怖い怖い、みんな怖い人です。
アレキサンドラちゃん、頑張れ?
「状況を聞いても良いかしら?」
酷い目にあったミアに根掘り葉掘り聞くのは流石に気の毒と思ったが、当の本人は包帯や湿布を隠そうともしないで、アドリアーナを正面から見詰めている。
「第一王子のアーロン殿下の側近候補でもある、デレク・フォルト宰相令息、トーマス・アインス法皇猊下令息そして商人の息子ナオリスがアタシに暴力を振るいました」
この世界の法皇は結婚できるのか。
と、私が明後日の方に意識を飛ばしていると
「馬鹿3人組か」
ミアの言葉に、イズミルが嫌そうに答える。
「やはり噂は本当だった様ね」
アドリアーナも嫌そうな顔を扇で隠し、アレキサンドラを見た。
「何人かの下級貴族令嬢や令息が被害に遭っていると聞いています」
被害者達はけっして相手が誰か口を開かなかったが、アドリアーナ達は予想はしていた。
いくら権力で口止めや、お金で事実を捻じ曲げていても、犯罪は隠し通せるものじゃ無い。
「そしてそれを悪用して貴女に冤罪を掛け、排除しようとしているらしいの」
アドリアーナの言葉にミアとアレキサンドラが目を見開いた。
「もしかして、アタシを庇ったふりしてペトリオス侯爵令嬢を断罪するつもりなのかも……」
ゲームとリンクする状況だ。
「貴女はあいつらの顔を見たんでしょ」
「いえ、声を聞いただけです」
ミアの言葉にアレキサンドラは一瞬遠い目をした。
ミアさん、前世は声フェチだって言ってたなぁ。
確かに攻略キャラは人気の声優さんだったもんなぁ。
「声だけで相手を特定出来るなんて、素質あるわね」
なんの素質か、なんて聞いたら怖い。
「あ、あの前日にぶつかったり、席を探してくれた時に聞いて、覚えてただけです」
前世の記憶、なんて事言っても信じて貰えないよね。
上手い理由だ。
「そう。でも、相手を特定出来たのは上出来よ」
アドリアーナ様が、なんか遠くなった気がするんだけど気のせい?
「か、可能性では、アタシを裏で虐めながら、庇っているふりしてペトリオス侯爵令嬢に冤罪を掛け、断罪するつもりなのでは無いでしょうか?」
ミアの言葉にアドリアーナ達が頷く。
「貴女、名前は?」
「すみません。アタ……私はアーバン男爵の娘、ミアと申します」
辿々しいが貴族令嬢らしく、カーテシーをするとアドリアーナの目が優しくなった。
「見所はあるようね。わたくしはアドリアーナ・ウィンチェストよ」
「ウィンチェスト公爵のご息女で、こちらはユフラティス帝国皇太子殿下のイズミル様」
「僕はロンド子爵の息子。イクリスです」
アレキサンドラが高位貴族の2人を紹介すると、イクリスは自分から名乗った。
「アーバン男爵令嬢の言っている事は可能性大ね」
思案顔のアドリアーナがアレキサンドラを見る。
「ありえます。あの3人は側近になる為、何かしらの手柄が欲しい。か弱い令嬢を守って犯人を糾弾出来れば王宮内でも受けが良いですし、ね」
特に商人の息子、ナオリスは必死だろうな。
いくら自衛隊好きの変わり者令嬢でも、このくらいは理解してます。
伊達に高位貴族の娘に生まれてないし、家庭教師達から叩き込まれてるんです、処世術ってやつは。
「アーバン男爵令嬢、貴女を利用していいかしら?」
「喜んで」
ミアさん、気安くどっかの居酒屋みたいな返事、しちゃ駄目だよ。
「良い返事ね。気に入ったわ」
アドリアーナ様の方が悪役令嬢っぽく見えて怖いんですが。
……そして
私の戸惑いなんて銀河の彼方に放り投げられ、作戦が組まれて行く。
やめて〜イズミル様がめちゃくちゃ黒い笑顔になるし、イクリスさんまで怖い笑顔になってる。
泣いて良い?泣いて良いよね。
「気に入ったわ。これからは、わたくしを名前で呼んでね」
「宜しいのですか?嬉しいです」
見本が目の前にあるからか、こんな短時間でミアさんの令嬢スキル上がってますよ。
「君は頭が良い。俺の事も敬称付けなくて名前で呼べ。勿論、アレキサンドラもな」
巻き込まれた。大国の皇太子を呼び捨て、無理ですから。
「せめて様は付けさせてください」
「やだ。呼び捨てだと恋人っぽいだろ」
「え〜、様が付いている方が特別っぽく聞こえませんか?」
ミアさん、ナイスアシストって言うべき?
「面白い子ね。ますます気に入ったわ」
何故だろう。アドリアーナ様がミアさんの事、すごく気に入ってます。
「僕は爵位が低いから呼び捨てで、ねっアレキサンドラ様」
イクリス……さん。なに便乗しているんですか。
て、いうか。医務室の前で何してんですか。こう言う会話は室内で……。一応、此処も室内か。
兎に角、どっかの部屋に移動したい。
ヒロインがいい子で良かった、て感じ?




