ユフラティスの皇太子
ユフラティスの皇太子、イズミルの近況かな?
イズミルは軍事国家のユフラティス帝国の皇太子だ。
ユフラティス特有の褐色の肌に見事な銀髪、紫の瞳を持つ美丈夫。
大国の皇太子であるせいか、性格は少々傲慢な所もあるが、物事は割と冷静に見ている。
ただ、最近は特定の人物に関しては理性が蒸発し掛ける時もあり、アドリアーナに良くストップを掛けられている。
かなり前からユフラティス帝国とリンデラ王国は、軍事同盟を結んでいるが、軍を否定する貴族が多いリンデラを軽く見ていた。
しかし、10年ほど前からリンデラの軍が変わった。
国境警備が強化され、国内の災害に積極的に騎士達が取り組んでいる為、国民の人気が高まり騎士達だけで無く、兵士達も訓練を軽んじなくなっている。
そんな変化の中、自分がリンデラに留学するかどうか迷っている時、合同演習でユフラティスを訪れていたリンデラ騎士団の団長と話をする事があった。
「リンデラの騎士達の士気が高くなっているが、何かあったのか?」
見違えるほど士気も技術も高くなっている事に疑問を持ったユフラティスの皇帝である父親の質問に、イズミルも内心頷いていた。
「我が国の軍事卿の御令嬢が、剣は研がねば使い物にならないが、剣が抜かれぬ時こそ国は平和である、と」
団長の言葉にイズミルは雷で打たれたような衝撃を感じた。
『辛い訓練ばかりの変わり映えのない日々が、国が平和である証拠だ』
と、訓練に愚痴を言っていた騎士達に言いながら、頭の中で前世では自分よりガチで自衛隊好きの、赤い服を着た男の人に謝り倒している彼女の心情を知らない団長は感心しきりに言う。
「騎士が華々しく戦うのは、国の一大事。国民はそんな事は望んで無い。平凡な日々がなにより大切だ、と御令嬢は教えて下さいました」
軍事力を誇るユフラティスだが、民を苦しめたいわけでは無い。
だからと言って、騎士達の士気が落ちるのは国の威信にも関わる。
「なんと聡明な御令嬢だ」
ユフラティス皇帝はチラッと、イズミルを見た。
「その御令嬢はおいくつですか?」
「イズミル皇太子殿下と同じ歳です」
そうなると自分がリンデラに留学する時は同じ学年になる。
団長の言葉に頷くと、父親にリンデラへの留学を希望する、と伝えた。
噂の令嬢に会ってみたい。
そう思っていたが、会った途端、恋に落ちてしまった。
思ったよりも長くなった。