若葉と巫女
おばあちゃん達は奥へ奥へと進んで行く。
すると赤い外装の建物が見えた。
「神社みたい…」
「雅人様、美姫様、こちらが巫女様の住まいの社です。今の時間帯ならここにいらっしゃるでしょう」
「オレ、巫女様に会うのは久しぶりだ!」
カルイはウキウキした声でいかにも楽しみにしている顔になる。
そんなカルイをおばあちゃんが宥めた。
話をしていると社の扉が音を立てて開く。
その瞬間に、そよ風のようなものが俺達の間を吹き抜けた。
「優しい風が吹いたと思ったら…私達の若葉ではありませんか…」
「巫女様!」
「お騒がしくて申し訳ありません…」
「騒がしいなど思ってませんよ。村長、カルイ。よくぞ来てくれました」
「お、オレの名前覚えてて…!」
「勿論。大きくなりましたね。若葉が色付いていくのは私と白虎様の喜び。会えて嬉しいです」
社から出て来たのは赤と白の巫女服を着た女性だった。
真っ黒に染められた髪は腰あたりまであり、上の部分は縛っている。
確か…ハーフアップという髪型だろう。
以前美姫ちゃんもやっていて褒めたら嬉しそう笑って説明をしてくれた。
カルイが言う派手な服は巫女服。
確かに村人達の服装を見れば巫女服は派手に見えるだろうけど、俺達にとっては別に珍しいものではなかった。
「今回巫女様の元は来たのは、後ろの2人の事です」
「ええ。風が教えてくれました。居るはずのない人間が2人ほど紛れ込んだと…」
「と、言う事はこの2人は…」
「異界の者と言って良いでしょう」
「す、すげぇ!オレ、1番初めにお話の人に会っちゃった!」
「神家雅人、石竹美姫」
「「は、はい!」」
突然巫女様に優しい声で呼ばれて美姫ちゃんと一緒に返事をする。
それはまるで学校で出席を取られるときの返事と同じだった。
「2人とお話がしたいです。悪いですが、村長とカルイは席を外してくれますか?」
「かしこまりました」
「……はい」
巫女様は2人に向かって微笑みながらお願いをする。
おばあちゃんは頭を下げて了承するが、カルイは少し納得のいかない声で返事をした。
巫女様はカルイの側に行くと少しだけ膝を曲げてカルイの頬を撫でる。
「また会えます。私はいつだって貴方達若葉の事を見ているのですから」
「わかりました」
「良い返事です。いつも美味しい魚を取ってきてくれるのはカルイですね。美味しく頂いています。ありがとう」
「……!い、いえ!また取ってきます!」
「楽しみにしてます」
カルイは巫女様の言葉でみるみるうちに笑顔となる。
巫女様の言葉の力は凄いなと聞いていて思った。
決して上から目線ではない。
本当に平等を貫いている。
村人の頭が上がらないのは当然だ。
「それじゃあオレとばあちゃんは村に戻ってるな!」
「この道を真っ直ぐ行けば村に着きます。お2人の帰りをお待ちしていますね」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとう。カルイ、おばあちゃん」
「それでは巫女様、失礼します」
「また会える日を」
「さよなら!」
「はい。また…」
俺達に手を振りながら2人は村へ引き返して行く。
巫女様と美姫ちゃんと俺の3人になると辺りが静かになった。
ずっとおばあちゃんとカルイが話していたから余計に静かに感じる。
俺は緊張してきて体が余計に固まってしまった。
そんな様子を見て巫女様は微笑む。
「立って話すのもなんですから、こちらへ…」
「はい…」
「ありがとうございます…」
声からして美姫ちゃんも緊張しているようだった。
巫女様と社の中に入る。
中は机と座布団、そして1枚の布団が敷かれていた。
巫女様という立場なのに質素な場所だ。
本当に最低限の物しか置いてない。
「お好きなところに座ってください」
「失礼します」
「おおっ、ふかふか…」
座布団に座るとふかふかな感触が尻に触れる。
ずっと座っていても尻が痛くならないやつだ。
巫女様は隣同士で座る俺達の真正面に座る。
確認するように見つめると、ふっと顔を綻ばせた。
「私は長い間ここに居ますが、貴方達のような者とは初めて会いました」
「長い間…?あのおいくつで…」
「雅人」
「いだっ!」
俺の脇腹に渾身のパンチがえぐりこむ。
俺はハッとして巫女様に頭を下げた。
普通に口から出てしまったけど、女性に歳を聞くなんて馬鹿がやる言動だ。
それでも巫女様は怒ることなく笑って終わらせてくれた。
美人な上に優しい。
俺は巫女様に怒られずホッとしていると同時に、ザ・大人の女性にドキドキしていた。




