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身内に言うなよ。

アースワンとイクリスが面白い。

「泣かすなよ」

「泣かせません。ですが、ベッドでは可愛い声で啼いて貰うつもりです」


イクリスの返答に、アースワンが一瞬目を見開いたが


「それを身内に言うな。で、どちらからの入れ知恵だ?」


と、呆れた顔をした。


「双方です。女性は誠実な男を好みますが、真面目過ぎるのは戸惑うそうですから」


アースワンの脱力感が半端ない。

双方とも完璧な存在、と言われているのに。


「お兄様、何をなさっているのですか」


小走りでこちらに向かってくるアレキサンドラを2人は優しい目で見詰めた。


優しいアレキサンドラ。

この世では見たことがない、銀の薔薇のような彼女を守る者は驚くほど多い。


あのアホがきちんと彼女と向き合い、彼女を守る事を決意したなら、あのアホは歴史に名を残すほどの賢王になれただろう。


「視野の狭さと、自分可愛さで失った物の大きさを思い知るがいい」


アースワンの呟きは、イクリス以外の耳には入らなかった。


「お兄様、現役の騎士が訓練生に本気の試合を申し込むなんて、無茶です」


ぷりぷり怒るアレキサンドラが可愛い。

アースワンやイクリスだけでなく、遠巻きにしている訓練生達もアレキサンドラの可愛さに悶えそうな顔を必死に隠している。


「訓練生とは言え、次期辺境伯の者は騎士団としても実力は知っておきたいからな」

「次期辺境伯……。イクリス……さん、本当?」

「またさん付けして。本当です。先日、叔父から正式に養子縁組を言われました」


イクリスの叔父、ノーエ辺境伯様の奥様は体が弱く、初めて授かったお子様が死産で、二度と子を成せない、と言われている。


「おめでとうございます」


辺境伯は領地の無い宮廷貴族よりずっと身分が高く、陛下の信頼も厚い。

騎士団とも親しいが、気軽に話し掛けるのも憚られる身分だ。


「ありがとうございます。それよりも、もっと嬉しい申し出が陛下からありました」


イクリスが本当に嬉しそうな顔で、アレキサンドラを見詰める。


「もっと嬉しい申し出?」

「はい。ですが、正式に発表があるまでは内密に、との事で」


何でだろう。背中がムズムズします。


「アレキサンドラはのんびりしてろ」


お兄様が呆れた顔で、人の頭をポンポン叩くんですが……。

うわー、それを身内に言うなよって感じです。

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