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弟子、アップルパイ作りを命じる

「ううん、バルス公国に戻ったって酷い目に会うだけだもん。だったら同じように大変でも、自分のやりたいようにやりたい。あたし頑張るよ」


前向きな答えを述べるハニー。

チカイはそんな彼女を横目で見ながら、自分の考えを述べる。


「……私は……やりたい事なんてないから。酷い目に会うのが嫌だというのだけはハニーと同じ。それ以外は、出来る事があるならやります、としか」


ふむ、とアンドロイド二人の様子を見るマージジルマ。こいつは金儲けの事しか考えてなかったりする。


「まぁそれでもいい。人間にだって金目当てでやりたくない仕事やってる奴はいっぱいいるからな」

「そうですか……でも、私達に何をして働けと?」

「そもそもお前ら、何が出来るんだ?」


マージジルマの問いに、ハニーはピッと手を上げる。


「はい! あたしはアップルパイ作りが出来ます! あとやった事ないけど、体の構造的には身売りも出来ます!」

「絶対やめろ」


身売りを木の実売りだと思っているピーリカは、何故師匠がそんなに怒っているのかが分からなかった。

マージジルマはチカイの顔を見る。


「そっちは?」

「……私は司令アンドロイドなので、計算したり在庫管理したり」

「それならまぁ、商売人としてやっていけるか」

「そうですね」


商売人がお店屋さんだという事はピーリカにも理解出来た。何だか楽しそう、と完全にお遊びの延長で考えている。師匠の顔を覗き込んだその瞳は、キラキラと輝いていた。


「お店屋さんになるですか? 何屋さん?」

「何がいいかな。何か希望はあるか?」


師弟の質問に、チカイは視線を反らしながら答えた。


「別に何でもいい。身売りは嫌だけど」

「じゃあ自分の好きなものを売ればいいですよ。貴様は何が好きなんです?」


自称天才のピーリカは、すごく良い質問をしたと思っている。だがチカイはどうでも良さそうに答えた。


「何も好きじゃない」

「ならアイス屋さんになれです」

「分かった」


すごく良い提案をしたと思っているピーリカの案に、マージジルマは首を横に振った。


「アイス屋はダメだ、冬場は売上が悪そう。そもそもピーリカがアイス好きなだけだろ」

「じゃあシチュー屋さんとか」

「夏場の売り上げが悪そう。ダメ」

「……チーズ屋さん」

「お前好きだよな、乳製品。でもダメだ」


あれダメこれダメと言われ、ピーリカは頬を膨らませる。


「ダメダメばっかりじゃないですか!」

「どんなに売り上げが悪くとも好きな事なら意地でも続けようとするだろうけど、嫌いな事やら不得意な事ばっかりやってちゃ精神的にも身体的にも長続きしねーだろ。その好きなもんすらないってんなら、確実に売れるもんを選ばないとダメだ」


