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弟子、アップルパイを食べる

「まぁ、何だ、その時考える。そうだ、地図探してきてくれ。多分机の中のどっかにある。俺は先にアップルパイの出来栄えを見に行くから」


わざと話を逸らしたマージジルマだが、ピーリカは逸らされた事に気づいていない。


「良いでしょう。わたしは心優しいお利口さん、お手伝いも楽勝です。でも先にアップルパイ食べたら許さねーですからね」


ピーリカは彼の座っていた椅子の前に置かれた茶色い机の引き出しを開け、まるで泥棒のように中を漁る。

マージジルマは急いで階段を駆け上がり、アンドロイドの元へ行き。リビングでアップルパイを食べる準備をしていたハニーとチカイに、注意を促した。


「お前らな、うちの弟子に変な事教えんな」


だがアンドロイド二人にはいまいち彼の言葉の意味が理解出来なかった。


「「変な事……?」」

「ピーリカはまだガキだという事を考えて発言してくれ」


変な事を言ったという覚えがないアンドロイド達は首を傾げている。


「ガキ、つまり子供? あたしら何かマズい事言った?」

「もしかして……年齢制限的エラー?」

「あー、それはダメだね。反省するよー」

「なら私達にセクサロイド機能がついてるという話もダメだったのでは」

「あぁー、でもよく分からないとか言ってたし大丈夫じゃないかなー?」

「……ダメみたいよ」


二人の目の前にいるマージジルマは、分かりやすく頭を抱えていた。



 地図を持ってきた弟子は、師匠の前で正座させられているアンドロイドたちをみて疑問に思った。


「ハニーとチカイ、何か悪い事でもしたですか?」


ハニーは悲しそうな表情をしながらピーリカの質問に答えた。


「えっちな言葉を言ってしまったんだー」

「ハニー、それもきっと言ってはいけない事よ」


チカイが忠告するも手遅れだった。マージジルマは頭を抱えている。

口は悪くとも心は幼く清いピーリカは、ハニーの言っている事の意味が分からない。


「師匠は変態なのに、えっちな言葉を言った位でそんなに怒るですか? 師匠おっぱい大好きですよ?」

「えっ、じゃあおっぱい出せば許してくれるかな?」


ハニーは恥じらう様子など一切見せず、服を脱ごうとする。ピーリカとチカイは急いでハニーの腕を掴み、止めさせる。


「うわーっ、何してるですか!」

「そうよ破廉恥だわ!」

「師匠が喜んじゃうじゃないですか!」

「喜ぶの!?」


信じられない、とチカイはマージジルマを軽蔑する。

軽蔑されたマージジルマはピーリカとハニーの頭を軽く引っ叩いた。


「天才の頭に何するですか!」

「あたし精密機械なんだってばー」


怒るピーリカに騒ぐハニー。

マージジルマはピーリカの体をヒョイと持ち上げ、椅子の上に座らせる。ピーリカの目の前には一人分にカットされたアップルパイ。彼女の隣にはマージジルマの分にと切り分けられたアップルパイも置かれていた。残りのアップルパイは机の中央に置かれている。


「うるせぇ、別に胸なんか出さずとも許してやるから、この話はもう止めろ! ピーリカはほら、食え!」

「全く、訳の分からない師匠ですね。弟子のわたしは地図を見つける事が出来てとても素晴らしいですのに……ところで、この地図は何のために探させたんです?」


握りしめていた地図を師匠に手渡す弟子。マージジルマは受け取った地図を広げて見つめるも、すぐに丸め閉じてしまった。


「アップルパイ屋をどこに作るか考えようと思ったんだが、コイツら仕事させる前に色々教え込まないといけない事が多いみたいだから。地図を広げるのは後にしよう」


そもそもピーリカのいない所でアンドロイド達に注意をするために持って来させた地図だ。すぐ使う必要は元々なかったりした。

そんな事とは知らないピーリカは、ジッとハニーを見つめる。


「まぁ一理あるです。良いですかハニー、人前で裸になるのは恥ずかしいことです。変態です。そう簡単に脱ごうとしてはいけないのです。そもそも師匠のようなゲス野郎に見られるなんて嫌じゃないんですか」


