女神の様な人
イクリス君はアレキサンドラにベタ惚れです。
「父より学長様に手紙を預かってきました」
美しい声は、うっとりと聴き入ってしまう。
「令嬢自らおいでにならず、メイドに持たせれば良かったのでは?」
そうだ。普通の令嬢なら、自分が出す手紙でもメイドを使うのに。
「士官学校を見たかったのです。いずれ騎士となり、この国を守る方達の学舎ですから」
ペトリオス侯爵令嬢の答えにイクリスの心が震えた。
騎士の地位は以前よりも上がったが、それでも騎士に対して良い感情を持たない貴族も多い。
だが、目の前に立つ令嬢は騎士達に誇りを与えてくれた。
『剣は研がねば使い物にならないが、剣が抜かれぬ時こそ国は平和である』
叔父が良く口にしていた言葉が甦る。
この言葉を最初に口にしたのが、ペトリオス侯爵令嬢だ。
イクリスが感動に震えていると、突然、学長が笑い出した。
「ペトリオス侯爵令嬢、訓練生達の訓練を見学したいのですか?」
「はい。一緒に訓練を受ける事は体力的に無理ですが、皆様の頑張りを自分の目で見たいのです」
こんなに自分達に心を傾けてくれる方が居る。それだけで、どれ程の学生達がやる気を取り戻せるか分からない。
イクリスが泣きそうになっている横で、学長はペトリオス侯爵令嬢に訓練の見学を許可し、いつでもいらして下さい、とまで言っていた。
当然、ペトリオス侯爵令嬢の噂は、士官学校の全生徒が知ることになった。
美しく騎士達に心を砕く優しい令嬢と話をしたがる者は多いが、流石に侯爵令嬢に突撃する者は居ない。
士官学校の生徒は規律正しい生徒ばかりです。