小難しい話はよく分からないピーリカだが、とにかく売れればいいと思いながらぺたんこな胸を張る。


「分かりました。わたしの素晴らしい魔法でどうにかしてやるです」

「余計な事はするな」

「余計な事なんてした事ねぇです」

「嘘つけ、色々やらかしてるだろうが。例えばどんな魔法を使う気だよ」

「そりゃあ勿論、なんかこう、すごいやつを……」

「何も考えてなかったのに何であんなに偉そうに出来るんだ。そもそも俺達黒の魔法使いだ。呪いしか使えない魔法なのに、店を助ける魔法なんて出来ないっての」

「そりゃ師匠がどんくさいからですよ。天才のわたしならなんとか出来るです」

「誰がどんくさいだ、誰が!」


口喧嘩する師弟。

だが肝心のチカイは、アンドロイドだし人間と比べれば身体的疲労もないから本当に何でもいいのに、なんて思っている。

そんな彼女の肩をハニーが優しく掴む。


「じゃあさ、チカちゃん。あたしと同じお仕事をしよう」

「ハニーと? 得意な分野は違うのよ。何を一緒に出来るのよ」

「そんなの、足りない部分を二人で補えばいいだけ。それなら出来る事は増えるし、何よりチカちゃん、あたしの事大好きじゃん?」

「……どこから来るのよ、その自信は」

「あれ、違った?」

「……別に嫌いだと言った覚えはないわ。バカだとは思うけど」


その様子を見た師弟は冷静になった。別に自分達が喧嘩する事でもないか、と感じて。

そんなピーリカ達に、ハニーはにっこりと笑みを向ける。


「じゃあよろしくね。ピーリカと……えっと?」


ハニーはマージジルマの呼び方に悩んだ。ピーリカが師匠と呼んではいるが、自分の師匠という訳でもない。

彼女の心情を察して、ピーリカが答えた。


「おぉ、そういえばちゃんと紹介してなかったですね。もう一度名乗ってやるです。わたしはピーリカ、天才美少女。こっちは師匠、短足!」


短足と言われたマージジルマは、ピーリカの頭をぺちりと叩き。


「マージジルマ・ジドラ。まぁ好きに呼べ」

「じゃあ師匠さん。あたしはスイーツ製造アンドロイドH2」

「もういい、知ってる。ハニーな」

「そうそう。んで、こちらはH4211‐NR型、通称チカイ。あたしはチカちゃんって呼んでる」

「あっそ。ところでハニー、お前アップルパイしか作れないのか?」

「うん。アップルパイ担当だからね。同じケーキでもショートケーキ担当とかチョコレートケーキ担当とか、ちゃんと決まってたんだ」

「そうか。じゃあケーキ屋は無理か……なら、アップルパイ専門店でいくぞ」

「えっ、いいの? てっきり別のケーキとかも作れるようになれっていうのかと」

「出来るならその方が好ましい。けど、勉強するのにも時間も金もかかるだろ。だったらまずは既に作れるアップルパイだけでいけ。他のが作りたいならアップルパイ作りながら勉強しろ」

「そっか。よーし、頑張っちゃうぞー!」


不安など一切感じていなさそうなハニーを見て、マージジルマは関心する。


「ハニーってのはピーリカ並みにポジティブだな。商売するには悪くない」

「わたし並みですか?」

「だってお前自分の事天才美少女だと思ってるだろ?」

「思ってるっていうか事実ですし……」

「そういうとこだよ」


自信家のピーリカは師匠が何を言っているのか分からなかった。

マージジルマはチカイに目を向けた。


「アップルパイはハニーが作るとして、チカイは金と材料の管理と……接客、出来るか?」

「した事はありませんけど、やれと言われたらやります」


そうは言っているものの、チカイはニコリともしない。どう見てもハニーの方が接客業に向いてそうな雰囲気をしている。

だがマージジルマはチカイに接客が向いてないと最初から決めつける事はなく。


「まぁ出来るのであればやれ。ハニーも一緒にな」


自分達に与えられたオーダーに、ハニーとチカイは同時に頷いた。

そんな彼女達の足元で、ピーリカは偉そうに立つ。


「ストップですよ。お店屋さんをするのは構いませんけど、ハニー、貴様大事な事を忘れてねーですか?」

「大事な事?」

「アップルパイ、わたしに作ってないでしょう」

「あぁ。バルス公国についたら作るって言ってたっけ。結局追い出されたけど」

「でも約束は約束ですよ。わたしが食べてやるんです、光栄に思いながら作りやがれです」


態度のデカい弟子に、マージジルマは呆れていた。


「また変な約束勝手にしてきやがって……まぁ確かに、そのアップルパイがマズけりゃ店だってすぐ潰れるだろうからな。まず味を見る係は欲しい。ハニー、試しに作る事は出来るか?」

「材料と環境さえあればね」

「よし、なら作れ。ピーリカは味見係な」


師匠に重要な役割を任命され、ピーリカは喜んでいる。だがその喜びを子供らしく表現する事は出来ないひねくれもの。


「いいでしょう。わたしが責任もって食べてやるです」


弟子がひねくれものである事を知っているマージジルマが、特に反応する事はない。必要な材料がうちにあるかを確認しようと、彼はハニーに顔を向けた。


「ところでアップルパイってリンゴ以外に何が必要なんだ?」


ハニーはアップルパイ作りの工程を一つ一つ思い出しながら答えた。


「小麦粉薄力粉強力粉、バターにグラニュー糖も欲しいね」

「うちにねぇもんばっかだな。ならお前らまず買い物して来い。で、ついでに店で使えそうなもん見て来やがれ。買うならなるべく安くて質のいいやつな。金は貸してやる」


その言葉を聞いたピーリカは、目を丸くさせた。

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