いちいち余計な事を言う弟子の頭を、マージジルマは再び引っ叩いた。

ハニーは平然とした態度で答える。


「あたしだって見せたい訳じゃないよ? でも別に乱暴する訳じゃないでしょ? だったら見せた方が良いかなって。あたし怒られたくないもん」

「脱いだら脱いだで怒られる時もあるですよ」

「あれか。年齢制限的エラーになる可能性があるって事か」

「年齢制限……さてはわたしを子供扱いしてるですね? わたしはレディなんですよ」

「うーん。まだ子供っぽいよ?」

「ハニーってば、師匠並みにデリカシーもないですね。気遣いも覚えないとダメですよ」

「難しいなー。ピーリカはデリカシーがあって気遣いも出来るの?」

「当たり前でしょう。天才ですよ」

「へー、すごーい」


ピーリカだって大した事ない、そう言いたかったマージジルマだがこれ以上話を掘り下げたくなくて。


「ダメなもんはダメ。嫌な事は無理にしなくていい事だってある。それだけ覚えとけ。それよりほら、アップルパイ食うぞ。ハニー、うまく出来た自信はあるのか? 味見した痕跡はなさそうに見えるが」


彼女達の興味をアップルパイへと移させる。

ハニーはニッと笑って、得意げに答えた。


「あたしらアンドロイド、食べ物食べられないんだ。だからその味見ってのはしてないけど、プログラムされてるレシピ通り作ったから。多分美味しく出来てるよ。きっと皆気に入ってくれると思うな!」

「そうか、お前ら食えないのか」

「うん。主食は電気よ」


電気を食べた事のないピーリカは好奇心に満ち溢れた子供の顔をしている。


「電気っておいしーですか?」

「美味しいって感覚は分からないねー。まぁ人間には危険なものだと思うから食べない方がいいと思うよ。アップルパイ召し上がれ」


ハニーは手を広げ、アップルパイを指す。

電気の味も気になったピーリカだが、明らかにアップルパイの方が美味しそうだと思い直し。皿の横に添えられたフォークを手に取った。


「分かりました、おいしく食べてやるです。いただきます」


ピーリカがフォークを入れた瞬間、アップルパイはサクッと音を鳴らした。口に運ぶとバター風味のパイ生地に煮詰まったリンゴの甘さが広がり、噛む度に二つの味がバランス良く入り混じる。


「おいしーです!」

「あは、良かったー」


美味しそうに食べるピーリカの様子を見て、マージジルマは机の中央に置かれていた残りのアップルパイを指さした。


「じゃあハニー、残ってるやつ全部一口サイズに切れ」

「一口サイズ? 一ピースじゃなくて?」

「あぁ。今からその辺の黒の民族に配って来い」


師匠の言葉を聞いたピーリカは急いで口の中のアップルパイを飲み込んで。


「何言ってるですか、そのアップルパイはわたしのですよ! 師匠にだって特別にあげてるだけなんですよ!」

「お前だってその一切れ食えば十分だろうが。夕飯食えなくなるぞ」

「今食べなくても明日明後日に残しておけばいいだけでしょう。どうして配るとか言うですか」

「得体の知れない奴が作ったアップルパイが急にバカ売れするとは思えないからな。試食用として配る方が今後のためになる。とはいえ、試食用ばっかりポンポン作る金なんてないからな。ましてやコイら、バルス公国の機械だし」

「師匠も二人の事悪い奴だと思ってるですか?」

「悪い奴じゃあないだろうけど、一歩間違えたら悪い奴になったり悪用されそう」


マージジルマは、だからこそ自立させなければと思っているだけだった。だがピーリカは悪口を言われてるような気がして。


「そんな事ないですもん、ハニーもチカイも良い奴ですもん。そんな意地悪言う師匠に食わせるアップルパイなんてありません。わたしが食べちゃう!」

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