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思春期男子

夜になっても村は明るかった。


小さい子供達は駆け回り、大人達は食事の提供や歌を聞かせてくれた。


俺と美姫ちゃんが主役のパーティは大盛り上がりで、誰しもが笑っている。


そんな賑やかな時間も夜の包みが厚くなって行けば終わりの合図が響き渡った。




「しばらくの間はワシの家の寝床を使ってくだされ」


「おばあちゃんはどうするんですか?」


「ワシは息子の家に寝泊まりさせてもらいます」


「ありがとう。俺達のためにごめん」


「いえいえ。孫と寝れる口実が作れてワシとしては嬉しい限りです。先程、布団を敷かせてもらいましたので後はゆっくりお休みください」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、おやすみ」


「おやすみなさいませ」




おばあちゃんは少し軽い足取りで息子さんの家へ向かって行った。


嬉しいのは嘘じゃないようだ。


そんな様子に美姫ちゃんは微笑んでいる。




「俺達も行こっか」


「うん」




この村で1番大きな建物が村長であるおばあちゃんの家だ。


パーティの時に聞いた話だと1人で過ごしているらしい。


代々村長はあの家を自分の物にする資格があるみたいだ。


自分の夫は2年前に他界したと引き笑いを込めて教えてくれた。




「雅人、美姫!」


「カルイ」


「どうしたの?」




美姫ちゃんと一緒に村長の家に向かっていると後ろからカルイが走ってくる。


自分の役割の片付けが終わったみたいで少し息を切らしていた。




「明日も巫女様の所へ行くのか?」


「うん。でも俺達でも結界が解けるようになったからおばあちゃんを連れてくる必要はない」


「そっか!なぁなぁ、もし明日時間があったらオレの家に来ないか?」


「カルイくんの家に?お邪魔していいの?」


「ああ!父ちゃんが呼んでこいって!自分で言えば良いのにさ〜」


「ははっ、わかったよ。じゃあ巫女様と会った後にカルイの家に行こうかな」


「本当か!?オレの家はあれ!見張り台のすぐ下だ!」


「なら明日お邪魔するね」


「邪魔じゃねぇから安心してくれ!」


「ふふっ」  




俺達はカルイの言葉に笑う。


年齢的には弟になるけど、感覚は友達のようだった。


カルイは伝えたいことが終わると手を振りながら走って家へ帰る。


あれだけ騒いだ後でも元気いっぱいだ。


美姫ちゃんと一緒に手を振りかえすと、俺達も家へと足を踏み入れた。




「お邪魔します…」


「まぁ、人は居ないから邪魔にはならないと思うけど…」


「一応よ、一応」


「にしても広いね」




扉を開けて中へ入ると薄暗い空間だった。


夜だから当たり前なのだが、この村には電気と言うものがない。


今は窓から漏れる月の光で薄っすらと見えている感じだった。




「明日、カルイかおばあちゃんに色々と生活の事を聞いてみようか」


「そうだね。私達はこの環境に不慣れ過ぎるし」


「テレビもない。ゲームもない、スマホもない。でも意外と充実出来そうだね」


「意外にね」


「お風呂は……明日聞こうか」


「しょうがない」


「一晩くらいは大丈夫なはず」


「…私臭くない?」


「全く臭くないよ。むしろ俺が心配」


「どれどれ」




この村ではお風呂をどうしているのかわからないので今日は入れないのが確定だ。


しかし昼間から森の中を歩いて村まで辿り着き、また巫女様に会うために森の中を歩いた。


しっとりと汗をかいてしまったので臭いの心配がある。


美姫ちゃんは俺の近くへ来て臭いがするか嗅ぎ出した。


フワッと美姫ちゃんから良い香りがする。


あれだけ歩いても何故良い香りが放てるのだろう。


俺は勝手にドキドキしながら美姫ちゃんが離れるのを待つ。


話の流れとはいえ好きな人に臭いを嗅がれるのもどうかとは思うが…。




「うん。雅人の匂い」


「臭くない?」


「大丈夫。雅人の匂いだから」


「その匂い自体臭くない?」


「大丈夫だって」




俺の匂いとはなんだと疑問になる。


美姫ちゃんは近づけた顔を離した。


俺の心臓の音が聞こえてないだろうか。


表情を見る限りは心配なさそうだけど、心臓はまだうるさく鳴っている。




「寝よっか。寝れるかわからないけど」


「う、うん」




俺の気持ちを知らずに美姫ちゃんは靴を脱いで、布団が2枚敷かれた場所へ移動する。


しかしここで問題発生。


2人で同じ空間で寝るにしても隣同士はいけない。


俺は慌てて美姫ちゃんの後を追うとぴったりと2枚敷かれた布団を引き離した。




「ま、雅人?どうしたの?」


「俺はこっちで寝る」


「なんで今更。昔はよく2人で寝てたじゃん。同じ毛布被って」


「それは、小学生の時の話だよね!?しかも低学年の!」


「私は別に平気だけど?」


「ダメダメダメ」




好きな人と隣同士で寝るなんて俺には出来ない。


色んな妄想をしてしまうのが思春期男子だ。


しかし、いかがわしい妄想は一切してない。


本当に。




「せっかく広いんだから!」


「そう?」


「俺はこっち。美姫ちゃんはそっちで!」


「う、うん。わかった。そこまで真剣にならなくても……」


「それじゃ、おやすみ!」


「はーい、おやすみ」




強制的に会話を終わらせた俺は持っていた敷布団を美姫ちゃんから離れた所へ落としてその上で寝る。


薄い掛け布団で体全部を覆うようにして丸まった。


美姫ちゃんもゴソゴソと動いている音が収まったので寝始めたのだろう。


正直熟睡までとはいかないけど、俺は寝れそうだった。


ご飯をたらふく食べた後だから満腹になってウトウトしてくる。


目を瞑れば次第に夢の世界へと旅立って行った。


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