誰の為に、なんて当然……
イクリスのターンです。
もう好きにして、って思いながら数日後、士官学校の訓練場に足を向けると、其処ではイクリスとお兄様が本気の試合をしている。
剣のぶつかり合う音。お互いの真剣な眼差し。本気度合いが半端ない。
「何があったのです?」
近くにいた訓練生に声を掛けると
「ペトリオス第三師団長様が、ロンド自治会長に試合を申し込んできたんです」
お兄様、何をするんです。既に騎士として活躍されている貴方が訓練生に本気の試合を申し込むなんて。
一方的な試合になるだけでしょう。
「ペトリオス第三師団長様が凄いのは想像できますが、ロンド自治会長も互角に戦ってます」
訓練生の言葉に改めて試合を見れば、確かに2人は互角の戦いをしている。
「……やはり現役の騎士には勝てないですね」
イクリスが首に突き付けられた剣先を見ながらため息を吐いた。
「いや、君の実力は同年代の訓練生を超えている」
アレキサンドラの兄、アースワンがにやりと笑う。
「誰の為に強くなっている?」
アースワンはわかって聞いているのだろう。その笑顔がとても黒い。
「愛しい方と、愛しい方が愛する祖国を守る為です」
光の加減で漆黒にも見える紫の瞳が彼女を愛しい、と言っている。
やっとアレキサンドラのお兄様の名前が決まった。