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師弟、入店する

「汚くねぇっての。それよりほら、リボン切るの再開しろ」

「師匠が邪魔したから中断されたですよ!」

「俺のせいじゃない。一番悪いのはピピルピだ」

「それもそうですね。痴女のせいです」


ピピルピは冷たい視線を向けられても喜んでいた。それどころか少し興奮している。

大き目の氷が入った透明なグラスにコーヒーを注いだシャバは、マージジルマに手渡した。


「ほら二人とも、ピピルピがこんななのはいつもの事なんだから苛めないの。はいマージジルマ、コーヒー。ピーリカも終わったらジュースあげるから、リボン切るの頑張って」

「先にジュースよこせです」


ピーリカの手の内には、まだ半分も切られていないリボンの束。シャバは首を左右に振った。


「全部切るまでダメ。悪い事すると、こうやって辛い目に合うんだよ。うちの国だからこんなので済むけど、他の国じゃもっと辛い目に合うからね。この後ピーリカの入国許可は取るけど、今後はちゃんと先に許可取ってから行ってよ。ただでさえバルス公国の人達は、許可取ってたってイチャモンつけて捕まえようとしてくる奴らなんだから。あと何か持って帰ってくる時も申請して。分かった?」

「だってもう疲れたんですよ。おててが痛くなってきたんですがー」

「うーん反省してないね。仕方ない、ピーリカの身の周りのもの全部燃やす刑に変えよう」

「待てです。二度としませんから。リボンも切ってやるですから、考え直せです」


流石のピーリカも全て燃えてしまうのは困る。そんなにひどい事をされる位なら、リボンを切った方がマシだ。そう判断し、大人しくリボンを切り続けた。

シャバは満足気に頷き、再びハニーとチカイに顔を向ける。


「さてと。手続きするために聞きたいんだけど……その、セニョリータ達は……何に分類されるんだろ。アンドロイドって部類はないからな。危険物ではない、よね」


危険物と疑われ、不服そうな表情をするアンドロイド達。


「アップルパイを焼くだけのために作られたあたしにそんな危険性あるわけないよー」

「その監視をする私にも危険性なんてないわ」


それを聞いたシャバは結論を述べる。


「じゃあ一番危険なのはピーリカって事で」

「聞きづてならねーです。危険的かわいさって意味なら認めますが」

「はい切ってねー」


ハニーとチカイは互いを見つめ、自分達が何に似ているのかを考えた。


「家電とかで良いんじゃない?」

「そうね。似たようなものだわ。家電なら持ち込んでも大丈夫でしょう」


それで良いんだ……とは思いつつも、言葉にはせず話を進めて行くシャバ。


「うん、家電なら大丈夫。なら、ピーリカが家電持ち込んだって事で手配するから。収穫祭には……家電が参加しちゃいけないなんてルールないから気にせず参加して。君らが参加する事に反対する奴がいたら教えてね、潰すから」


マトモそうに見えて言ってる事はなかなかあくどいシャバを、本当にマージジルマの親友なんだなと理解したアンドロイド達。だが自分達にとって彼の提案は好条件。今は黙ったまま頷いておく。


「あとは収穫祭で必要なもの言って。材料とか調理器具とか。会場近くに調理場所も用意しとくけど、限りはあるから当日は他の参加者と共同で使ってね」


必要なもの、と聞きハニーはピクリと反応した。まだ新しいアップルパイのレシピを思いついていないどころか、作るかどうかすら確定していない。それでも。


「あの、どんなものでも言えば用意してもらえる?」

「国内ですぐに用意出来るモノならね。他国から輸入しないといけなかったり、時期じゃないもの頼まれたら無理」


ハニーがした質問に、チカイは違和感を覚えて。


「ハニー、もしかして」

「と、とりあえず今はいつも通りの材料用意してもらおっか!」


アップルパイ作りに必要なものをハニーは次々に述べて行く。シャバは紙とペンを持って来て、それらを書き起こした。チカイはハニーの説明で不足している部分をたまに口挟む程度。

二人がある程度言い終えた所で、ピーリカが自慢の声をあげた。


「終わったですよ! どうです、素晴らしいでしょう!」


普通に切られた普通のリボン。シャバはピーリカの頭を撫でて、にこーっと笑った。


「あぁうん。上出来上出来。じゃあ次、このリボン売ってたお店にお金払って謝って来て」

「何故わたしが! 貴様を召喚したのは師匠ですよ!」

「それもそっか。じゃあマージジルマも連れて行くといい」


空になったグラスを持ったマージジルマは、見るからに嫌そうな顔で拒否。


「何で俺が」

「だって召喚したのお前だろ。それにお金は後で払えばいいって言ってたじゃん。オレはセニョリータ達と話すので忙しいから。何も金出してくれって言ってる訳じゃない、ちゃんと渡すから。払ってきて」

