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「あっ!来た来た!」


「カルイ。待っててくれたのか?」


「主役がいつ来ても良いようにな!おかげでめんどくさい仕事を押し付けられずに済んだぜ!」


「カルイくん、主役って……」


「雅人と美姫に決まってるだろ!行こう!」




森から出るとカルイが村の前で待ってくれていて、俺達が来るなり手を引っ張って村の中央へと連れて行く。


そこには大きな焚き火とご馳走が並んでいた。


村人は俺達が来るなり拍手で出迎える。


カルイは豪華に飾られたゴザの上に俺と美姫ちゃんを座らせるとおばあちゃんを急いで連れてきた。




「これって…」


「パーティ?」


「だから私達が主役ってこと?」


「流れで言ったら…」 




急な出来事で俺達はあたふたしてしまう。


杖をついたおばあちゃんがゆっくりこっちに来ると2人分の飾りを首にかけてくれた。




「村へようこそいらっしゃいました。異界の雅人様。美姫様。今日は歴史に刻まれる1日目です。存分に楽しんでください」


「あ、ありがとうございます!」


「凄い綺麗な飾りだ…」




俺は首にかけてもらったネックレスのような飾りを持ち上げて見る。


白く光っている石は火の明るさによって輝いていた。




「白の眼と言われる保護石での首飾りでございます。お2人が巫女様の元へ行っている間、そこにいる番いに作らせていただきました」


「綺麗な飾りありがとうございます!こんなに綺麗な飾りは初めて身につけますよ!」


「俺達のためにありがとう」


「いえ!喜んで貰えて何より!」


「私達の真心が込められてますからね」


「凄い…!」




首飾りを手にした美姫ちゃんはこれ以上なく興奮している。


女の子にとってアクセサリーは気分が高鳴る材料なのだろう。


もちろん俺も嬉しいし、感動していた。


何気にアクセサリーは初めてなのだ。


最初がこんなに綺麗な物を貰ってしまって良いのだろうか。




「ありがとう、凄く嬉しいよ」




俺は作ってくれた2人にお礼を言う。


男女はホッとしたように笑った。


すると横からカルイと子供達が出てくる。


小さな腕にはフルーツが乗っていた。




「これ、村の子供達で取ったんだ!」


「雅人様、どーぞ」


「美姫様、これ美味しいです」


「ありがとうございます。でも、私達の事に『様』を付けなくても…」


「でも大人はみんな『様』付けてる…」


「『様』付けないと怒られちゃう」


「んー、でもそんなに偉くないのに『様』はなぁ…」


「日本でも付けられる事はないのにね」




呼ばれるとしても本当に貴重な時しか呼ばれない様付け。


こんな小さな子達に言われるのはなんだか気が引けてしまう。


そんな俺達を見ておばあちゃんはお馴染みの引き笑いをした。




「お2人は敬意を示すのに値します。『様』くらい付けさせてください」


「でも…あ、ほらカルイは俺達の事呼び捨てで呼んでくれるからそれと同じように…」


「あっ!オレ普通に呼んでた!!ごめんなさい!雅人様、美姫様!」


「いやだから、呼び捨てで良いって…」




普通に呼んでくれていたカルイまでも様を付ける。


どうしようかと悩んでいると隣に座る美姫ちゃんが軽く手を挙げた。




「あの、私と雅人は皆さんに助けられました。もしここに居られなかったら今頃暗い森で倒れていたかもしれません。だから、敬意を示すのは私達の方なんです。それに……私は村の皆さんと同じ位置で話をしたいです」


「美姫ちゃん…」




普通に喋っているように聞こえるけど、その言葉には優しさが込められていた。


村人達は美姫ちゃんの言葉に黙り込む。


きっとどうするかを考えているのだろう。


大きな焚き火の音だけが村に響き渡っていた。


そんな静寂を破ったのはおばあちゃんの声だった。




「……美姫のお願いじゃ!新しくして出来た仲間の願いを聞くのがワシらのすることだろう!」


「ばあちゃん…!オレも賛成だ!美姫、雅人!こう呼ぶ!」


「おばあちゃん。カルイくん、ありがとう」




おばあちゃんとカルイの言葉で村人達も納得したように俺達の名前を呼んでくれる。


もう『様』は付けてなかった。


俺は美姫ちゃんの凄さを改めて感じる。


自分の思った意見をしっかり言えるところ。


でも決して否定するのではなく、優しく語りかけるところ。


全てが俺の心をドキドキさせてくれるんだ。


俺とは本当に大違いだ。


たった1日の出来事で自分の無力さを知る事になるとは。


俺は少し俯いて悔しさを感じる。




「雅人!」


「ん?」




カルイの声が聞こえたと思い顔を上げると鼻の前に良い香りが漂う。


向けられた皿に乗せられていたのは大きな肉の塊だった。


こんがりと焼かれていて肉汁が滴っている。




「食おうぜ!」


「…ありがとう!」


「これ、ばあちゃんがさっき仕留めたんだ!」


「え?」


「ヒッヒッ、まだまだ現役ですわい」




おばあちゃんは長い前髪を撫でながらそう言う。


その間に見える鋭い目を見て、俺は少し怖く感じてしまった。


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