四神
「貴方達はどこから来たのですか?」
「日本という国の東京と言う場所からです」
「そうですか。やはり私も聞いたことありませんね。この地方にもそんな場所はありません。他の地方は断言できませんが…」
そう言うと巫女様は立ち上がって奥の部屋から書物を持ってくる。
巻物と1冊の本だった。
どちらも年季が入っていてくたびれている。
巫女様は1冊の本を俺達の前に差し出した。
「カルイから既に聞いてるかもしれませんが、これが読み聞かせの本となります。これは代々巫女に受け継がれてきた物で、ある程度育った子供達に読ませるのです」
「見ても良いんですか?」
「ええ、勿論」
美姫ちゃんは丁寧に本を取ると俺にも見やすいように広げてくれる。
【天は霊獣。これは天から授けられた贈り物の物語】
俺達でも読める日本語で書かれた文章で始まる。
しかし日本語でも意味をちゃんと理解するのには難しい言葉ばかりだった。
頭の良い美姫ちゃんですら首を傾げている部分がある。
なおさら俺はわからない。
「巫女様。このお話は予言書とかですか?」
「それもよくわかりません。先代の巫女もこの本がある意味がわからないようでした」
「それじゃあ俺達みたいな人が前にも来たことあるっていう可能性もひとつだよね?歴史を残す感じで」
「確かにそれは言える」
「はぁ、タイムマシンがあったらな…」
「たいむま…?」
「いえ!なんでもありません!」
俺は両手を前に持って振ると巫女様は疑問を持った顔になる。
流石にこの世界でタイムマシンは通じないだろう。
「巫女様。そちらの巻物は…?」
「こちらは霊獣、白虎様の書物です」
「白虎ってこの地方の名前でしたよね?カルイが言ってた…」
「カルイくん、そんなこと言ってたね。私達は知らない地名だけど」
「地方の名前、ビャッコはこの森の奥に住んでいる霊獣白虎様からお借りしたものです。私は白虎様の世話係の巫女としてここに住んでいます」
「霊獣様の名前が白虎ってことですか?」
「はい。名前の通り、白き虎の神様です。普段は森の聖地と呼ばれる場所にいます。非常に優しくおおらかな性格ですよ」
「白虎って聞くと結構怖いイメージがありますけどね」
「真逆と言って良いでしょう」
神様自体が優しいから巫女様も優しい性格なのだろうか。
俺も白虎は知っている。
ホワイトタイガーのことだろ?
動物園で見たことがあるからわかる。
霊獣様の話は遅れを取らずに自分で納得して頷いた。
ちゃんとイメージは出来ている。
「えっと、この本の通りだと私達は白虎様に呼び出されたということになりますか?」
「実は本には霊獣様と書かれているだけであって、白虎様とは書かれていないのです。もしかしたら他の地方の霊獣様も関係しているかもしれません」
「別の霊獣ってどんな感じなんだろう…?」
「北の玄武。東の青龍。南の朱雀。そして西の白虎と言われています」
「四神…!」
「失神?」
「ししん!」
聞き間違いをする俺に美姫ちゃんは呆れ解説をしてくれる。
玄武とか青龍、朱雀くらいは俺も知っているが四神という言葉は知らなかった。
ちなみに玄武達はスマホゲームで学んだ。
「中国神話に出てくる神様達だよ。東西南北を表している獣だね」
「よく知ってるね。美姫ちゃんは」
「歴史のおじいちゃん先生がそういう話を授業中に教えてくれるの。雑学としてね」
「へー」
確か美姫ちゃんと俺の歴史先生って同じだったような…。
でもそんな記憶ないからきっとここに来たことによって忘れているのだろう。
うん、絶対そうだ。
「お2人の世界にも霊獣様は身近なものなのでしょうか?」
「いえ、全くです。そもそも霊獣という存在は伝説の中と言いますか…」
「なるほど。やはりこの世界とはまた別の物なのですね」
「えっと…話を整理すると俺達は霊獣様のどれかに連れて来られたってわけですよね?そしたら帰る方法とかって…」
「残念ながら本にも書いてありません。この本の物語では霊獣様が呼び出されるとなりますが、理由までは書かれていません。しかしこちらの巻物には詳しく書かれています」
「白虎様の書物にですか?」
「こちらの本は子供向けに書き換えられています。本物はこちらに全て…」
巫女様は巻物をクルクルと解いて広げ見せてくれる。
しかし巻物には何も書かれていなかった。
一面真っ白で文字や絵など1つも書いてない。
何か仕掛けがあるのだろうか?
「これは巫女である私しか見ることが出来ません。ここに書かれている物語を読み上げますね」
「「お願いします」」