「ピーリカにだけ行かせれば済む話だろうが。絶対行かねぇ」

「仕方ないな。マージジルマの家の金全部燃やそう。一枚一枚、時間をかけて燃やそう」

「悪魔みてぇな提案すんな! ったく。行けば良いんだろ、行けば」


この世で一番金が好きなマージジルマにとって、金を失う事は死と同等である事を意味している。渋々承諾し、その場に立ち上がった。

一方のピーリカは顔を明るくさせ、喜んでいた。二人でお出かけできる。謝りに行くだけだけど。まるでデートだ。謝りに行くだけだけど。

だがその喜びを素直に口にする事はない。


「し、仕方ねぇですね。師匠と歩くなんて苦痛で苦痛で仕方ねぇですが、行ってやるです」

「俺だって行きたかねぇけど……金のためだ。行くか」


マージジルマはふてくされた顔で外へと出て行く。ピーリカは興味なさそうな顔をしつつも、足元では軽やかにスキップし師匠の後を追った。



 外に広がるのは雲一つない青空。それだけなら快適に過ごせたが、ピーリカ達のいた赤の領土は気温が高く空気も乾燥していた。倒れる程の暑さではないものの、ただでさえ背が低く地面に近い上、黒いワンピースを着ていたピーリカには厳しさを感じていた。


「師匠、お洋服買ってくれてもいいんですよ。リボンが売ってるお店って事は、かわいいワンピースも置いてあるかもしれねーです。他にも、わたしにピッタリの素敵なアクセサリーがあったら貢いで良いんですよ」

「無理。自分の金持って来てねぇから」


ちょっとガッカリしたピーリカだが、師匠は仮に金を持っていたとしても服やアクセサリーを買ってくれる性格ではないと分かっていた。


「少しくらい持ち歩けです」

「持ち歩いたら使うかもしれないだろ」

「なんてケチなんでしょう。仕方ない、とっとと用を終わらして帰りましょう。どうせウィンドウショッピングをしても師匠は楽しまないのでしょう」

「当たり前だ。ほら行くぞ」

「全く、ダメな師匠だ」


いつものピーリカなら、この後どんな手を使ってでも師匠と長くお出かけしようとするが、今はあまりの熱さに断念。命がなければ恋も出来ない。恋を諦める気は微塵も無いけれど。

師弟は勢いよくリボンが売っていたという店の中に入り、大声を出した。


「邪魔するぞ」

「黒の魔法使い代表とその弟子ですよ。ひれ伏しやがれです!」

「おら金だ、受け取れ」

「黒マスクのリボン代です。感謝しやがれ!」

「悪かったな。よし謝った。帰るぞピーリカ」

「こんな所に長居する必要ねーですからね。さよなら」


入店時間、三十秒。

あらしのように金を払い去って行った師弟に、店の中にいた者は声をかける事すら出来なかった。



 再びシャバの家へ戻った師弟。


「戻ったぞ。ちゃんと金も払っ……おいシャバ、お前はそれでいいのか」

「いいも何も、いつもの事だし。大人しいからね、別に問題ない」


カーペットの上に座っているシャバと、その膝上に座っているピピルピ。

シャバの向かい側に座っていたアンドロイド二人が呆れた様子で口を開いた。


「このお姉さん、師匠さんの親友が座った瞬間何の言葉もなしにさも当たり前のようにその上に座ったんだ」

「そして何事もなかったかのように話を進められたわ」


皆が自分の話題を口にしている事に喜んだピピルピは、嬉しそうに目尻に涙を溜めた。


「私のために争わないで! 心配しなくても皆の膝上に乗ってあげるから。私は皆の事が大好きなんだもの、選べないわ。争うくらいなら皆で仲良くしましょう!」

「二度と喋るなっつったろ!」


ピーリカも「バーカバーカ」と悪口を言っているがピピルピは気にしていない。

ハニーはハッとした表情になり、想いを口にした。


「それだ……。チカちゃん、師匠さん。あたし作るよ。二つのアップルパイを」

「「二つのアップルパイ?」」


チカイとマージジルマは同時に同じ事を言った。

わたしも師匠と同じ事を言いたかった、と弟子が悔しがっている事に気づいたのはよりにもよってピピルピだけだったりする。

ハニーは大きく頷いて。


「うん。収穫祭で今まで通りのアップルパイと、新しいアップルパイ。どっちも作って、一口サイズに切って、両方を食べてもらって、皆に決めてもらうんだ。あたしもお姉さんみたいに選べないから、だったら両方作る」


ハニーの提案に、乗り気になったのはシャバだった。


「企画ものとしても超いいじゃん、最高。祭り的にも盛り上がるよ。よし、大々的に宣伝してあげよう」

「ほんと!?」

「あぁ。マージジルマも良いだろ? 祭りで作るスイーツの費用なら全部こっちで持つし」


シャバは親友がいかに自分の金を使いたくないかを知っていた。そしてマージジルマも当然といった顔をしている。


「将来的に金になりそうなら何でもいい」

「さっき飲んだのが安物かどうかも分からないくせに」

「バカ言え、コーヒーに関してはちょっとうるさいぞ」

「じゃあ今まで飲んで来た中で一番うまかったのってどんなのよ」

「……缶のやつ?」

「なんて安上がりな奴なんだ」

「違う。もう二度と飲めないような、特別なやつだったんだよ」

「ふーん? ま、それはそれでどうでもいいとして」

「おい」

「その収穫祭、明後日なんだけど。それまでに色々準備出来る? 宣伝しといてやっぱり出来ません、じゃ話にならないからね」

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