嫌な予測しかありませんわ。
アドリアーナ様達のターンです。
時間は少し戻るが、アドリアーナ達が医務室から出てきた。
「詳細は彼女から聞くけど、これは見逃せない事案です」
アドリアーナの目が鋭くなる。
「爵位の低いものに対しての嫌がらせか」
イクリスの思案顔を見ながら、イズミルは別の事を考えていた。
「イズミル皇太子殿下?」
何の反応も示さないイズミルに不信感を持ったアドリアーナが声を掛けると
「あいつらの捏造、かもしれないな」
「捏造?まさか、彼女に暴力を振るったのは、アレキサンドラだと思わせる為に誰かが」
「俺たちがたまたま見つけたから良かったが、他の奴らが見つけ、彼女の口からアレキサンドラの名前が出れば、あり得るだろ」
嫌な予測だが、否定は出来ない。
現国王の学生時代の騒動の余波か、高位貴族の令嬢令息は子供の頃から顔合わせをするのが当たり前だったが、令嬢は令嬢だけ、令息も令息だけの集まりになり高位貴族であっても令嬢令息は異性の顔を知らない。
学園に入れば多少は知るが、本格的に顔を合わせるのは成人するデビューの舞踏会からで、高位貴族であればあるほど名前は知ってても、顔を知られないのだ。
アレキサンドラは更に、その知識からペトリオス侯爵が悪用されない様、交友関係を制限していた。
「暴力を振るった者が、アレキサンドラと名乗ればある程度は可能だ。それによって噂を流せば、暇な奴らは食い付くしペトリオス侯爵に反発する派閥はここぞとばかりに噂を拡散するだろう」
貴族社会など、足の引っ張り合いばかりだ。
「訓練がてら其処は調べさせるわ」
アドリアーナの目が据わった。
「えっ?」
流石にイズミルもアドリアーナが言った言葉を理解出来なかった。
「先日、ペトリオス侯爵がまた画期的な案を出して来て、父が採用したの」
アレキサンドラは何を提案したんだ?と言う顔でイズミルがアドリアーナを見ると、イクリスが深く溜息をついた。
「やはりあの提案はペトリオス侯爵令嬢の提案でしたか。叔父が小躍りしながら教えてくれました」
ますますイズミルは意味が分からなくなり、顔を顰める。
「騎士団にも偵察部隊は必要だ、と」
王家直属の諜報部や偵察隊はあるが、それは王家を守るためのもので、軍には無い機関だ。
「不審者の警備や国境警備隊が情報も無く動くのは危険すぎる、とペトリオス侯爵に令嬢が進言されたそうです」
イクリスの説明に、イズミルは唖然とした。
「一介の令嬢が、そこまで考えられるとは思わないんだけど」
「でもアレキサンドラは提案したの。父の彼女に向ける尊敬が加速して凄かったのよ」
ウィンチェスト家は王家の影、と呼ばれる諜報部を配下に持つ大貴族。
「情報は鮮度が命。最新の情報を持つ事で、多くの人の命が救われる、と」
感心しきりのイクリスだが、きっと此処にアレキサンドラが居たら、前世で読んでいた本のお陰です、と小さくなっていただろう。
「そろそろ治療も終わったかしら?」
アドリアーナが医務室のドアをノックすると、中から2人が現れた。
アドリアーナ様がラスボスみたいになっていく。




