫ちゃん。あのチャラ男だけは注意して。絶対」


「わ、わかった」




俺がいつも以上に真剣な顔付きで言ったからか、美姫ちゃんは追求することなく素直に頷いてくれる。


これで少しは安心だ。


服を美姫ちゃんに手渡すと、着替えるためにもう一度お風呂場へ向かった。


俺も家の隅の方に移動して服を着替える。


ご丁寧に下着も作ってくれていたらしい。


チャラ男じゃなくてチャラ男のご両親に感謝だ。


……あいつ美姫ちゃんの下着になにもしてないだろうな。


チャラ男に対してのイライラが止まらずに俺は着替える。




「結構かっこいい…」




着替えて自分の服を見ると意外とかっこいい仕様になっていた。


ノースリーブで紺色の布に白色の模様が入っている。


ズボンは全体的にダボっとして、足首の所でギュッと縮まっている。


アラビアンっぽい見た目だ。




「わぁ!凄く似合ってるね!」


「み、美姫ちゃん」




お風呂場から出てきた美姫ちゃんは、色は違えど先程のワンピースと同じような見た目をしている。


それでも似合っていて俺は自然と笑顔になった。




「それってワンピース?」


「見た目はそんな感じだけど、上下で分かれてるんだ」


「そうなんだ。似合ってるよ」


「ありがとう」


「なんか一気に村に染まった感じだ」 


「服って凄いね」




俺達は自分の服を見せ合いながら話す。


チャラ男に対してのイライラが一瞬で消え去るほど、和やかな雰囲気が村長の家からは出ていた。


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